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活動報告

【活動報告】一般社団法人HMP「アラビアの夜」(演劇)
2017年6月27日

概要:助成対象の「アラビアの夜」は、2014年に初演され、演出の笠井友仁が平成26年度文化庁芸術祭新人賞を受賞した作品の再演です。原作はドイツの劇作家ローラント・シンメルプフェニヒの現代戯曲。エイチエムピー・シアターカンパニーは、海外の同時代の戯曲の上演にも取り組み高い評価を得ています。

5人のモノローグが絡み合う物語で、セリフのやり取りを軸に展開するストーリーではなく、自己のつぶやきに着目した作風となっています。「語りの演劇」といわれるこの手法は、近年ヨーロッパで注目を集めているもので、俳優が場面・描写も含めて「物語る」という原初的なパフォーマンスによって演劇の役柄が次々と示されていきます。

 

視察報告:会場となったのは、インディペンデントシアター1st。もともと純然たる劇場ではなく、利用する劇団・アーティスト、観客の意見を受け止め、必要な部分、可能な場所から改装を重ね続け、進化し続けているスペースです。進化といえば、この「アラビアの夜」も同様です。2013年4月と7月に原作のリーディングを重ね、翌年11月に上演。当時はAチームとBチームに分かれての連続上演となりました。Aチームは戯曲をあまりいじらず、Bチームでは場所や人物をベルリンから一気に大阪へ移しての演出となりました。これを受けて演出家の笠井氏は平成26年度文化庁芸術祭新人賞を受賞、劇団としても新たな試みの第一歩となったようです。初演から3年、進化を遂げてこの度の上演となりました。今回もチームに分かれての連続上演です。

arabia-74 アラビアチームnight-22ナイトチーム

視察者は「アラビアチーム」しか観劇できなかったのですが、台詞、場所や登場人物は同じであるが視点を違えての演出となり、全く違った作品として仕上がったようです。

役者はステージ中央あたりで、ほぼ動くことはなく、セリフを言い終わっては静止し、次に別の役者が台詞を発するといった演出でした。大道具や小道具はなく、しかしながら、アパートの上階から階下へ降りていく様子や張り巡らされた水道管の様子、部屋の間取りなど、流れる空気までもが役者のモノローグによって克明に描写され、その情景が目に浮かぶようでした。

戯曲自体が現実とファンタジーの境が融解したものであることと、舞台上に何もないという演出が相まって、更に幻想的な仕上がりになり、何とも言えない心地よさが漂いました。(物語はシリアスである)

必要以上に詳細なト書きが、すべてそのまま台詞となって役者が語り、しかもそれが断片的に同時進行で重ねられていく本公演では役者の力量も問われるものになったと思われます。ベテランがそろうアラビアチームはチーム力を、若手中心で組まれたナイトチームではそれぞれの個性が光る公演になったようです。

arabia-41

戯曲そのものも力のある魅力的なものですが、演出家の視点や実験的な試みにより、物語が多面的にとらえられるという演出を一つの劇団が同時に上演するというこの手法は、見せる方だけでなく、観客にとっても今後の演劇の新たな方向性を模索できるものになったと思われます。

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀


助成対象者へのインタビュー


Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

今回は、2014年に上演した『アラビアの夜』を新演出で創作しました。

『アラビアの夜』の作者ローラント・シンメルプフェニヒは自らの作風を「語りの演劇」と呼んでいます。スペクタクルな演出を避けて、俳優の語りに重きを置き、豊かなドラマを象る「語りの演劇」は演じている役(キャラクター)と演じている俳優(プレイヤー)の個性が重なり、虚実入り乱れた世界を作り出します。

2014年の初演時はマンションに見立てた舞台装置を使い、キャラクター同士の関係性やマンション内外の位置を分かりやすく演出しました。しかし、マンションに見立てた舞台装置を設置することで、俳優はキャラクターを演じる時間が比較的長くなってしまいました。

今回の演出は舞台装置をよりシンプルにすることで、キャラクターとプレイヤーの境界線が揺らぎ、虚実入り乱れるシンメルプフェニヒの「語りの演劇」の魅力をより引き出そうと試みました。

 

Q2:お客様の反応

観客それぞれの想像力に委ねることで様々な解釈ができることにつながり、鑑賞者同士で作品を推察するということがロビーでの鑑賞者同士の会話の中やtwitter上で起きました。

アンケートの多くで、面白かったなど前向きな評価をいただきました。また俳優の身体性について、演出についての評価が高かったと思います。

 

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

本来の戯曲の面白さを引き出す演出・演技ができました。また、同じ戯曲をいくつものパターンで演出するというみせ方をすることで、演出の役割や凄さを見せることができ、演劇の面白さや可能性を提示することができました。

そしてSNSで分かったことですが、当劇団の上演をご覧になられたお客様が、ちょうど6月の頭に東京で別の劇団が「アラビアの夜」を上演するという情報をご自身で見つけられ、その公演にも足を運ばれました。当劇団の公演をきっかけに、他の劇団や作品、演劇全体により興味を持っていただいたようです。

私たちが目指す1つとして、現代演劇の知識の有無に関係なく、より広く演劇に馴染みのない人にも、演劇の面白さを伝えるということが達成できたと思います。

メディアへの掲載ですが、日経新聞 夕刊(2017年4月12日)やテアトロ6月号(2017年5月13日発売)に劇評が掲載されました。

 

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

関西は特に海外の現代戯曲が上演されることが少なく、また広報の問題もありますが、なかなか観客動員が難しいです。今回、助成金を得られたことで、前回文化庁芸術祭の新人賞(演出)を受賞し、評価も高かった作品を再演し、広く告知することができ、特に若い世代の方々にご覧いただくことができたことが大きな成果でした。また、パトロンプログラムで劇団のことを知らない方々にもご覧いただけました。

そして公演前にASKの助成金をいただけたことで、経済的な心配をあまりせずにいられたことで、創作に力を注ぐことができ、新たな演出での上演がうまくできたと思います。

 

Q5:今後の展望

劇団のミッションである「再発見」を軸に、よりよい作品を創作し、届けるだけでなく、演劇を親しんでくださる方を増やすための取組やそれを意識した創作・上演を行っていきたいと思います。

例えば、同じ戯曲を、演出を変えて上演することで、演出の可能性、戯曲の魅力、そして俳優の凄さを届け、演劇の魅力や楽しさを伝えていきたいです。

 

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

公演前に助成金をいただけるという取組は今後も続けてほしいです。

直接的なお金の援助だけでなく、場所の提供などお金ではない支援の可能性もあるのかなと思います。レポートしていただくというのも1つの支援のあり方でとっても素敵だと思いますので、大変だと思いますが、今後も続けてほしいです。

 

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

私たちにとって1番嬉しいのは、やっぱり作品を観ていただくことです。観ていただき、色んなご意見をいただけたらそれが励みになります。

そして気に入ってくださったのであれば、どうか演劇の愉しさを広めていただけると嬉しいです。