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活動報告

【活動報告】特定非営利活動法人劇研「走りながら眠れ」(演劇)
2017年6月27日

H28年度 助成対象事業・視察報告

特定非営利活動法人劇研「走りながら眠れ」

概要:特定非営利活動法人劇研は、スペースの運営をディレクター(芸術監督)が中心となって行う体制をとっており、2014年より、劇作家で演出家のあごうさとしが就任しています。

助成対象となっている公演は、平田オリザ作、あごうさとし演出による「走りながら眠れ」で、大正時代のアナキスト、大杉栄とその妻の伊藤野枝の最期の2か月間を描いた会話劇です。演ずるに難いこの作品を、あえて俳優ではなく2人のダンサーが演じるという、実験的なものになりました。

 

視察報告:会場となった「アトリエ劇研」は1984年に館長・波多野茂彌の自宅を改装し「アートスペース無門館」としてオープンした小劇場で、京都小劇場の草分けとして30年以上にわたり多彩な舞台人を多く輩出してきました。

今回の公演については、あえてダンサーである2人を起用し、しかも会話劇として成立させていくという、興味深いものでした。

演出を手掛けるあごう氏も公演前に「ダンサーの身体表現を目指すのではなく、ダンサーの身体を資源として、粛々と、会話の演技でたちあげてみようと思う」と述べていました。

さて、幕が上がり、本来ダンサーである2人の「芝居」が始まりました。

特に何が起こるわけでもなく、静かに淡々と物語は進みます。舞台上の2人はダンサーであるにもかかわらず、いわゆる身体的な技術を用いた表現は一切なく、ただただ会話が繰り返されるのみです。

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当時とても異質な人物として周りから見られていたであろう舞台上の大正時代のアナキストとその妻の様子がとてもほほえましく描かれ、キュートで愛おしく思いました。川瀬演じる伊藤の目には時折鋭さも覗き、不思議な距離感がある2人の関係性や不穏な社会の空気が示唆されます。

 

特に細かい演出や台詞回しなどがあるわけでもなく、日常が繰り広げられているだけにも関わらず、人間性を掘り下げていくような表現ができたのは、実は、ダンサーの身体の所以なのではなかったのだろうかと思いました。ゆるぎない身体であるからこそ、そこから発せられる台詞が、時には鋭く、時には柔らかく、しかし同時にはっきりと観客に届けられ、微妙な感情のゆらぎまでもがそれに連動し伝わってくるからではないでしょうか。

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最近、ダンサーが俳優として芝居に登場するということはしばしば目にしますが、これほど、ダンサーらしくなく、しかし実はダンサーらしい(身体が作られていないとできない)演出に、今後の演劇の可能性を感じました。

アーツサポート関西 事務局 柳本 牧紀


助成対象者へのインタビュー

助成対象者へのインタビュー NPO劇研/アトリエ劇研 あごうさとし 長澤慶太

Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

この度は、出演者にダンサー2人を起用したため、稽古は2015年11月から開始しました。できうるかぎり入念な稽古を重ねて、通常の俳優が演じるものと遜色のないように努力を重ねました。この取り組みを下敷きに、ダンサーの身体を応用した新たな演劇作品がつくられるよう努力を重ねたいと思います。

Q2:お客様の反応

動員247人のうち、36枚のアンケートを回収。

概ね好評を頂いたように感じます。以下、2つ引用します。

「ひきこまれました。本当に2人が生きているのを感じました」

「会話がスムーズすぎて、日常ってそこまで大事か?とおしつけがましさというか、気持ち悪さを憶えました」

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

継続的な目的として掲げているダンサーを俳優並の技術をつけさせるという点において、今回の2人のダンサーは一定の成果をだしたと思います。ロボット演劇の経験で得た演技プランの可視化は、演技指導の具体化として実践の場で応用が可能であることを確認できました。

メディア掲載

ステージナタリー

http://natalie.mu/stage/news/210542

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

3つ揃えの白いスーツを仕立てたり、古い美術道具をそろえられたり、本物でないとクオリティにかかわるものをそろえさせて頂けました。おかげさまで、極めてシンプルな舞台空間を創出することが可能となりました。

Q5:今後の展望

継続的に創作している無人劇と連動させながら、ダンサーと俳優のプロジェクトチームをつくり、テーマとしてる「純粋言語」「純粋身体」という概念を具体化していきたいと考えています。次回は本年7月にダンサーと俳優の混成チームによる「リチャード三世」を上演予定です。

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

個別の事業助成をいただけるだけでも大変ありがたいのですが、わがままを申し上げますと、複数年にわたる劇場への直接助成という枠をいただけると大変ありがたく思います。

企画の段階から、共同で立ち上げていけるような仕組みもあるとありがたいです。

今夏、アトリエ劇研は閉館いたしますが、新たに東九条地域に100席サイズのスタジオを設立できないか、目下挑戦をつづけております。小劇場は、舞台芸術における創造環境の最も基礎的なインフラであるかとも思います。今後とも、ご指導をいただけますれば大変有り難く存じます。

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

寄付をいただいておりまして、本当にありがとうございます。願わくば、各上演にも可能な限り足をお運びいただけますと大変嬉しく存じます。また、上演の機会以外にも、サポーターの方、事務局の皆様方とも、お会い出来たり交流を持たせていただけるような場を与えていただけましたら、大変有り難く存じます。