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活動報告

【活動報告】日本電通メディアアート支援寄金(メディアアートへの助成活動)
2019年5月17日

アーツサポート関西は、2018年度、関西におけるメディアアートの振興と発展を目的とした「日本電通メディアアート支援寄金」より、関西を拠点に活動する3組のメディアアーティストに対し、総額100万円を作品の制作費支援として助成いたしました。

「日本電通メディアアート支援寄金」は、1947年に大阪市阿倍野区で創業した日本電通株式会社が同社の創業70周年を記念しアーツサポート関西に設けたもので、情報通信インフラストラクチャ―の構築や情報通信テクノロジーに関わる様々なソリューション開発などを行う同社の取り組みと深く結びつく、いわゆるメディアアートの可能性の拡大や新たな展開の促進を目的としており、関西で活動するメディアアーティストを対象に2018年から21年にかけて総額300万円の助成を予定しています。
メディアアートは、情報通信テクノロジーなどの新しい技術やそれによって生み出されたデジタル機器などを使用し新たな芸術表現を創造しようとするもので、近年のICTやインターネットの急激な進展とともに芸術そのものを拡張する可能性を秘めたものとして大きく注目されています。

助成事業の開始に先立ち、「日本電通メディアアート支援寄金」の発足に関して、2019年3月20日、大阪市中央区のグランフロント大阪内のナレッジキャピタルにて、日本電通をはじめアーツサポート関西やナレッジキャピタルの関係者らが参加し、記者発表を行いました。また、それに引き続き、日本を代表するメディアアーティストの明和電機代表の土佐信道氏、大阪大学の准教授でアーティストでもある安藤英由樹氏、美術ライターの原久子氏をお招きしてシンポジウムを開催し、メディアアートの現況や今後の課題などについて事例紹介や課題の提起などが行われました。

記者会見の様子 2018.3.20 会場:ナレッジキャピタル 記者会見の様子 2018.3.20 会場:ナレッジキャピタル

昨年度の助成では、5月1日~6月31日にかけて、公募で申請を受付けたところ13名の応募がありました。メディアアートは技術的に高い専門性が介在する分野でもあるため、情報通信テクノロジーを研究する大学の研究者などが集まった専門家集団Vislab Osakaの協力もいただだきながら選考を行った結果、三原聡一郎、林智子、林勇気&SJQの3組のアーティストに、それぞれ20万円、30万円、50万円を支援することとなりました。

三原聡一郎が手掛けた作品《moids ∞》は、京都の古い家屋を利用した会場「瑞雲庵」で三原自身の企画で開催された展覧会「空白より 感得する」(2018年10月13~11月11日)において展示発表されました。会場の一角にある古い蔵の天井から、雲を想起させるような形状に組み合われた数百におよぶ小さなデバイスが吊り下げられており、その一つ一つが音に反応して小さなスパークを発するようになっています。一つのデバイスが音に反応して青白いスパークを発光するとその破裂音が他のデバイスのスパークを誘発し、それが次々と連鎖反応を起こすことで、デバイスの雲の内部でパチパチと音をたてながら、おびただしい数の青白い光が明滅していきます。音と放電という原初的な物理現象に依拠した作品ではありますが、電子が演じるアナログな視覚性が、古民家の趣のある空間の中で、幻想的な光景を醸し出していました。

斎藤一樹+三原聡一郎《moids ∞》(2018) 斎藤一樹+三原聡一郎《moids ∞》(2018)

林智子の作品《Psyches》は、台湾で開催されたメディアアートのフェスティバル「Taoyuan Art and Technology Festival2018」(2018年9月27日~10月14日 桃園市、台湾)で展示されました。林は、人と人との感情や感覚の交流に興味を持ち、そうした人間の深部とつながるコミュニケーションの有り様をテクノロジーを駆使したメディアアート作品として表現しています。助成を受けて制作した《Psyches》は、一つの空間に配置されたテーブルと1対の椅子、2つのiPhone、そしてiPhoneから部屋全体を這うように配された光ファイバーケーブルで構成されています。作品を体験する参加者(恋人同士が理想)は2名ペアとなって椅子に座り、お互いが見つめ合います。その二人の眼の表情をiPhoneが捉え、解析し、そこに心の律動や共振が生じると、光ケーブルの中で二色の光が混ざり合うように発光し、二人の温かな心の律動や揺らぎを展示空間に響きわたらせます。芸術は古来より愛や感情を伝えてきました。林は絵具やキャンバスの代わりにテクノロジーを使ってそうした表現を行っています。

林智子 《Psyches》(2018) 林智子 《Psyches》(2018)

映像作家の林勇気と前衛的な音楽集団SJQがユニットを組み、2者のコラボレーションとして制作された作品《遣り取りの行方》は、コンピューター上の仮想空間内で人工生命体を生成させ、それらが自律的に生成維持されていくプログラムとその様子を表示する装置からなる作品です。展示は大阪市西区のレトロビルディングとして知られる細野ビルヂングで2019年4月14日~21日に行われました。人工生命体を生み出すのは一般の観客で、SNS上の作品アカウントに自分の写真を送ると、プログラムによってイメージが点と線のパターン化され、それが仮想空間に飛んで人工生命体となり、自身の生を紡いでいきます。仮想空間は観客の記憶を引き継いだ生命体にあふれ、その中で自ずと捕食する者と捕植される者との関係が生じ、また一方でそれを生き抜くための生存戦略が生み出されるなど、その中で独自の生態系が自律的に発生し、そして進化を遂げていくこととなり、見る者を驚かせました。

林勇気+SJQ 《遣り取りの行方》(2019)

P1010399 林勇気+SJQ 《遣り取りの行方》(2019)

メディアアートは専門的な技術や知識を必要とするため、作品の制作には多くの制約がかかります。しかし、その一方で情報通信や映像処理技術の急速な発展にともない、芸術表現としての可能性は大きく拡大し続けています。まだ一般にあまり広く知られていない分野ではありますが、「日本電通メディアアート支援寄金」の取り組みのように、企業がその支援に直接関わっていくことで、メディアアートをめぐる環境が向上していくのではないかと感じました。