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活動報告

コンテンポラリーダンサー高野裕子さんの公演「home」が開催されました
2022年9月30日

関西を拠点に活動を行うコンテンポラリーダンサーの高野裕子さんの公演「home」が、大阪・池田市にあるGULI GULIにて、8月27日と28日にかけて開催されました。

高野さんは、神戸女学院大学で舞踊を学んだ後、2010年にドイツに渡り、ドイツでダンサーとして活動。帰国後は、地元の西宮市を拠点に、さまざまなユニットにかかわりながらダンサーとして活動する一方、大阪府や西宮市の小学校と共同で子どもたちにダンスの学びに触れてもらう取り組みも積極的に行っています。

視察で観せてもらった公演は18:00開始の夜の回のもの。外気にまだ太陽の熱が感じられる窓の外の、うつろい、暮れなずむ日の光にあわせるかのように、4名のダンサーが、ときには空気に触れ、外部の音をとりこみながら、「耳をすます」「たたずむ」「待つ」といった単純な動作を繰り返します。やがて身体の動きは静かに終息していき、かすかに絞られたダウンライトに照らされた最後の一人が吐露する「ただいま」のひとことで、観客はhomeの夢想からふっと目を覚ます ― この公演はそんな形で終わります。

会場となったGULI GULIは、8年前に地元の造園会社がはじめたもの。エントランスまわりの緑の植栽のアプローチ、良質なカフェ空間、コンテンポラリーなギャラリーなど、大阪にこんな場所があったとは!とちょっと驚くほどに、細部にいたるまで上質なアートが感じられる場所でした。









GULI GULIのエントランスのアプローチ(GULI GULIのFacebookより)

「第8回上方落語若手噺家グランプリ2022」の決勝戦が開催されました
2022年9月11日

 アーツサポート関西が2015年から毎年支援をしている若手噺家さんたちの登竜門「上方落語若手噺家グランプリ」。8月23日、その第8回となるグランプリ決勝戦が、今年も天満天神繁昌亭にて、超満員となった観客席を前に、若手噺家たちが同世代の落語家の頂点をめざして熱演を披露。会場は大爆笑の渦に巻き込みこまれました。

 8月23日の決勝戦には、6月に行われた4回の予選を勝ち抜いた8名が出場。決勝には各予選で1位と2位になった計8名のほか、4回行われる予選の3位となった4名の中から審査員が選ぶ1名を加えた計9名で争われますが、今年は、1名がコロナ陽性のため残念ながら決勝に参加できず、決勝戦は、桂そうばさん、笑福亭生寿さん、露の紫さん、月亭大遊さん、桂二葉さん、桂三実さん、笑福亭智丸さん、桂りょうばさんの8名が出場して行われました。

 毎年のことながら、決勝戦のチケットは、売り出されると同時に即完売状態。若手とはいえこの舞台に向けられる熱量と、そのための準備および鍛錬は相当なもので、今回の決勝戦も、その期待を全く裏切らない、例年以上のすばらしい熱戦の一夜となりました。

 その熾烈な決勝戦を見事勝ち抜きグランプリに輝いたのは、笑福亭生寿さん。そして準グランプリに昨年と同じく桂二葉さんが選ばれました。

 生寿さんは、軽妙な語り口で聞く者を引き込む「秋刀魚芝居」で古典の神髄を披露。その芸の深さと完成度が高く評価されました。

 準優勝の二葉さんは「がまの油」で勝負。お二人とも古典落語の演目となり、新作落語の勢いの中、古典の魅力をあらためて浮かびあがらせる形に。

 生寿さんは、インタビューで「上方落語は江戸に負けない独特の面白さがある。もっとその魅力をアピールしていきたい」と述べ、会場から大きな拍手が沸き起こりました。





「Positionalities展」が開催されました
2022年8月31日

アーツサポート関西のクラウドファンディング助成で支援した現代美術の展覧会「Positionalities展」が京都にある京都市立芸術大学@KCUA(ギャラリーアクア)で、2022年7月30日~8月28日の会期で開催されました。

Positionalitiesという少し聞きなれない言葉ですが、英語で、「さまざまな立場」といった意味になります。この展覧会は、⾦光男、⼭⽥周平、東恩納裕⼀の3名の現代美術アーティストによる作品によって構成された展覧会で、作家それぞれが持つ、作品を制作する際の世界との向き合い方や視点の置き方の違いなどについて、観る人に意識してもらえるような展覧会として意図されたものでもあります。そうした展覧会全体の考え方のとりまとめ役として、今、気鋭の現代美術評論家として注目される山本浩貴氏がキュレーターとしてかかわりました。

展覧会にはさまざまな形態の作品が展示され、東恩納裕一氏は、展覧会の冒頭の部分で、黒いシルエットの形象に簡略化された家庭のダイニングテーブルを床におかれた大小さまざまなモニターで映し出す映像インスタレーション作品を出品。展覧会の最初から、徹底的に細部がそぎおとされたモノトーンの作品が、日常の不安や不気味さをあおります。

冒頭の展示を抜けると、視界がいっきに開けて、大きなひとつの空間になります。その大きな長方形の空間の両側にある長辺部分の右側に、金光男氏の大きな平面作品が並び、その対面の壁面には山田周平氏のこちらもかなり大きな作品が連続して展示されています。

金光男氏は、在日韓国人の作家で、2つの違う国の境界線にある自身のアイデンティティの問題にかかわる作品を手掛けています。今回は、学校のグラウンドなどでみかける金網フェンスのメッシュのイメージを、パラフィンをつかったモノクロームのシルクスクリーンで表現した作品を展示。パラフィンで描かれた金網のメッシュにドライヤーで熱をあてて、メッシュが溶けていく様子が表現されていて、区切られた境界の不確かさが示されているようでもあります。

反対側の壁面には、山田周平氏のha ha ha ha ha haというかつて自らに向けられた(と本人が語る)外国人が発するうつろな笑いを、シンプルな言葉の表象として徹底的にどこまでも単調に繰り返していく作品が展示されています。山田さんの作品の根底には、いつもアイロニーがありますが、ha ha ha haと発声された音とその形象、そしてha ha ha ha haという笑いを発した側の文脈と、それの笑いが向けられた対象側の文脈といった、いくつかのレイヤーにおいて2つの対峙する様相が、シンプルな表現によってひとつの作品の中にアイロニカルにおさめられているという印象が感じられます。

また、それらの作品が並ぶ大きな空間の頭上には、東恩納氏による金属でできた巨大なキャンディーの包が天井に設えられていて、会場全体に漂う不気味さをさらに増幅させるかのように、ゆっくりと回転しつづけています。

会期中の8月6日には、3名の作家とキュレーターの山本浩貴氏、それに建築家の寺本研一氏らが加わってトークイベントが行われ、展覧会の企画意図やそれぞれの作品にこめられた作家の狙いなどが語られました。その中で、この展覧会は、観客が見たいものを見せるのではなくて、アーティスト側が表現したいものを表現した展覧会でもある、といった作家のひとりが語った言葉が印象的でした。

アーツサポート関西が行ったクラウドファンディングでは、754,000円もの寄付が集まり、とかく先鋭的で難解とおもわれがち現代美術に対して多くの共感が寄せられたことは、大いに特筆すべきことであるのではないかと考えています。







写真:来田 猛 提供:京都市立芸術大学

企画協力 現代アートの展覧会「NICE MEET TO ART2022 “En to Rin“」が開催されました
2022年8月20日

アーツサポート関西が企画協力し、過去に助成したアーティストたちの作品を展示する現代アートの展覧会「NICE MEET TO ART2022  En to Rin」が、第1期と第2期の2回に分けて、大阪ミナミ・御堂筋沿いにあるクロスホテル大阪で開催されました。

■第1期:森村誠「the Cityscape」7/14~8/3、
■第2期:小出 麻代・山本 理恵子「庭の音 / garden notes」8/7~8/21

このクロスホテル大阪さんのように、最近、大阪の企業や団体などからアーツサポート関西に対して、アーティストを紹介してほしいといったご相談をいただく機会が増えています。

第1期「the Citycape」は、森村誠さんの個展形式の展覧会。森村さんは、展覧会のDMや住宅情報誌などに掲載されている小さな地図を切り抜き、それらを膨大に集めて、そのひとつひとつを糸を使って布の上に丁寧に縫い合わせていきます。街の縮図としての刺繍。針と糸で丁寧につながれていく地図の広がりは、私たちが頭の中にイメージする都市の風景ともつながっていきます。

第2期「庭の音 / garden notes」は、アーティストの小出麻代さんと山本理恵子さんの2人展。小出さんは、うつろいゆく人の視覚や光の反射などのアンビエントな作用を介して「その場」に人々の意識をつなぎとめるような作品を手掛ける作家です。展示された映像作品は、小出さんが山本さんの絵画を借りて自宅の壁に飾り、一緒に生活をともにしながら、うつろいゆく日の光とともに映像にしたもの。また、二人の共同作業によって生まれた布の作品《LETTERS》は、手紙のように、2人の間で植物の葉などに見立てた布の切れを交互に行き来させながら作っていった作品です。互いに少しずつ縫い合わせる二人の「対話」は、10往復以上にもおよんだそうです。

ホテルのロビーの一角という制約のなか、第1期も第2期の展示も、とても気持ちのよい波長の幅におさまった美しい展示となりました。

今後もこの場所で、ぜひとも現代美術の作品が見られる取り組みを続けていってもらいたいと思います。











「第2回人形浄瑠璃 文楽夢想 継承伝」が開催されました
2022年8月15日

昨年にひきつづき、若手とベテランが通常の枠を超えた配役で演じる文楽における画期的な取り組、「人形浄瑠璃 文楽夢想 継承伝」の第2回目の公演が、2022年8月6日、国立文楽劇場で開催されました。

この「文楽夢想 継承伝」は、文楽の若手技芸員の方々が自ら、クラウドファンディングやアーツサポート関西の助成金を申請するなどして資金を集め、会場をおさえ、そして先輩の方々にかけあって協力をお願いし、企画を行っているものです。昨年行われた第1回目は、その活動が高く評価され「関西元気文化圏賞」特別賞を受賞しました。

「『文楽』の世界は長い長い修行を必要とする芸能であります。そしてそれはお稽古だけでは培われない、本番の舞台、生のお客様にご観劇いただいての舞台があってこその修行だと考えております。師匠先輩方にご協力いただき舞台共演による芸の継承を目的とした自主公演を企画いたしました。」

