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活動報告

ナナン・アナント・ウィチャクソノ 「インドネシアの影絵芝居ワヤンとガムラン マハーバーラタ ~ カルナの一生」が開催されました
2022年3月17日

 インドネシア・ジャワの伝統的影絵芝居ワヤンの人形遣い、ナナン・アナント・ウチャクソノさんの公演「マハーバーラタ ~ カルナの一生」が、2022年2月23日(水・祝)に、開館まもない箕面市立文化芸能劇場小ホール(2021年夏オープン)で開催されました。
 ナナンさんは、幼少よりジャワの伝統的影絵芝居の人形遣いとして活動し、2010年にジョグジャカルタ州王家から伝統芸能の若き継承者として表彰されるなど、インドネシアの国内外で活躍してきました。数年前に日本に拠点を移し、現在は関西を中心に活動を行っています。
今回の公演では、世界3大叙事詩として知られる「マハーバーラタ」の中から、悲しい運命に翻弄されながら勇ましく生きる戦士カルナの物語をとりあげ、大阪のガムラン演奏集団、ダルマ・ブダヤによるオリジナル楽曲の演奏とともに演じました。
 貧しい御者の息子として育ったカルナは、幼い頃から志高く、立派な武将になることを目指して修行に励み、王家の目にとまるほどの頭角を現します。パンダワ五王子と対立するコラワ百王子の長男ドゥルユダナは、立派な戦士に成長したカルナに目を付け、一国の王として取り立てます。やがてコラワ百王子とパンダワ五王子との確執は大戦争バラダユダへと発展し、激しい戦闘の末、聖なる力を失ったカルナは矢に撃たれ天に召されていきます。御者の息子として育ったカルマの立身出世の物語と秘められた出自の謎が絡み合い、ダイナミックな戦闘シーンのクライマックスへと続く壮大なストーリーが語られます。
 会場の箕面市立文化芸術劇場の小ホールは、小ホールとはいえ、300席とかなり大きく、ステージ中央には照明に照らされた大きなスクリーンが設けられ、その前に客席に背を向けてナナンさんが座ります。楽曲を演奏する十数名の演奏者は、スクリーンを見据え客設とスクリーンの間に楽器とともに位置します。
 舞台では、たった一人の演者であるナナンさんが、手や足の部分が可動する平面的な切り絵のような影絵人形を、下から片手でスクリーンの前に差出し、揺り動かして、人物の複雑なしぐさや情感を表現していきます。また同時に、口元に仕込んだマイクでさまざまな声色を使い分けて登場人物のセリフの語り、一人で動きとセリフの双方を担当する形で物語は進行していきます。
 上演時間は2時間近くに及び、その間に登場するかなりの数の人形を、ひっきりなしに取り換えながら、人形を両方の手で巧みに操り、複雑に状況が錯綜する戦いの場面などを演じるナナンさんの技術の高さにおもわず目を奪われました。人形は、手や足が振り子のように可動するだけのシンプルなつくりで、それを絶妙なタイミングで揺れ動かすことで生じる回転の動きだけで、人物の多彩な振る舞いや心理的な機微を表現する方法に、インドネシアの伝統芸能の奥深さをまざまざと見た思いがしました。
 独特の音階と旋律を持つエキゾチックなガムランの響きで物語を支えるダルマ・ブダヤの演奏も非常にすばらしく、音響の役目も担う音楽を聴いていると、時間と空間を超えた見ず知らずの遠い世界へといざなわれていくような、幻想的な想いにかられました。
 ナナンさんは、現在、インドネシアを離れ、関西を拠点に活動していますが、日本という異なる文化的な文脈において、人々に深い共感と感銘を与える伝統的な芸術表現のすばらしさをこの公演を通してあらためて実感させられたように思います。

公演風景 スクリーンの前で演技をするナナンさん

公演風景 ガムランを演奏するダルマ・ブダヤのみなさん


公演風景 影絵人形を操るナナンさん