湯川洋康「アノ ヒダマリニテ」展が開催されました
2022年4月1日
アーツサポート関西では、2018年に、歴史的にも文化的にも豊かな様相を内包する大阪・上町台地をさまざまな視点から考察し、現代アートとして表現する活動を支援したいという、匿名の寄付者からご寄付をいただき、それをもとに「上町台地現代アート創造支援寄金」を設け、そうした観点で行われる現代アート作品の制作活動を助成してきました。
2020年度から2021度の2年間は、アーティストの湯川洋康さんを支援し、その成果報告として、この度、大阪・北加賀谷の「音ビル」内のTRA-TRAVELギャラリーにて展覧会「アノ ヒダマリニテ」展が、2022年3月12日~3月19日の会期で開催されました。
湯川洋康さんは、ファッションデザイナーとして活動しながら独学で美術を学び、2012年からアーティスト・ユニットYukawa-Nakayasuとして国内外で活躍しています。作品は、文献や聞き取りなどのリサーチをもとに制作され、必ずしも表象として浮かびあがることのない習慣や、歴史に埋め込まれた事象の存在などを、写真や映像、立体物など様々な作品を空間に配置して構成するインスタレーションとして表現します。
展覧会「アノ ヒダマリニテ」は、彫刻家の葭村太一さんとのコラボレーションで行われた2人展で、上町台地を、四天王寺を中心とした宗教的に極めて特殊な様相を帯びたエリアとしてとらえ、そこで古くから人々の暮らしに様々な影響を及ぼしてきた厄災とそれに対して宗教が果たしてきた役割との関係性に着目し、そうした考察をもとに、映像や平面作品などの多様な形態の作品を展示しました。
銅板にエッチングの手法で人の毛髪の束を思わせる多数の鋭い線を刻みこみ、その上にアクリル絵の具で花を描いた「Flower」は、毛髪のイメージと花の形象を重ね合わせた絵画的な作品です。銅板に無数の溝を掘る作業を通して際立つ作家の祈りのような思念と、西方浄土思想と深く関わる四天王寺の西門の鳥居の中から発見された人毛の束がイメージとして結びついており、そこに湯川さんは献花としての「花」の意味を込めています。
この作品からは、作品を制作する作家の祈りのような行為の時間と、太古から今に至る極楽浄土を想う無数の人々の祈りの時間の両方を読み取ることができるように思え、展覧会全体を通して、あらためて上町台地が宿す歴史的・文化的な重みが伝わってきました。
展示風景
Flower (2022)
展示風景