これはこの公演を企画した若手技芸員の言葉です。未来の文楽をになう技芸員の方々が、主体的に考え行動し、実施していることに大きな意味があるように思います。

今回の第2回目の公演は、更に内容が充実し、より文楽の魅力がつたわってくるような演目でおこなわれました。太夫と三味線の組み合わせでは、普段組めない格上と若手がペアとなり、また人形では、若手が主使いをにない、ベテランが普段は若手が担当する左遣いに奮闘します。

昼の部の最初の演目「二人三番叟」では、若手人形遣い吉田玉征さんの主使いに対して、師匠で文楽界の重鎮 吉田玉男さんが玉のような汗を流しながら、必死になって左遣いに徹した演技を見せました。普段とは逆の立場で、弟子と師匠が入れ替わり、一体となって演技を行う姿は、ほほえましくもあり、また同時に、将来の文楽の振興と発展を予見させてくれる頼もしさも感じました。

この「文楽夢想」の取り組みは、今後もぜひ継続していってもらいたいと思います。









写真撮影:桂 秀也

クラウドファンディング助成第1弾 劇団 座・一座「罪人こぞりて」が開催されました
2022年7月30日

アーツサポート関西は今年度から新たにクラウドファンディング助成に取り組んでおりますが、その支援先第1号となる劇団座・一座さんの公演「罪人こぞりて」が、6月3日~4日に、大阪中崎町にあるスペースMOVE FACTORY STUDIOで開催されました。

アーツサポート関西のクラウドファンディングは、公益財団法人の取り組みとして国内でも先駆的なもの。公募による審査で採択されたプロジェクトに対し、寄付集めのための特設サイトを設けてオンライン等で寄付を集め、集まった寄付を助成金として交付します。

アーツサポート関西では、これまで関西の芸術文化振興のためにみなさまからお寄せいただいた寄付をプールし、それを原資として、戦略性をもった公募を行い、審査で採択されたアーティストらに助成金として支援してまいりました。一方、このクラウドファンディングでは、水準の高い公演や展覧会などのプロジェクトに対して寄付を募集し、支援を行うもの。みなさまの共感の度合いが支援につながるいわば「共感型」の支援ともいえます。

座・一座さんの公演「罪人こぞりて」は、サスペンス的なドラマ仕立ての演劇。果たして「犯人は有罪か、無罪なのか?」一概に判断しづらい事件について、犯人役、取り調べの警官役、弁護士役、被害者役らが再現ドラマ風に演じ、それを見た観客にあたかも陪審員のように有罪か無罪かを投票してもらうという、観客参加型のお芝居です。座・一座さんが近年取り組むシリーズもので、これまでYoutubeでも何本か発表されてきました。

今回の公演のストーリーは、仕事ができる「あこがれの」先輩と同居することになった主人公と先輩との関係性の物語。仕事で失敗し打ちひしがれて徐々に人間的な魅力を失っていく先輩に対し、自らの「あこがれ」の水準を強要し、精神的に追い詰め、死に追いやってしまいます。自ら選んだ死なのか、他者に強要された死であるのか、倫理のはざまが描かれます。

演じたのは、幸野舞、高田果奈、江上真奈のいずれも若手の3人の女性たち。場面は緊迫感をもって進行し、観客は時間を忘れて舞台にひきこまれていきます。

50人ほどの観客席は平日の夜にもかかわらず満席。テレビや動画配信とは違い、生身の俳優が演じることで生まれる舞台の緊張感が、演劇の醍醐味を感じさせてくれました。ちなみに、観客の表決結果は、「有罪」でした。

クラウドファンディングにご支援いただいた方々に心より感謝申し上げます。

野村由香さんがグループ展「transmit program 2022」に参加しました
2022年7月27日

 現代美術アーティストの野村由香さんが参加したグループ展「transmit program 2022」が、2022年4月16日~6月26日にかけて京都のギャラリー@KCUA(アクア)で開催されました。
 野村さんは、今年度アーツサポート関西が支援するアーティストのひとり。岐阜県に生まれ、京都市立芸術大学で彫刻を学び、在学中にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに交換留学をした経験をお持ちです。
 ギャラリー@KUCAは、京都市立芸術大学が運営するギャラリーで、世界遺産・二条城の前という素晴らしいロケーションにあって、学生や卒業生のみならず国内外の水準の高い現代美術作品を見せるスペースとして関西のアートファンには知られた存在です。
 展覧会「transmit program」は、京都市立芸術大学および同大学院を卒業(修了)して間もない若手アーティストの中から、同ギャラリーが今最も注目するアーティストを選んで紹介する展覧会で、毎年行われています。今年開催された展覧会には、野村さんのほか、画家の阪本結さん、メディア・アートの小松千倫さんの3名のアーティストが参加しました。
 本展で野村さんが展示した作品は、人間のサイズをはるかにしのぐ泥でできた巨大な球体の塊。会場に入ると、文字通りそれが目の前に立ちはだかり、その存在感に圧倒されます。床には、その巨大な泥の塊を何らかの方法で転がしてできたと思われる泥の痕跡があちらこちらに見てとれ、その床の「汚れ」と、泥の塊の表面のごつごつとした表情が、白く清潔に整えられた展示空間に大きな「異物感」とともに、有機的な生命の力を感じさせます。
 この巨大な泥の量塊は、空間そのものを「作品」として見立てるインスタレーション作品を成すもので、野村さんはそれに「池のかめが顔をだして潜る」というタイトルをつけています。
 「私の家の近所に、ため池があります。そこは丘に上がる途中の静かな場所で、一見変化のない景色は静止しているかのように感じますが、実際には池に映る雲は動き、水面は時折、かめや鯉、釣り人の垂れた糸によって小さく波打ち、微かな変化が続いています。私はそうした時間の流れを確認するためによく池に行きます。」(展覧会に寄せられた野村さんのテキストより)
 耳をすまし、目をこらして周りを見れば、普段あまり意識を向けていないもののなかに、小さな変化があり、それは時には美しく、また、生の意味につながる大きな流れを感じさせるものとなる・・・。野村さんは、そうした感覚のよりどころを探る確認作業のようなものが、自身の作品制作なのかもしれないと述べています。
 この巨大な球体の塊を形作る泥は、ため池の底から、この場所に運ばれてきたのでしょうか? そして泥の塊を床の上を転がす行為は、どんな意味へとつながっていくのでしょうか?
 野村さんの展示空間に身を置き、展示作業の前はきっとなかったはずの床のカーペットの汚れや、泥が乾き、ひび割れてポロポロと剥がれ落ちる巨大な球体の表面を見ながら、すべてをその懐の内に包み込む大きな自然の摂理の存在に触れたように感じました。 ※展示を紹介する動画がこちらからご覧いただけます。

展覧会「transmit program 2022」エントランス風景  撮影:来田猛

野村由香《池のかめが顔をだして潜る》 展示風景  撮影:来田猛

野村由香《池のかめが顔をだして潜る》 作品詳細  撮影:来田猛

野村由香《池のかめが顔をだして潜る》 作品詳細  撮影:来田猛

野村由香《池のかめが顔をだして潜る》 作品詳細  撮影:来田猛

アーツサポート関西 2021年度助成活動の紹介
2022年6月15日






おおしまたくろう「おおしまたくろう楽器展#2 滑琴の耳奏耳」が開催されました
2022年6月1日

 アーツサポート関西は、2017年に日本電通株式会社よりお寄せいただいた寄付をもとに「日本電通メディアアート支援寄金」を設け、関西で活動するメディア・アーティストを支援してきました。その最終年度となる2021年度支援アーティストのひとり、おおしまたくろうさんが、京都のパララックス・レコードにて個展「おおしまたくろう楽器展#2 滑琴の耳奏耳(かっきんのみみそうじ)」を開催しました。
 おおしまさんは、多くのメディア・アーティストを輩出している情報科学芸術大学院大学(IAMAS)でメディアアートを学び、現在は京都を拠点に、おもに音を奏でる装置としてのアート作品を手掛け、注目されています。
 おおしまさんの作品の特徴は、決してかしこまった「芸術作品」という趣ではなく、日常の身近なものに少し手を加え、「音」を介して、どこか異質な状態を生み出すようなものであること。おおしまさんは、それを「ノイズ」と呼びます。私たちは普段、ノイズを雑音として排除しようとしますが、常に何かに付随して発生するノイズは、時には、ノイズが発生する本体を別の角度からとらえる新たな視点をもたらすものでもあるかもしれません。
 おおしまさんは、アーツサポート関西の助成金で、以前から取り組んでいるスケートボードとエレキギターを融合した「滑琴(かっきん)」と自らが呼ぶ、楽器のような作品について、部品の強度を高めるなどの改良をはかりました。構造は、スケートボードの下部にとりつけられたギターの弦が、走りながら路面の凹凸を拾い、その音がランドセルのように背負ったスピーカーが鳴り響かせるもの。道路にはマンホールや段差などのさまざまな「表情」がありますが、そういった普段私たちが注意を払うことのない「街のもうひとつのリアルな姿」がこの作品を介して立ち上がってきます。
 また、おおしまさんは、今回の助成金を使って、ランドセル型スピーカーに耳型の巨大なマイクロフォンをとりつけ、「滑琴」が奏でる(がなりたてる)サウンドを拾ってネットに配信する機能も新たに追加し、それにより、その場にいなくとも、この作品のプレイにより多くの人々がリアルタイムにアクセスできる社会的な広がりも生まれました。
 スケートボードとエレキギターという、異種類の存在を組み合わせて、ユーモアあふれる風合いをもつアート作品を生み出すおおしまさん。おおしまさんの今後の活躍に大いに期待したいと思います。

