「Positionalities展」が開催されました
2022年8月31日
アーツサポート関西のクラウドファンディング助成で支援した現代美術の展覧会「Positionalities展」が京都にある京都市立芸術大学@KCUA(ギャラリーアクア)で、2022年7月30日~8月28日の会期で開催されました。
Positionalitiesという少し聞きなれない言葉ですが、英語で、「さまざまな立場」といった意味になります。この展覧会は、⾦光男、⼭⽥周平、東恩納裕⼀の3名の現代美術アーティストによる作品によって構成された展覧会で、作家それぞれが持つ、作品を制作する際の世界との向き合い方や視点の置き方の違いなどについて、観る人に意識してもらえるような展覧会として意図されたものでもあります。そうした展覧会全体の考え方のとりまとめ役として、今、気鋭の現代美術評論家として注目される山本浩貴氏がキュレーターとしてかかわりました。
展覧会にはさまざまな形態の作品が展示され、東恩納裕一氏は、展覧会の冒頭の部分で、黒いシルエットの形象に簡略化された家庭のダイニングテーブルを床におかれた大小さまざまなモニターで映し出す映像インスタレーション作品を出品。展覧会の最初から、徹底的に細部がそぎおとされたモノトーンの作品が、日常の不安や不気味さをあおります。
冒頭の展示を抜けると、視界がいっきに開けて、大きなひとつの空間になります。その大きな長方形の空間の両側にある長辺部分の右側に、金光男氏の大きな平面作品が並び、その対面の壁面には山田周平氏のこちらもかなり大きな作品が連続して展示されています。
金光男氏は、在日韓国人の作家で、2つの違う国の境界線にある自身のアイデンティティの問題にかかわる作品を手掛けています。今回は、学校のグラウンドなどでみかける金網フェンスのメッシュのイメージを、パラフィンをつかったモノクロームのシルクスクリーンで表現した作品を展示。パラフィンで描かれた金網のメッシュにドライヤーで熱をあてて、メッシュが溶けていく様子が表現されていて、区切られた境界の不確かさが示されているようでもあります。
反対側の壁面には、山田周平氏のha ha ha ha ha haというかつて自らに向けられた(と本人が語る)外国人が発するうつろな笑いを、シンプルな言葉の表象として徹底的にどこまでも単調に繰り返していく作品が展示されています。山田さんの作品の根底には、いつもアイロニーがありますが、ha ha ha haと発声された音とその形象、そしてha ha ha ha haという笑いを発した側の文脈と、それの笑いが向けられた対象側の文脈といった、いくつかのレイヤーにおいて2つの対峙する様相が、シンプルな表現によってひとつの作品の中にアイロニカルにおさめられているという印象が感じられます。
また、それらの作品が並ぶ大きな空間の頭上には、東恩納氏による金属でできた巨大なキャンディーの包が天井に設えられていて、会場全体に漂う不気味さをさらに増幅させるかのように、ゆっくりと回転しつづけています。
会期中の8月6日には、3名の作家とキュレーターの山本浩貴氏、それに建築家の寺本研一氏らが加わってトークイベントが行われ、展覧会の企画意図やそれぞれの作品にこめられた作家の狙いなどが語られました。その中で、この展覧会は、観客が見たいものを見せるのではなくて、アーティスト側が表現したいものを表現した展覧会でもある、といった作家のひとりが語った言葉が印象的でした。
アーツサポート関西が行ったクラウドファンディングでは、754,000円もの寄付が集まり、とかく先鋭的で難解とおもわれがち現代美術に対して多くの共感が寄せられたことは、大いに特筆すべきことであるのではないかと考えています。
写真:来田 猛 提供:京都市立芸術大学