堤拓也 「余の光/Light of My World」展が開催されました
2021年12月14日
昨年度からASKが支援するキュレーターの堤拓也さんが企画した展覧会「余の光/Light of My World」が、京都府の福知山駅前にある、かつてパチンコ店だった旧銀鈴ビルの1階と2階にて、10月8日~11月7日の会期で開催されました。この展覧会は、京都府が府内のさまざまなエリアを会場にしておこなうアートフェスティバル「ALTERNATIVE KYOTO もうひとつの京都」の一環として開催されたもので、19人の現代美術アーティストたちの絵画や平面(映像)などの様々な作品が、照明が落とされ独特の趣が漂う空間に展示されました。
本展を企画したインディペンデントキュレーターの堤さんは、1987年滋賀県生まれで、ポーランドの大学でキュレーションを学び、滋賀にある現代美術アーティストたちの共同アトリエ「山中Suplex」を拠点に活動しています。昨年、山中Suplexを会場に、クルマにのったままドライブスルー形式で鑑賞する展覧会「類比の鏡/The Analogical Mirros」(ASK助成対象事業)を開催し国内の現代美術界で大きな話題となりました。来年開催される、愛知トリエンナーレの改訂版「国際芸術祭 あいち2022」ではキュレーターのひとりに選ばれています。
本展のタイトル「余の光/Light of My World」は、新約聖書のマタイによる福音書第5章にあるイエスが弟子たちに向けて語った言葉「あなたがたは地の塩、世の光である」からとられています。あなたがたは光を放ちながら世を照らす存在であると述べたこの一節から、アーティストとは、自らの行いによって世を光で照らし出す存在である、というイメージを着想し展覧会に取り組んだ、と堤さんは述べています。人はなぜ芸術を必要とするのか?本展は、当たり前のこととして普段あまり意識することのない、こうした根源的な問いかけを私たちに投げかけます。それは、コロナ禍における芸術活動の意味を考える上でも大切な問いであるように思います。
会場の旧銀鈴ビルはJR福知山駅前のロータリーに面した商店街にあり、駅前でありながらほとんどの店舗のシャッターが閉まった状態に地方都市の厳しい現実が伺えます。展覧会はビルの1階と2階を会場とし、階段であがった2階から始まります。2階は床と壁と天井だけが残されたがらんとした空間でパチンコ店であったおもかげは全くありません。暗がりの中、作品が展示された一角がスポットライトで明るく照らされており、ところどころ小さなサイズの平面作品が3~4点くらいまとめて展示されていて流れのリズムを生み出しています。
トンガ出身の画家によるコラージュをベースにしたグラフィカルな作品(タニエラ・ペテロ、テヴィタ・ラトル)や、亡くなった息子と妻の想いを胸に公務員を定年退職後、美大に入り直して絵を学んだ画家による素朴ながらも力強い作品(小笠原盛久)、東北の廃村の家屋を絵の具を積み上げるように描いた、小さい画面にずっしりとした重みが感じられる作品(後藤拓朗)など、大きな脚光をあびることなく誠実に制作に向き合いつづける作家たちの作品が並びます。
2階の1角には大きなスクリーンが設けられ、パキスタン出身の作家ヒラ・ナビさんの映像作品が映し出されています。パキスタンの海辺の貧しい街に運ばれてきた巨大なタンカー。その大きな鋼鉄の塊が貧しい人々の手によって解体されていきます。流出する重油が自らの体から流れ出る血として海洋を汚染していくことを憂うタンカーの声が、廃墟となった元パチンコ店の空間に響き、その周辺の福知山駅前のシャッター商店街の物悲しい現実を浮かびあがらせるようです。
1階に降りると会場の雰囲気はガラリとかわり、静寂につつまれた暗がりの中、古びたパチンコ台が何列にも並び、その合間に作品が展示されています。
石や塩などの鉱物を手掛かりに人間が形作る文化を浮かび上がらせる石黒健一さんは、福知山近郊の山頂に電力会社が設置した通信用マイクロ波反射板に人の手を映し出すことを試み、その様子をとらえた薄暗い16mmフィルムの映像を展示し、陶芸家の坂本森海さんは、ずらりと並ぶパチンコ台と祈りの場としての祭壇を類比し、陶芸で中央アジアの石窟寺院を彷彿とさせるような3連の折り畳み式の移動式祭壇を作りパチンコ台の列の中に置いた展示を行いました。
とりあげられた作家たちは、現代美術ではあまりなじみのない国の出身であったり、退職後に画家となるなどの特殊な経歴であったり、あるいは年齢が若いためにあまり知られていなかったりと、これまで人々の目に触れられる機会が限られてきた方々が多く含まれていた印象を持ちました。そうした作家たちが、アーティストとして「世の光」となるべく、その使命を寡黙に果たしていく姿が、展覧会全体を通して感じられて、あらためて芸術が私たちに果たすべき役割について考える機会となりました。
「余の光/Light of My World」展の会場となったJR福知山駅前の旧銀鈴ビル
展覧会風景(2F)右の6点の絵画は本田大起の作品
中央の絵画は小笠原盛久の作品、両側の2点は堀内悠希の作品
トンガ出身の作家タニエラ・ペテロの作品
パキスタン出身の作家ヒラ・ナビの映像作品「All That Perishes at the Edge of Land」
後藤巧朗の作品「米沢の家」(左)、「大滝宿」(右)
展覧会風景(1F)元パチンコ店 旧銀鈴ビル1階
石黒健一の作品「Monstration」福知山近郊の三岳山にあるマイクロ波通信用の反射板。そこに手のイメージを投影した。
坂本森海による陶芸の作品「Praying room」
小宮太郎の作品「輪切りにされた光(たまにホロレチュチュパレロ)」黄金に輝くユダヤの象徴ダビデの星(六芒星)の巨大なオブジェがゆっくりと回転する