アーティストのおおしまたくろうさん

自作の《滑琴》に乗ってライドするおおしまさん

企画協力 スーパークラシックアンサンブルによる「花まつりコンサート2022」が北御堂で開催されました
2022年5月27日

 お釈迦様の誕生日の4月8日は「花まつり」として知られていまが、この日、大阪・御堂筋沿いに立つ南御堂の本堂にて、昨年に引き続き、関西で活動する若手弦楽奏者たちを中心に編成された室内楽オーケストラ「スーパークラシックアンサンブル」による「花まつりコンサート2022」が開催されました。ちなみに昨年は、同じ御堂筋にある北御堂を会場におこなれました。また昨年と同じく、アーツサポート関西が企画協力として関わりました。
 このコンサートは、大阪ロータリークラブの呼びかけにより、コロナ過において、さまざまな影響を受けている若い演奏家たちに演奏の場を与えようと行われているもので、聴衆には、招待された普段クラシックコンサートに行く機会が少ない障害をお持ちの方などを含む、200人近い方々が足を運び、躍動感にみちあふれた音楽を楽しみました。
 スーパークラシックアンサンブルは、昨年行われた「花まつりコンサート」の際に、ヴァイオリニストの堀江恵太さんの呼びかけで発足したもので、指揮者の佐渡裕氏が率いる「スーパーキッズ・オーケストラ」の卒業生を中心に、京都市立芸術大学「古典派研究会」のメンバーなどを加えた新進気鋭の若手弦楽器奏者約20名によって編成されました。メンバーはいずれも世界の舞台を目指す名手ぞろいで、昨年の北御堂でのコンサート後もメンバー同士で声をかけあい、ホールをブッキングして年に自らが主催するコンサートを年に数回開くなど、その後も精力的な活動を続けています。
 コンサートでは、モーツァルトやエルガー、ブラームスなどの良く知られた曲のほか、京都市立芸術大学にて演奏者の多くがお世話になった作曲家の松本日之春氏が、それぞれのメンバーの誕生日に贈った様々な曲想を集め、このコンサートのために新しく書き起こした曲「KUTSUKAKE ~ Chaussure qu’a quai.~」が披露されるなどプログラムとしても大変充実した内容でした。当日は松本日之春氏本人も会場にお越しになり、堀江恵太さんと舞台上でトークを行い、会場から多くの拍手が沸き起こりました。
 コロナによるパンデミックは、芸術の送り手ばかりではなく、それらを受けとめる鑑賞者たちにも大きな影響を及ぼしました。しかし同時に私たちは、あらためて芸術や文化の大切さを実感するようになったのではないでしょうか。
このコンサートは、ウィズコロナ時代において、芸術や文化の大切さをみなでわかちあい、この困難な時代にともに生きるすべての人々に向けて贈る応援のエールのようなものであるようにも感じました。

南御堂の本堂で演奏するスーパークラシックアンサンブル

リーダーの堀江恵太さん(ヴァイオリン)

大阪教務所長 難波別院輪番 禿信敬氏のごあいさつ

サントリーホールディングス株式会社副会長/大阪ロータリークラブ会長 鳥井信吾氏のごあいさつ


【プレスリリース】ウィズコロナ時代の芸術・文化支援 アーツサポート関西HEART&ARTキャンペーン「クラウドファンディング型助成」寄付募集開始
2022年5月2日

⇒ HEART&ART「クラウドファンディング」寄付募集開始(Pdf)

荒木優光「思弁的マンネリ解消プロジェクト」の成果発表『トーキングヘッズ(仮)』が行われました
2022年4月15日

 アーツサポート関西が支援するアーティスト荒木優光さんが2021年度に行う取り組み「思弁的マンネリ解消プロジェクト」の成果発表となる作品「トーキングヘッズ(仮)」が、2022年3月26日、豊岡市の城崎温泉にある城崎国際アートセンターで行われました。
 荒木さんは、主にサウンドを使った表現活動をしているアーティストで、美術館での展示や舞台上でのパフォーマンスなど、既存の枠にとらわれないジャンル横断的なさまざまな取り組みを行っています。昨年は、京都で行われる国際的な舞台芸術フェスティバルKYOTO EXPERIMENT2021のプログラムとして、比叡山の駐車場に巨大な音響装置を積み込んだカスタムオーディオカーを集め、電飾で飾られたクルマたちがサウンドを奏でる屋外パフォーマンスを行い話題となりました。
 今回の「思弁的マンネリ解消プロジェクト」は、コロナ禍による行動制限を逆に契機として、さらなる創造性の拡張を図る方法論を模索しようとするもので、その成果として日常の断片をつづったテキスト、サウンドインスタレーション、ステージパフォーマンスなどから構成された作品「トーキングヘッズ(仮)」を発表しました。
 舞台となった城崎国際アートセンターは、国際的な水準で活躍するパフォーミングアーティストたちの滞在型作品制作施設で、公募で選ばれたダンサーや演劇人たちが数週間単位で宿泊しながら創作活動を行い、その成果を施設内の舞台で発表したりします。
 荒木さんが行った今回の成果発表は、1日限りの開催でしたが、そのためのプロジェクトチーム「台風の目」が組まれ、荒木さんと一緒に本イベントの実施に携わりました。また、あいにく当日は激しい風と雨が吹き荒れるまさに台風のような日となり、主催者側は荒木さんを、ひそかに「台風を連れてくる男」と呼んでおりました。
 作品は、施設のロビーや制作室など建物の複数の箇所に分散して設置されており、それら全体が、ある人物(荒木さん本人?)が受けた鼻の骨を削る手術に始まる日常の断片のテキストを読み上げる音声でつながれている、という構成です。テキストは、鼻の骨を削る施術の振動、知人の死への考察、健康にまつわる意識など、些細な経験の断片ばかりですが、その音声が流れる各空間において、身体性の「不在」が強く意識されるような展示となっていました。
 施設のステージでは、身体動作を解析するセンサーを体中に付けたダンサーが、サウンドにあわせて体を動かすと、背後の巨大なスクリーンにダンサーのアバターである両性具有的な人物が、CGで描出された仮想現実空間の廃墟の中で同じ動きをする、というダンス=映像パフォーマンスが行われました。
 荒木さんは、サウンドを作品の主要な要素として用いますが、活動の本質はサウンドを聞かせる空間や場所そのものを作品として見せる部分にあると言えます。そのため、音響だけにとどまらない空間的な視覚性も重要な要素となり、そこから美術および音楽の枠にとどまらない荒木さん独自の創造活動が生まれます。
 そうした意味において、今回の城崎国際アートセンターでのプロジェクトは、荒木さんの活動の特性を際立たせるのに非常に適した機会になったのではないかと思いました。











photo: Kai Maetani

関西フィルハーモニー管弦楽団「第326回定期演奏会」が行われました
2022年4月11日

 アーツサポート関西が助成した関西フィルハーモニー管弦楽団「第326回定期演奏会」が、3月25日、飯守泰次郎指揮により、大阪・福島にあるザ・シンフォニーホールで行われました。
 演奏されたプログラムは、ブルックナーの交響曲「第00番ヘ短調」と、同じくブルックナーの交響曲「第0番ニ短調」の2曲。ブルックナーの交響曲は1番から9番までが良く知られていますが、実は、それ以外にも普段あまり演奏されることが少ない第00番と第0番の2曲が存在しています。
 関西フィルハーモニー管弦楽団は、2011年から指揮者・飯守泰次郎氏とともに毎年1曲ずつブルックナーの交響曲を演奏し、全交響曲を演奏する、いわゆるチクルスに10年をかけて挑みました。本来であれば、チクルスの完成を飾るこのプログラムは、2020年の創立50周年の節目に行われる予定でしたが、コロナの影響でそれが延期になっていたものです。
 最初に演奏された「第00番」はブルックナーが初めて手掛けた1863年の交響曲で、作曲を学んでいた師から芳しい評価が得られなかったため、手元において生涯封印したとされます。晩年のブルックナーにみられる静かに鳴り響く荘厳な調べではなく、オーケストレーションの豊穣な小片がいくつもコラージュされた若きチャレンジ精神のようなものが垣間見え、ブルックナーのイメージが刷新された気がしました。
 「第0番」は、1869年頃の作曲の曲で、実は彼が1865年に作曲した交響曲第1番よりも後に完成したことがわかっています。1872年~73年頃に当時著名な指揮者の前で試演をした際、その批評に落胆したブルックナーは譜面の最初のページに自ら「無効」と書き込み、こちらも封印してしまいます。しかし、死の前年の1895年に、この楽譜を「第0番」として博物館に贈呈しています。
 この作品も、私たちが良く知る、天にむけて永遠の祈りを捧げるかのようなブルックナーの交響曲の厳かな響きとは対照的に、若い躍動感と駆け抜けていく疾走感が際立つエネルギッシュな曲で、当時、これがなぜ高く評価されなかったのか不思議に思いました。
 今回のプログラムは、本来であればオーケストラ創立50周年の記念の年に演奏されるものでもあったためか、演奏からは、指揮者の飯守泰次郎氏およびオーケストラのメンバーたちの熱き想いと情熱がほとばしるように伝わってきて、まさに圧巻の演奏会でした。演奏後には、指揮者の飯守氏がカーテンコール中に舞台に倒れ込んでしまうことにもなり、その壮絶な完全燃焼の姿は、その場にいた観客およびオーケストラのメンバーたちのさらなる感動を呼びました。
 今後もこうした隠れた名曲の発掘が、行われていくことを願いたいと思います。

©S. Yamamoto

©S. Yamamoto

©S. Yamamoto

©S. Yamamoto

湯川洋康「アノ ヒダマリニテ」展が開催されました
2022年4月1日

 アーツサポート関西では、2018年に、歴史的にも文化的にも豊かな様相を内包する大阪・上町台地をさまざまな視点から考察し、現代アートとして表現する活動を支援したいという、匿名の寄付者からご寄付をいただき、それをもとに「上町台地現代アート創造支援寄金」を設け、そうした観点で行われる現代アート作品の制作活動を助成してきました。
 2020年度から2021度の2年間は、アーティストの湯川洋康さんを支援し、その成果報告として、この度、大阪・北加賀谷の「音ビル」内のTRA-TRAVELギャラリーにて展覧会「アノ ヒダマリニテ」展が、2022年3月12日~3月19日の会期で開催されました。
 湯川洋康さんは、ファッションデザイナーとして活動しながら独学で美術を学び、2012年からアーティスト・ユニットYukawa-Nakayasuとして国内外で活躍しています。作品は、文献や聞き取りなどのリサーチをもとに制作され、必ずしも表象として浮かびあがることのない習慣や、歴史に埋め込まれた事象の存在などを、写真や映像、立体物など様々な作品を空間に配置して構成するインスタレーションとして表現します。
 展覧会「アノ ヒダマリニテ」は、彫刻家の葭村太一さんとのコラボレーションで行われた2人展で、上町台地を、四天王寺を中心とした宗教的に極めて特殊な様相を帯びたエリアとしてとらえ、そこで古くから人々の暮らしに様々な影響を及ぼしてきた厄災とそれに対して宗教が果たしてきた役割との関係性に着目し、そうした考察をもとに、映像や平面作品などの多様な形態の作品を展示しました。
 銅板にエッチングの手法で人の毛髪の束を思わせる多数の鋭い線を刻みこみ、その上にアクリル絵の具で花を描いた「Flower」は、毛髪のイメージと花の形象を重ね合わせた絵画的な作品です。銅板に無数の溝を掘る作業を通して際立つ作家の祈りのような思念と、西方浄土思想と深く関わる四天王寺の西門の鳥居の中から発見された人毛の束がイメージとして結びついており、そこに湯川さんは献花としての「花」の意味を込めています。
 この作品からは、作品を制作する作家の祈りのような行為の時間と、太古から今に至る極楽浄土を想う無数の人々の祈りの時間の両方を読み取ることができるように思え、展覧会全体を通して、あらためて上町台地が宿す歴史的・文化的な重みが伝わってきました。

展示風景

Flower (2022)

展示風景

三原聡一郎「空気の研究2022」が「KYOTO STEAM 2022 国際アートコンペティション」で展示されました
2022年3月20日

 アーツサポート関西が2021年度「日本電通メディアアート支援寄金」から助成した三原聡一郎さんの作品《空気の研究2022》が、京都市京セラ美術館で2022年1月29日~2月13日に開催された「KYOTO STEAM 2022国際アートコンペティション」展にて展示され、訪れた多くの方が実際に作品を手に取って体験しました。
 KYOTO STEAM 2022は、歴史と伝統に支えられて芸術文化と科学技術を育んできた京都において、科学・技術・芸術の3分野の掛け合わせによって、「知」と「感性」の新たな可能性と価値観をグローバルに発信していくことを目指したプロジェクトで、さまざまなプログラムから構成されています。
 その一環として行われた展覧会「国際アートコンペティション」は、公募で選ばれたアーティストと企業・研究機関がコラボ―レーションし、そこから生まれた優れたアート作品を表彰するアートコンペティションで、国内では他に類をみないものです。今回の公募には41の企業・研究機関と111の作品プランの応募があり、その中からマッチングで選ばれた11組の企業およびアーティストが現代アート作品の制作を手掛け、展覧会で展示しました。
 三原聡一郎さんは、2018年度にアーツサポート関西の支援を受けて制作した作品《moids+∞》などが高く評価され、2020年度Nissan Art Awardのファイナリストに選ばれるなど注目を集めるアーティストで、今回のアートコンペティションではmui lab株式会社と組んでプロジェクトに参加しました。mui lab社は、Calm Technology(穏やかなテクノロジー)をテーマに、人とテクノロジーの自然なかかわりを提案する情報デバイスなどを手掛けている会社で、三原さんは同社の製品mui boardを使った体験型の作品「空気の研究 2022」を制作し、展覧会で展示しました。
 mui boardは、表面にボタンやスイッチ類が一切ない、見た目は素朴な木片のような外観を持つ情報端末で、表面の木目を透過する形でデジタル情報が表示されます。鑑賞者は、天井から吊り下げられた大きな円筒形の紗幕で仕切られた空間に入り、そこに据え付けられた円形のベンチに腰をかけ、膝のうえにmui boardを置きます。座った円形のベンチは左右に回転するようになっていて、ベンチが動くとmui board上に地球上の膨大な数の都市の座標が表示され、動きを止めると任意の都市が選択されます。ボードの表面には、選択された都市の気象データやピクセル化された街の風景などが表示され、鑑賞者は、座ったまま行う微細な動きによって世界中の都市の状況にリアルタイムでアクセスできるようになります。
 現代はスマホなどの端末でリアルタイムに世界の状況に触れることがあたりまえの時代ですが、この作品は、方位磁石や羅針盤を思わせるベンチの形状と、それを鑑賞者がアナログで任意に動かしながら地球上のひとつの座標とシンクロさせる行為によって、鑑賞者の身体と遠く離れた都市とを隔てる物理的な距離感、あるいは、その距離を充たしている「空気」の存在 ― 作品タイトルでも示されている ― に意識を向けさせることで、インターネットにおいて普段ほとんど感じられることのないモノや存在の物理的な広がりや距離を、私たちの想像力の中に介入させるような作品であるように思いました。












ナナン・アナント・ウィチャクソノ 「インドネシアの影絵芝居ワヤンとガムラン マハーバーラタ ~ カルナの一生」が開催されました
2022年3月17日

 インドネシア・ジャワの伝統的影絵芝居ワヤンの人形遣い、ナナン・アナント・ウチャクソノさんの公演「マハーバーラタ ~ カルナの一生」が、2022年2月23日(水・祝)に、開館まもない箕面市立文化芸能劇場小ホール(2021年夏オープン)で開催されました。
 ナナンさんは、幼少よりジャワの伝統的影絵芝居の人形遣いとして活動し、2010年にジョグジャカルタ州王家から伝統芸能の若き継承者として表彰されるなど、インドネシアの国内外で活躍してきました。数年前に日本に拠点を移し、現在は関西を中心に活動を行っています。
今回の公演では、世界3大叙事詩として知られる「マハーバーラタ」の中から、悲しい運命に翻弄されながら勇ましく生きる戦士カルナの物語をとりあげ、大阪のガムラン演奏集団、ダルマ・ブダヤによるオリジナル楽曲の演奏とともに演じました。
 貧しい御者の息子として育ったカルナは、幼い頃から志高く、立派な武将になることを目指して修行に励み、王家の目にとまるほどの頭角を現します。パンダワ五王子と対立するコラワ百王子の長男ドゥルユダナは、立派な戦士に成長したカルナに目を付け、一国の王として取り立てます。やがてコラワ百王子とパンダワ五王子との確執は大戦争バラダユダへと発展し、激しい戦闘の末、聖なる力を失ったカルナは矢に撃たれ天に召されていきます。御者の息子として育ったカルマの立身出世の物語と秘められた出自の謎が絡み合い、ダイナミックな戦闘シーンのクライマックスへと続く壮大なストーリーが語られます。
 会場の箕面市立文化芸術劇場の小ホールは、小ホールとはいえ、300席とかなり大きく、ステージ中央には照明に照らされた大きなスクリーンが設けられ、その前に客席に背を向けてナナンさんが座ります。楽曲を演奏する十数名の演奏者は、スクリーンを見据え客設とスクリーンの間に楽器とともに位置します。
 舞台では、たった一人の演者であるナナンさんが、手や足の部分が可動する平面的な切り絵のような影絵人形を、下から片手でスクリーンの前に差出し、揺り動かして、人物の複雑なしぐさや情感を表現していきます。また同時に、口元に仕込んだマイクでさまざまな声色を使い分けて登場人物のセリフの語り、一人で動きとセリフの双方を担当する形で物語は進行していきます。
 上演時間は2時間近くに及び、その間に登場するかなりの数の人形を、ひっきりなしに取り換えながら、人形を両方の手で巧みに操り、複雑に状況が錯綜する戦いの場面などを演じるナナンさんの技術の高さにおもわず目を奪われました。人形は、手や足が振り子のように可動するだけのシンプルなつくりで、それを絶妙なタイミングで揺れ動かすことで生じる回転の動きだけで、人物の多彩な振る舞いや心理的な機微を表現する方法に、インドネシアの伝統芸能の奥深さをまざまざと見た思いがしました。
 独特の音階と旋律を持つエキゾチックなガムランの響きで物語を支えるダルマ・ブダヤの演奏も非常にすばらしく、音響の役目も担う音楽を聴いていると、時間と空間を超えた見ず知らずの遠い世界へといざなわれていくような、幻想的な想いにかられました。
 ナナンさんは、現在、インドネシアを離れ、関西を拠点に活動していますが、日本という異なる文化的な文脈において、人々に深い共感と感銘を与える伝統的な芸術表現のすばらしさをこの公演を通してあらためて実感させられたように思います。

公演風景 スクリーンの前で演技をするナナンさん

公演風景 ガムランを演奏するダルマ・ブダヤのみなさん


公演風景 影絵人形を操るナナンさん

オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ 第139回定期演奏会「アルフレッド・リード 生誕100年記念オール・リード・プログラム」が開催されました
2022年1月14日

21年度ASKが支援するオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ 第139回定期演奏会「アルフレッド・リード 生誕100年記念オール・リード・プログラム」が、11月28日に大阪のザ・シンフォニーホールで開催されました。
オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラは、1923年(大正12年)に誕生以来『Shion(しおん)』の愛称で親しまれている日本で最も長い歴史と伝統を誇る交響吹奏楽団です。

今回の演奏会で取り上げられたアルフレッド・リードはアメリカの作曲家で、200曲以上の吹奏楽の楽曲を世に送り出し、その作品は今なお世界中で親しまれている第一人者です。日本とも大変関係が深く、1981年に東京佼成ウインドオーケストラの招きで初来日して以来、80回を超える訪日を果たし、客演指揮者としてかつて『Shion(しおん)』ともかつて演奏を行っています。そのリード生誕100年を祝し、名曲の数々が秋山和慶氏の指揮により演奏されるとあって、チケットは完売。時節柄、長らくコンサート会場に足を運ぶことのできなかったお客様も多かったのでしょう、客席からは開演を待ち望む熱気がいつも以上に感じられました。こうした期待に応えるかのように、オープニングは序曲「春の猟犬」。いきなり全合奏で弾むように疾走するリズムで始まり、観客を一気に演奏に引き込みます。2曲目はリードが長年取り組んだシェイクスピアの作品より「『ハムレット』への音楽」。一転してゆっくりと緊張感を帯びたリズムから始まり、第2、第3、第4楽章と表情を変えながら重厚な雰囲気をたたえていました。

情熱的なフラメンコ風のリズムで始まる「エル・カミーノ・レアル」は、ホルンが奏でる高揚した旋律が、木管楽器で繰り返され、情熱的なトランペットに引き継がれ、途中転調しながらラテンのリズムを響かせ、会場は一体に。

1981年に東京佼成ウインドオーケストラに招聘された際に立正佼成会から委嘱された作品「法華経からの三つの啓示」は、躍動的なリズムと、穏やかでありながら奥行のある響きが荘厳で輝かしいものでした。

華やかなファンファーレで始まる「アルメニアン・ダンス パート1」はアルメニアの民謡、舞曲をもとに作曲され、愁いを含んだ民謡の印象的な旋律が、リズムやテンポが躍動的に変化していき、疾風怒濤のごとく駆け抜けていきコンサートホールは高揚したまま終演を迎えました。

長引くコロナ禍の影響で、何事も停滞し気分の晴れない日々ですが、『Shion(しおん)』の力強い演奏は人々を鼓舞し、前を向く勇気をくれる素晴らしいもので、コンサート終了後のロビーには笑みをたたえた明るい表情のお客様が多かったことが大変印象的でした。

充実した演奏を行ったシオン・ウインド・オーケストラ

客席からの拍手に応えるオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ

 



指揮は、同楽団の芸術顧問をつとめる秋山和慶氏

 

オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラのコンサート情報は、シオンホームページをご覧ください。

 

 

劇団五期会「第74回定期公演The Merchant of ZIPANG」が行われました
2022年1月6日

アーツサポート関西が今年度助成する劇団五期会による第74回定期公演「The Merchant of ZIPANG」が、12月3日~5日にかけて、大阪のABCホールにて全4回公演の日程で行われました。

劇団五期会はNHKの専属劇団であった大阪放送劇団を母体として1973年に創設された劇団で、来年2023年に50周年を迎えます。舞台での演劇公演を中心に活動しつつ、メンバーはテレビドラマやCMなどでも活躍しており、放送で培ったセリフ術や発声術を重視する良き伝統を受け継ぐ、大阪のいわゆる「新劇」界の中心的な存在として知られています。

劇団の第74回定期公演として行われた今回の「The Merchant of ZIPANG」は、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」をもとに、舞台をヴェニスから、交易で栄えた16世紀後半の商人のまち難波に移し、人間の業や流転する人生の儚さをシェイクスピアの巧みな描写で描いた作品です。

物語は、侍・婆沙羅の次郎が、想いを寄せる琴姫に求婚するため、親友の商人・安徳から金を借りる場面からはじまります。安徳は、親友の頼みをなんとか叶えたいと考えますが、全財産は航海中の船にあって、金を工面することができません。そこで安徳は、堺に住む悪名高い高利貸しの沙六に金を借りに行きます。沙六の物部氏と安徳の曽我氏は長年反目し合ってきたライバルで、商売仇の安徳にいつしか復讐を果たそうと機会をうかがっていた沙六は、金を貸すことを承諾する条件に、金を返せなければ、安徳の体の肉を一貫目切り取って沙六に与えるという約束をさせます。

安徳はよもや金を返せなくなるとは思わずに約束を取り交わし、借りた金を次郎に渡します。一方、次郎が想いを寄せる琴姫は、父の遺言により、求婚する者に金・銀・鉛の3つの箱から箱を選ばせて、正しい箱を選んだ者と結婚するという謎解きを課し、すでに多くの者がその挑戦に失敗していました。

琴姫を訪ねてやってきた次郎は、琴姫のヒントをたよりに見事に正しい箱を選び、二人はめでたく結ばれます。琴姫は愛の証として、次郎に指輪を渡し、何があっても失くしてはならないと固く誓わせます。そこに安徳の商船が難破したとの知らせがとどき、事態は暗転。事の次第を次郎から聞いた琴姫は、安徳を救うために必要な金を次郎に渡し、すぐに友を救いにいくよう促します。そして、琴姫自身も次郎に知られぬようその後を追います。

難波に戻った次郎は、捕らえられて裁判にかけられる安徳と再会します。そこに若くて優秀な判官に変装した琴姫が登場し、その裁判を裁くことになります。判官に変装した琴姫は、復讐の絶好の機会の到来を喜ぶ沙六に対して、借りた金以上の額を次郎から受け取り慈悲の心を示すことを諭しますが、沙六は拒絶し、肉を要求します。判官は、約束通り肉を与えるが、ただし血を一滴も流してはならぬと伝え、それを聞いた沙六はそれは不可能であるとして金を受け取ろうとしますが、判官は一度拒絶した金を受け取ることはできないとし、さらに安徳を殺そうとした罪で沙六を追放します。

結局、沙六はみなの慈悲で助けられますが、判官に変装した琴姫は、次郎に指輪をくれとしつこくせがみ、次郎は根負けして指輪を渡してしまいます。琴姫の元に戻った次郎に、琴姫は大切な指輪を失くしたことを叱責しますが、自分が判官に変装していたことをうちあけ、みなに笑いが起こります。また、難破の知らせを受けていた安徳の船はすべて無事であったことがわかり、物語は大団円を迎えます。

舞台はヴェニスから大阪の難波へと変わり、登場人物も日本の商人や侍に置き変わりましたが、ストーリーはほぼシェイクスピアの原作通りに進行し、世間から強欲のそしりを受け鬱屈した沙六(シャイロック)の積年の恨みと業の深さ、そして友人への愛のためにすべてを失う安徳(アントーニオ)の生の儚さが、影と光の強烈なコントラストで描かれる一方、随所にちりばめられたユーモアの要素が作品全体をひきたてているように感じました。

コロナ禍で、演劇公演も大変な苦境に陥っていますが、ぜひ今後とも、これまで培ってきたものを守りながら活動を続けていってもらいたいと思いました。









堤拓也 「余の光/Light of My World」展が開催されました
2021年12月14日

昨年度からASKが支援するキュレーターの堤拓也さんが企画した展覧会「余の光/Light of My World」が、京都府の福知山駅前にある、かつてパチンコ店だった旧銀鈴ビルの1階と2階にて、10月8日~11月7日の会期で開催されました。この展覧会は、京都府が府内のさまざまなエリアを会場にしておこなうアートフェスティバル「ALTERNATIVE KYOTO もうひとつの京都」の一環として開催されたもので、19人の現代美術アーティストたちの絵画や平面(映像)などの様々な作品が、照明が落とされ独特の趣が漂う空間に展示されました。

本展を企画したインディペンデントキュレーターの堤さんは、1987年滋賀県生まれで、ポーランドの大学でキュレーションを学び、滋賀にある現代美術アーティストたちの共同アトリエ「山中Suplex」を拠点に活動しています。昨年、山中Suplexを会場に、クルマにのったままドライブスルー形式で鑑賞する展覧会「類比の鏡/The Analogical Mirros」(ASK助成対象事業)を開催し国内の現代美術界で大きな話題となりました。来年開催される、愛知トリエンナーレの改訂版「国際芸術祭 あいち2022」ではキュレーターのひとりに選ばれています。

本展のタイトル「余の光/Light of My World」は、新約聖書のマタイによる福音書第5章にあるイエスが弟子たちに向けて語った言葉「あなたがたは地の塩、世の光である」からとられています。あなたがたは光を放ちながら世を照らす存在であると述べたこの一節から、アーティストとは、自らの行いによって世を光で照らし出す存在である、というイメージを着想し展覧会に取り組んだ、と堤さんは述べています。人はなぜ芸術を必要とするのか?本展は、当たり前のこととして普段あまり意識することのない、こうした根源的な問いかけを私たちに投げかけます。それは、コロナ禍における芸術活動の意味を考える上でも大切な問いであるように思います。

会場の旧銀鈴ビルはJR福知山駅前のロータリーに面した商店街にあり、駅前でありながらほとんどの店舗のシャッターが閉まった状態に地方都市の厳しい現実が伺えます。展覧会はビルの1階と2階を会場とし、階段であがった2階から始まります。2階は床と壁と天井だけが残されたがらんとした空間でパチンコ店であったおもかげは全くありません。暗がりの中、作品が展示された一角がスポットライトで明るく照らされており、ところどころ小さなサイズの平面作品が3~4点くらいまとめて展示されていて流れのリズムを生み出しています。

トンガ出身の画家によるコラージュをベースにしたグラフィカルな作品(タニエラ・ペテロ、テヴィタ・ラトル)や、亡くなった息子と妻の想いを胸に公務員を定年退職後、美大に入り直して絵を学んだ画家による素朴ながらも力強い作品(小笠原盛久)、東北の廃村の家屋を絵の具を積み上げるように描いた、小さい画面にずっしりとした重みが感じられる作品(後藤拓朗)など、大きな脚光をあびることなく誠実に制作に向き合いつづける作家たちの作品が並びます。

2階の1角には大きなスクリーンが設けられ、パキスタン出身の作家ヒラ・ナビさんの映像作品が映し出されています。パキスタンの海辺の貧しい街に運ばれてきた巨大なタンカー。その大きな鋼鉄の塊が貧しい人々の手によって解体されていきます。流出する重油が自らの体から流れ出る血として海洋を汚染していくことを憂うタンカーの声が、廃墟となった元パチンコ店の空間に響き、その周辺の福知山駅前のシャッター商店街の物悲しい現実を浮かびあがらせるようです。

1階に降りると会場の雰囲気はガラリとかわり、静寂につつまれた暗がりの中、古びたパチンコ台が何列にも並び、その合間に作品が展示されています。

石や塩などの鉱物を手掛かりに人間が形作る文化を浮かび上がらせる石黒健一さんは、福知山近郊の山頂に電力会社が設置した通信用マイクロ波反射板に人の手を映し出すことを試み、その様子をとらえた薄暗い16mmフィルムの映像を展示し、陶芸家の坂本森海さんは、ずらりと並ぶパチンコ台と祈りの場としての祭壇を類比し、陶芸で中央アジアの石窟寺院を彷彿とさせるような3連の折り畳み式の移動式祭壇を作りパチンコ台の列の中に置いた展示を行いました。

とりあげられた作家たちは、現代美術ではあまりなじみのない国の出身であったり、退職後に画家となるなどの特殊な経歴であったり、あるいは年齢が若いためにあまり知られていなかったりと、これまで人々の目に触れられる機会が限られてきた方々が多く含まれていた印象を持ちました。そうした作家たちが、アーティストとして「世の光」となるべく、その使命を寡黙に果たしていく姿が、展覧会全体を通して感じられて、あらためて芸術が私たちに果たすべき役割について考える機会となりました。

「余の光/Light of My World」展の会場となったJR福知山駅前の旧銀鈴ビル

展覧会風景(2F)右の6点の絵画は本田大起の作品


中央の絵画は小笠原盛久の作品、両側の2点は堀内悠希の作品

トンガ出身の作家タニエラ・ペテロの作品

パキスタン出身の作家ヒラ・ナビの映像作品「All That Perishes at the Edge of Land」

後藤巧朗の作品「米沢の家」(左)、「大滝宿」(右)

展覧会風景(1F)元パチンコ店 旧銀鈴ビル1階

石黒健一の作品「Monstration」福知山近郊の三岳山にあるマイクロ波通信用の反射板。そこに手のイメージを投影した。

坂本森海による陶芸の作品「Praying room」

小宮太郎の作品「輪切りにされた光(たまにホロレチュチュパレロ)」黄金に輝くユダヤの象徴ダビデの星(六芒星)の巨大なオブジェがゆっくりと回転する

曽根知 コンテンポラリーダンス公演「No Man’s Land」が開催されました
2021年11月30日

京都とイスラエルを拠点に活動するコンテンポラリーダンサーの曽根知さんのダンス公演「No Man’s Land」が、10月3日にロームシアター京都ノースホールで開催されました。

曽根知さんは、幼少よりクラシックバレエを学び、バレエダンサーとしても活躍しておりましたが、2008年にイスラエルに渡り、コンテンポラリーダンスの活動を本格化させます。その後、日本・イスラエル国際ダンスプロジェクトを立ち上げて継続的な取り組みを行うほか、イスラエル人振付家やダンサーらと共に公演の企画、作品の振り付け、出演を行うなど、日本とイスラエルの双方で精力的に活躍されています。

今回の公演はアーツサポート関西の助成を受けて行われるもので、2015年にイスラエルで初演された「Mobius」、2020年に舞台作品としてイスラエルで初演され今回は映像作品として公開された「No Man’s Land」、そして今年の8月にポーランドで初演された「Written in the dressing room」の3作品で構成されたプログラムとなりました。

最初の作品「Mobius」は、曽根さんの振付による作品で、ダンサーの金愛珠さんがソロで踊りました。曽根さんのテキストによれば、矛盾という概念を扱った作品で、反戦運動として抗議する者たち自身の暴力と憎悪といった、メディアで見せられるイデオロギー的な矛盾や問題への言及がなされています。重苦しい雰囲気の中で、身体の基本的な動きにフォーカスしたプリミティブな印象を受けました。

2作品目の「No Man’s Land」は、一転して雰囲気が変わり、ある男の日常の一角が描かれます。四方が壁に囲まれた小部屋の中で、そこに置かれたカウチで目覚めるひとりの男。手がとどくところにある電気湯沸かし器に手を伸ばそうとすると、おかしな動作をしはじめ、そのうちカウチが動き出し、植物が伸びてきて、男はどたばたの中、おもわず自然と体全体でダンスを踊りだす・・・。ユーモアとビートの効いた音楽がとても新鮮でした。

最後の「Written in the dressing room」は今年ポーランドで初演された、コロナ禍の中で生まれた作品です。曽根さんがソロで踊りました。頭に不思議な「物体」が付着したひとりの女性が、空気の流れや、時間の経過に翻弄されるかのように、しなだれ、うっぷし、飛び跳ね、駆け回る、といいった、何かに突き動かされるような身体の動きを見せます。この作品に寄せたテキストで曽根さんは「この作品では、期待という概念を、振付家や観客からダンサーへの期待に反映させ表現することを試みている」と書いていて、観客の「期待」に反応しながら踊りつつも、しかし同時に「期待に応えながら、快適で幸せに生きる方法を提案した。私は他人の期待のために踊るのではなく、踊りたいから踊るのだ」とも述べていて、この作品自体がコロナ禍におけるアーティストによる力強いステートメントのように感じました。

全体として、コンテンポラリーダンスの通常の公演で感じられる雰囲気とは何か違う、新鮮な要素が随所に感じられて、それらが表現に対する曽根さんのチャレンジ精神のあらわれのように思いました。



No man's Land  振付・出演 アビダン・ベン・ギアト 写真:井上 嘉和

Written in the dressing room 振付・出演 曽根 知 写真:井上 嘉和

日本電通メディアアート支援寄金助成 支援で制作された作品について
2021年11月26日

1947年に大阪市阿倍野区で創業した日本電通株式会社の創設70周年を記念し、同社よりお寄せいただいた寄付をもとに、関西におけるメディアアートの振興・発展およびアーティストの育成を目的として「日本電通メディアアート支援寄金」を設け、2018年度、2019年度、2021年度の3回にわたり、各回とも総額100万円を、新たな価値観や萌芽性をはらんだメディアート作品の制作費支援として助成いたしました。
本助成金は、メディアアートを対象とした助成金が少ない中、若い世代を中心に11組のアーティストを支援し、関西におけるメディアアートの振興と発展に確実に貢献いたしました。助成金を得て制作された作品の中には、Nissan Art Awardファイナリスト選出にもつながった三原聡一郎氏の作品《moids+∞》のように、メディアアートの枠を超え、現代アートの文脈で高い評価を得た作品が生まれました。

堀江牧生「デビューCD制作・収録記念演奏会 第1回~第3回」が開催されました
2021年11月25日

大阪を拠点に活躍するチェリストの堀江牧生さんがデビューCDを制作するにあたり、収録曲を中心に共演者とともに演奏を披露する記念コンサートが3回にわたりグランフロント大阪にある島村楽器ピアノセレクションルームで開催されました。アーツサポート関西は、この堀江さんのCD制作をサポートしています。

堀江牧生さんは、1990年吹田市に生まれ、3歳よりチェロを始め、大阪府立夕陽丘高等学校を経て、東京音楽大学付属高等学校、東京音楽大学、ウィーン国立音楽大学を経て、モスクワ音楽院に学びます。モスクワ音楽院卒業後は、モスクワのロシア国立ボリショイ劇場管弦楽団にてチェリストとして活躍。国内外のオーケストラとの共演も多く、昨年は関西フィルハーモニー管弦楽団とドボルザークのチェロ協奏曲を共演し高く評価されました。現在は地元吹田市を中心に、同世代の演奏家たちとともにリサイタル活動などを精力的に行っています。また弟のヴァイオリニストの恵太さん、妹でピアニストの詩葉さんとともに堀江トリオとして活動していることでも知られています。

今回のCDの制作では、堀江さんがモスクワ留学時代に現地で親交のあった同世代の音楽仲間である3人のピアニストを招いて収録が行われ、その成果を6月から11月にかけて、それぞれ3人のピアニストとともに演奏会形式で披露しました。

6月29日に行われた第1回目には、ピアニストの入江一雄さんを招いて、ベートーヴェンのチェロ・ソナタ第5番を中心としたプログラムを演奏しました。入江さんは東京芸術大学および大学院をいずれも首席で卒業し、第77回日本音楽コンクールで優勝を飾るなど国内トップクラスの評価を持つピアニストとしてモスクワ音楽院に留学。国内外のオーケストラとの共演も数多く行っています。

9月20日の第2回目には、ピアニストの沼沢淑音さんが登場。沼沢さんは桐朋学園を経て、桐朋学園から特別奨学金を授与され2015年モスクワ音楽院を卒業。シュニトケ国際コンクール、ポッツォーリ国際ピアノコンクールなどで優勝を飾るなど国際的に活躍されています。演奏はグリーグのチェロ・ソナタを中心としたプログラムで、アンコールでは二人が即興でその場で決めた曲を次々と披露し、観客を沸かせました。

11月15日の第3回目は、ピアニストの佐藤彦大さんを招いて行われ、プーランクのチェロ・ソナタを演奏。また2曲目は、堀江さんの弦楽四重奏仲間であるヴァイオリンの杉江洋子さんを交え、ブラームスのピアノ三重奏曲第1番を演奏しました。佐藤さんは東京音大を経て、モスクワ音楽院に学び、第76回日本音楽コンクール優勝をはじめ、東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団など国内の主要なオーケストラと数多くの共演をしており、今後注目される存在です。

堀江さんのCD制作のために、かつて一緒にモスクワ音楽院で学び、今はそれぞれが第一線で活躍する才能あふれる若き音楽家たちが、堀江さんのCD制作のためにはせ参じ、ともに曲を研究し、収録に臨み、その成果を一般に披露した今回の取り組みは、小規模の演奏会ながらも、いずれの回も圧倒的な水準の演奏を聞かせるものとなり、彼らの音楽家としての卓越した力量と、それを間近に聞くことができた喜び、そして今後のさらなる飛躍を大いに感じることとなった演奏会でした。CDの完成が、今から非常に待ち遠しくなりました。

左から、堀江牧生さん、入江一雄さん、沼沢淑音さん、佐藤彦大さん

第3回目の演奏風景(11月15日)場所:島村楽器ピアノセレクションルーム ヴァイオリン:杉江洋子さん、ピアノ:佐藤彦大さん、チェロ:堀江牧生さん

 

「バレエで音楽を描く ー 継往開来」が開催されました
2021年11月17日

本年度ASKが支援するピアニストの乾将万さんが2年越しで企画したコンサート「バレエで音楽を描く ー 継住開来」が、11月3日に兵庫県芸術文化センター阪急中ホールで開催されました。

乾将万さんは、1991年大阪府茨木市生まれの若手新進気鋭のピアニストで、大阪音大大学院を経て、ハンガリー政府給付奨学生としてハンガリー国立リスト音楽院に学びました。現在は茨木市を拠点に演奏活動を行うほか、自ら様々な演奏会を企画するなど、ピアニストのみならず幅広く活躍されています。

「バレエで音楽を描くー継往開来」は、バレエと音楽を融合させる取り組みとして、「ダンスの振り付けや身体的な動きによって音楽の可視化」を目指そうとしたものです。単に音楽に合わせてバレエを踊るのではなく、音楽が音によって描き出す何かをダンサーがとらえて身体で表現する ― そのような解釈ができるかも知れません。前半に演奏された「オンディーヌ」は、久保田洋子が本公演のために書き下ろした作品で、人間に恋をし悲しい運命をたどる美しい水の精霊の物語を音楽と踊りが描き出します。全体的に音楽とバレエが調和しながら進んでいくオーソドックスなバレエ曲の体裁の作品となっています。後半のストラヴィンスキーの「春の祭典」は、終始、前衛的で抽象的なイメージが前面に表現された作品で、随所に、身体的な動きによる音楽の可視化を思わせる場面が見て取れました。

この公演のリハーサルは、2019年12月から始まり、月3~5回のリハーサルを続けながら行ったリハーサルは100回近くに及ぶそうです。タイトルにある「継往開来」とは、先人の文化を継承し未来を開くという意味を持つ言葉で、そこに乾さんをはじめ若い演奏家たちの意気込みが感じられます。これからの若い演奏家やバレエダンサーの方々の活躍にぜひ期待したいと思わせられる、力強いメッセージが込められた舞台でした。

小出麻代「月に、日に」展
2021年11月7日

現代美術アーティストの小出さんの個展「月に、日に」が、京都の河原町にあるギャラリーVOU/棒で開催されました(2021年10月9日~10月31日)。小出さんは、1983年大阪市生まれで、2009年京都精華大学大学院(博士課程前期)で学び、近年は様々な場所に赴き、場所そのものや、そこに関りを持つ人とのやり取りを起点に「記憶」や「時間」にまつわるインスタレーション作品を手掛けています。
今回の個展「月に、日に」は、明治時代に発行された「古歴」とのめぐり逢いから、暦にかかわる月と日、光と影、そして長い時間を超えて続く人の営みなどにまつわるさまざまなイメージを生み出し、それらを空間全体をつかったインスタレーション作品として構成しました。メインの空間には、女性たちが黙々と手を動かしながら制作するキルティングに着想を得た大きな紙のコラージュが天井から吊り下げられ、そこに手作業をする女性のシルエットが映し出されています。その手前には、あたかも循環しながら着実に時間を前に進めていく暦を思わせるかのように、乳白色のガラスのボールの底に置かれた古歴を、天井から吊り下げられた石が振り子のようにがたどっていくイメージが描かれています。観念的な展示でありながらも、白く大きな紙のコラージュにあしらわれたパターンの美しさや、暦が入ったガラスにあたる軽やかな音がここち良く感じられる展覧会でした。


田中秀介 個展「馴れ初め丁場」が開催されました
2021年11月4日

現代美術家の田中秀介さんの個展「馴れ初め丁場」が、京都府南丹市の八木町にあるかつての酒蔵、旧八木酒造跡地にできたオーエヤマ・アートサイトで開催されました。オーエヤマ・アートサイトは、京都にある高級デニッシュで知られるグランマーブル社が持つ現代美術ギャラリーGallery PARC(ギャラリー・パルク)が運営する現代アートのためのスペースです。日本酒を仕込む大きな木桶やさまざまな道具類がそのまま残された酒蔵の空間の至るところに、田中さんによる20点の絵画が展示されました。

田中秀介さんは、1986年和歌山県生まれで、2009年に大阪芸術大学美術学科油画コースを卒業した現代美術の画家で、現在大阪を拠点に、現代の日常的な空気感を独特の感性でとらえる作品で大変注目されています。昨年は生まれ故郷にある和歌山県立美術館で個展が開催されました。

今回展示されている作品は、展示空間にあわせて新たに作られた新作とこれまで描きためてきた作品で構成されています。酒蔵の空間は、現代アートを見せる場所として使うために新しく壁を立てたり壁面を塗装し直したりすることは一切なく、酒蔵として使われてきた状態がそのまま継承されており、部屋は元の用途に合わせてサイズや天井高もさまざまです。田中さんは、いろいろなサイズの部屋が1階と2階にわかれて入り組み、いたるところに道具が無造作に置かれている空間や壁面に漂う酒蔵ならではの趣と、自分の作品との響き合いを目指し、来訪者が古い酒蔵が醸し出す伝統的な建物の懐かしさや美しさを感じ取りつつ、自然と作品が映し出す少し非日常性の風景に触れていくようなゆるやかな構成と配置を考えたのだと思いました。

古い日本の映画を見ているような昭和初期の時代の空気が感じられる空間の中で、現代的な絵画の面白さが際立ってみえる、空間とアートの組み合わせの妙を十分に堪能することができた展覧会でした。

「第7回上方落語若手噺家グランプリ2021決勝戦」が開催されました
2021年10月18日

第7回上方落語若手噺家グランプリ2021の決勝戦が、天満天神繁昌亭にて9月28日に開催されました。

毎年4月に4回の予選会を実施し、6月に決勝戦を開催する日程で行ってきた同グランプリですが、昨年より新型コロナの影響で開催時期が変更となり、昨年は12月予選、年を越した2月に決勝という日程で開催いたしました。今年は7月に予選、9月に決勝という再び変則的な日程で行うこととなりました。新型コロナにより、噺家のみなさんも高座の中止や延期などで大きな痛手を受けていますが、アーツサポート関西が支援して行われているこの上方落語若手噺家グランプリは、若手噺家のみなさんにとって重要な目標のひとつとなっており、主催者の上方落語協会でも、なんとか良い形で開催してあげたいという強い思いが込められていることを感じます。

今回の決勝戦は、予選を勝ち上がった桂九ノ一さん、月亭希遊さん、笑福亭智丸さん、笑福亭喬介さん、月亭遊真さん、桂二葉さん、桂そうばさん、桂華紋さん、桂小鯛さんの9名の競演となり、みなさん決勝戦に向けて磨きあげてきた渾身の珠玉ネタを存分に披露し、会場は爆笑につぐ爆笑となり大いに盛り上がりました。審査は在阪テレビ局のディレクターの方々らによって行われ、その結果、創作落語「落語夫婦」を演じた桂小鯛さんが見事グランプリに輝き、また準ブランプリは初の女性噺家での受賞となる「近日息子」を演じた桂二葉さんに贈られました。

お二人とも、落語に真摯に向き合い、芸を磨いていこうとする研究熱心さが随所に見て取れ、それが落語の圧倒的な表現力となって見る者の心をとらえるプロフェッショナリズムのようなものが、若いながらも卓越していると感じました。

表彰式に参加したグランプリの生みの親である寄付者の寺田千代乃氏は「毎年レベルが上がっているのを感じます。ぜひもっともっと盛り上げていきましょう!」と参加した若い噺家さんたちにエールを贈っていらっしゃいました。

「文楽夢想 継承伝」の開催
2021年8月20日

若手の技芸員たちに経験を積ませることを目的に、若手とベテランが通常の枠を超えた配役で演じる文楽初の試み「文楽夢想 継承伝」が、文楽の人形遣いの吉田玉翔さんを中心とする文楽技芸員たちの手によって企画され、2021年8月7日、国立文楽劇場で開催されました。

この公演は、太夫および三味線では若手がその曲の中心となる「シン」をつとめ、先輩がサポート役のスソに回り、人形遣いでは、師匠と弟子、そして親と子の共演となるなど、通常では見られない配役で、まさに若手がベテランに挑む緊張感ただよう舞台となりました。

途中、先日人間国宝となった桐竹勘十郎さんとベテランの吉田玉男さんのお二人に当協会理事長の﨑元が加わり、この取り組みの意義を語る場面もありました。

演目は、「二人三番叟」で、桐竹勘十郎さんと弟子の勘介さんがぴったりと息のあった踊りを披露し、「傾城阿波の鳴門 巡礼歌の段」では母と娘を実の親子である吉田一輔さんと蓑悠さんが親子の別れを情感たっぷりに描き、最後の「五条橋」では、吉田玉男さんが牛若丸を、弟子の玉路さんが弁慶を演じ、師弟の見事な連携で五条橋での弁慶・牛若丸の激しい戦いの場を見事に演じ切りました。

この公演を企画した吉田玉翔さんは、今後もぜひこの取り組みを続けていき、若い技芸員たちの一つの目標としていきたいと語っていました。

企画協力 カルティエ 心斎橋ブティック・コンサート
2021年8月5日

大阪心斎橋に5月に移転リニューアルオープンしたカルティエ 心斎橋ブティックにおいて、2021年7月31日、アーツサポート関西ASKの協力のもと、ASKが注目する二人の若手演奏家によるコンサートが開催されました。

このコンサートはコロナ禍の中、大阪の若いアーティストに発表の場を提供したいというカルティエからの提案で実現したもので、昨年ASKが助成したヴァイオリニストの谷本沙綾さんと、チェリストの松蔭ひかりさんのお二人に登場いただきました。

谷本さんと松蔭さんは、相愛高校から2019年相愛大学に特別奨学生として進学した同学年の二人で、2018年、相愛高校3年時に国内音楽コンクールの最高峰として知られる第72回全国学生音楽コンクールでヴァイオリンとチェロのそれぞれで第1位を獲得。同じ学校の同学年での同時1位はお二人が初めての快挙でした。

フランス人デザイナーの手による、色や素材など細部に至るまでこだわりぬいた美しい空間の中で、谷本さんと松蔭さんはカルティエのジュエリーを身に着け、透明感のある凛とした響きの見事なデュエットを披露し、集まった人々を魅了しました。

ASKでは今後ともアーティストの活動の場の拡大につながる支援を行っていきたいと考えています。

HMPシアターカンパニー 「仮想劇場 夜、ナク、鳥」オンライン配信公演
2021年7月30日

演劇の可能性に真摯に向き合いながら、大阪の現代演劇界の推進役のような役割を果たしてきたHMPシアターカンパニー。新型コロナによって劇場での上演ができなくなった状況において、彼らは再び演劇と向き合い、オンライン会議システムを利用した独自の演劇形態を作り出し、2021年7月16日~18日、故・大竹野正典作「夜、ナク、鳥」をオンライン配信によって上演しました。

上演はズームを利用して行われ、それぞれ個室に分かれて演技をする俳優の動きをデジタル処理で統合させて、ひとつの演劇として見せる趣向です。人物は強いコントラストが効いたモノトーンのイメージで描出されます。

ストーリーは、人の命を救うはずの看護婦たちが、非道な悪巧みを意図する友人にそそのかされて、夫たちの保険金殺人に手を染めていくというスリリングな内容。生と死、友情と裏切りというさまざまな対立軸が絡み合いながら進行し、思わずストーリーに引き込まれていきます。

劇団を主宰する演出家の笠井友仁さんは、演劇における観客の重要性を主張します。それが単なる演劇を記録した映像の配信ではない、リアルタイムで鑑賞される今回の上演方法につながりました。

企画協力 北御堂花まつりコンサート
2021年4月25日

新型コロナの影響により発表の場を失った関西の若い芸術家たちを支援しようと、大阪ロータリークラブ社会奉仕委員会の呼びかけで、2021年4月8日、大阪御堂筋にある本願寺津村別院「北御堂」の本堂にて、関西の若手弦楽器奏者を集めた演奏会「スーパークラシックアンサンブル 花まつりコンサート」が開催されました。アーツサポート関西ASKは、企画協力として関わりました。

演奏を行った「スーパークラシックアンサンブル」は、指揮者の佐渡裕さんが主宰する「スーパーキッズオーケストラ」のOG・OBを中心に、23名によって新たに結成されたアンサンブルで、メンバーはいずれも世界を目指す精鋭ぞろい。お釈迦様の誕生日である4月8日の花まつりにふさわしい、生命力に満ち溢れた世界水準の音楽が、コロナ禍の苦境でがんばるすべての人々へのエールとして北御堂の本堂に響きました。今回の企画の取りまとめ役のコンサートマスターの堀江恵太さんは、昨年ASKの助成対象者でもありました。

聴衆には、北御堂の特別のはからいで、医療従事者の方々や、大阪市社会福祉協議会の協力により普段クラシックの演奏会に足を運べない障害のある方々など100名ほどが招待され、バッハの「G線上のアリア」やモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」などの良く知られた曲から、R.シュトラウスの「メタモルフォーゼン」といった生命の尊さをテーマとした曲などにみなさん静かに聞き入っている姿がとても印象的でした。

第6回上方落語若手噺家グランプリ2020決勝戦
2021年2月21日

アーツサポート関西は、2015年より、「寺田千代乃 上方落語若手噺家支援寄金」として設けられた500万円のファンドから、毎年50万円を天満天神繁昌亭で開催される「上方落語若手噺家グランプリ」に対し助成をしています。このグランプリは、(公財)上方落語協会の主催により上方落語の若手噺家を対象に設けられたもので、決勝戦のチケットはいつも販売とほぼ同時に完売状態。繁昌亭の中でも屈指の人気を誇ります。長い伝統を持つ他の賞と肩をならべる形で若手の登竜門として定着し、上方の若い噺家たちの大きな目標となっています。
2020年はその第6回目にあたります。グランプリは毎年、4月に4回の予選と6月に決勝戦を行いますが、2020年は新型コロナの影響により、開催自体が危ぶまれる中、12月に予選の時期をずらし、2021年2月19にグランプリ決勝戦を行いました。
12月に行われた予選には、参加資格を持つ36人の若手噺家がエントリー。9名ずつが4回の予選に分かれて出場し、予選上位2名と予選4回で最高点の第3位1名が決勝戦に出場しました。
決勝戦には予選を勝ち抜いた笑福亭べ瓶さん、桂文五郎さん、桂華紋さん、笑福亭笑利さん、露の紫さん、桂九ノ一さん、林家染八さん、桂三四郎さん、桂三実さんの9名が出場。いずれも練り上げられた渾身のネタで会場を爆笑の渦に巻き込みました。審査の結果、第1回目から6回連続で決勝戦を戦ってきた桂三四郎さんが、那須与一の古典的な話しを絶妙にアレンジした創作落語「扇の的」で見事グランプリを射止めました。三四郎さんは、数年前から拠点を東京に移すも、このグランプリに強い意欲で挑み続け、その熱い想いが伝わってくる圧巻の落語でした。準優勝は同じ桂文枝一門の桂三実さんとなり、同門でのワン・ツー・フィニッシュを飾りました。

林本大(能楽師)さんの能の魅力を伝える普及活動を支援
2021年1月31日

能楽師の林本さんは、大学で能の魅力触れ、世襲ではなく一般の家庭から能楽の道に入りました。
能などの伝統芸能を多くの方に知ってもらいたいと、落語、講談、文楽などの若手演者とともに若い世代向けの舞台公演を行うほか、能をわかりやすく解説する入門講座「能meets」を2019年に立ち上げ、ほぼ月1回のペースで能楽の紹介に取り組んできました。
「能meets」は、今年のコロナ禍においても精力的に行われ、主に北浜と岸和田の2つの会場を使って、能装束や小道具をはじめ、舞や殺陣、演目の解説など、「あまり知られてないが、実は知れば知るほど能楽が面白くなる」小ネタやエピソードをふんだんに披露。
コロナで前半は活動できなかったにもかかわらず、半年間でのべ600人以上が参加し、能の奥深い魅力に多くの人々が触れることとなりました。



杉江能楽堂での「能meets」

野原万里絵(現代美術)さんのワークショップ開催や作品の制作などを支援
2021年1月31日

大阪を拠点に活動する現代美術アーティストの野原万里絵さんの作品は、多くの人々の力を借りて制作されます。11月に枚方市で行った展示では、大人や子供たちから理想の公園のイメージを募集し、アイデアを考えた人たちと一緒にイメージを膨らませ、形を整え、色を足し、また会場の道具や備品なども取り込んで、空間インスタレーション作品を作り、展示しました。
また秋から冬にかけて青森市にある国際芸術センター青森に3か月間滞在し、青森の海で拾ってきた石を地元の人々に絵に描いてもらい、そこから感じ取ったインスピレーションをもとに、野原さんが少しずつ手を加え、組み合わせを考えて、壁いっぱいに広がる大きな一つの作品として構成しました。
野原さんの作品では、いろいろな人の思いが、彼女の感動や発見となり、そこから作品が生まれます。人と人とがつながることの豊かさを、それは教えてくれます。


国際芸術センター青森で制作をする野原万里絵さん

ヴァイオリニスト堀江恵太さんの演奏活動を支援
2021年1月31日

ヴァイオリニストの堀江恵太さんは、京都市立芸大を経て、ウィーン国立音楽大学で学んだ新進気鋭の演奏家で、関西を拠点に精力的な活動を行っています。
今年はコロナ禍にもかかわらず、堀江さんは積極的に演奏活動に取り組んでいます。8月には兄のチェリストの牧生さん、妹のピアニストの詩葉さんとともに「堀江トリオ」として、ザ・シンフォニーホールが行う公式オンライン演奏会の第1回目に選ばれ、ホールの舞台から素晴らしい生演奏を披露。「堀江トリオ」としては、ABCアナウンサーでお父様の政生氏とともにクラシックの魅力を伝えるネットラジオ番組もライブ配信中です。また、7月にはNHK・FMの若手演奏家を紹介する番組「パッシオ」にも出演しました。
コロナが少し落ち着いた9月からは、同世代の演奏家仲間に声をかけて企画した室内楽コンサートを数多く開催。その数は12月までの3か月間で10回にのぼります。
コロナ禍であるからこそ表現したい音楽がある ー 堀江さんの活動から、そんな熱い思いが伝わってきます。



演奏家の仲間とともに:堀江恵太さん、福岡昂大さん、柳原史佳さん、谷口晃基さん

展覧会「類比の鏡/THE ANALOGICAL MIRRORS」
2021年1月31日

■会期:2020年11月6日[金] – 12月6日[日](会期中の金土日祝のみ/全16日間) 
■会場:山中suplex
■参加作家: アンドラーシュ・チェーファルヴァイ(スロヴァキア)、石黒健一、小笠原 周、木村 舜、小西由悟、小宮太郎、坂本森海、本田大起、パトリツィア・プリフ(ポーランド)、前谷 開、宮木亜菜、若林 亮、和田直祐、ヤロスワフ・コズウォフスキ(ポーランド)、ユ・チェンタ(台湾) 

アーツサポート関西が2020年度に支援する堤さんは、現代美術の展覧会を企画するフリーランスのキュレーターです。京都と滋賀の県境にある、若いアーティストたちの共同アトリエ「山中Suplex」で行われる展覧会のディレクターでもあり、11月に、ドライブイン形式の展覧会「類比の鏡/THE ANALOGICAL MIRRORS」を企画・開催しました。
展覧会は日没から始まり、作品の鑑賞はすべて車の中から。完全時間予約制です。アトリエの画材や機材の合間に彫刻や映像作品などが展示されており、バラックのような小屋をサファリパーク感覚で巡っていきます。展示には鑑賞者の視点への配慮がなされ、普段より集中して見ることができました。
窓をあけると周囲の深い森から冷たい空気が感じられます。展覧会の不思議な状況に、芸術の理解に理知的な説明は不要であることを感じさせられました。


撮影:前谷開

Flügel abend 2019 アーツサポート関西 5 周年記念公演
2019年10月25日

「文化には、人々に感動を与え、創造性を刺激し、相互理解を深め、都市を活性化する力がある」 ― 未来へ羽ばたく大阪の若いアーティストたちを発信しようと、公益財団法人関西・大阪21世紀協会がザ・シンフォニーホールの全面的な協力の下で開催した「Flügel abend 2019」。

アーツサポート関西からは、その創立5周年の記念公演として、これまで支援をしてきたアーティストの方々にご出演いただき、圧巻のパフォーマンスを披露していただきました。

ご出演いただいたのは、上方舞楳茂都流の楳茂都梅弥月さん、邦楽演奏家の菊央雄司さん、マリンバ奏者の大森香奈さん、ヴァイオリン奏者の谷本沙綾さんの4名です。また全体の演奏を担当した関西フィルハーモニー管弦楽団も、アーツサポート関西から数回にわたり助成支援を受けています。

舞台上ではみなさん司会者からインタビューを受け、今後の抱負などを語りました。

■楳茂都梅弥月さん 上方舞楳茂都流師範
「(楳茂都流の譜面を研究する研究会では)毎月、先生方のお教えをいただきながら、楳茂都流に伝わる舞踊譜を忠実に譜面に起こしています。私は子どもの頃から洋舞もしており、現在はダンサーとしても活動しています。これからも皆さんに楽しんでいただけるよう頑張ります」

■菊央雄司さん 邦楽演奏家 
「地唄は大阪が発祥で、平家物語を語る琵琶法師が三味線に持ち替えて始めたもの。私は現在、アーツサポート関西の支援を受けて、日本音楽の源流の一つである平家琵琶を大阪の地で保存復曲し、世界へ発信する活動をしています」

■大森香奈さん マリンバ奏者
「マリンバを叩く赤いマレットは、大森香奈モデルとして世界中で販売されており、多くの打楽器奏者に使っていただいています。アーツサポート関西5周年の記念に、指揮の藤岡幸夫さん、関西フィルハーモニー管弦楽団と共演させていただいたことを、とても幸せに思います」

■谷本沙綾さん ヴァイオリン奏者
「シベリウスは私の大好きな曲。それを素晴らしいホールで、憧れの藤岡幸夫さんや関西フィルハーモニー管弦楽団と共演できて幸せでした。今後は海外留学をして、関西に帰ってきたときには、多くの人の心を幸せにするヴァイオリニストになりたいと思っています」


上方舞楳茂都流の楳茂都梅弥月さん


邦楽演奏家の菊央雄司さん


マリンバ奏者の大森香奈さん


ヴァイオリニストの谷本沙綾さん



【活動報告】日本電通メディアアート支援寄金(メディアアートへの助成活動)
2019年5月17日

アーツサポート関西は、2018年度、関西におけるメディアアートの振興と発展を目的とした「日本電通メディアアート支援寄金」より、関西を拠点に活動する3組のメディアアーティストに対し、総額100万円を作品の制作費支援として助成いたしました。

「日本電通メディアアート支援寄金」は、1947年に大阪市阿倍野区で創業した日本電通株式会社が同社の創業70周年を記念しアーツサポート関西に設けたもので、情報通信インフラストラクチャ―の構築や情報通信テクノロジーに関わる様々なソリューション開発などを行う同社の取り組みと深く結びつく、いわゆるメディアアートの可能性の拡大や新たな展開の促進を目的としており、関西で活動するメディアアーティストを対象に2018年から21年にかけて総額300万円の助成を予定しています。
メディアアートは、情報通信テクノロジーなどの新しい技術やそれによって生み出されたデジタル機器などを使用し新たな芸術表現を創造しようとするもので、近年のICTやインターネットの急激な進展とともに芸術そのものを拡張する可能性を秘めたものとして大きく注目されています。

助成事業の開始に先立ち、「日本電通メディアアート支援寄金」の発足に関して、2019年3月20日、大阪市中央区のグランフロント大阪内のナレッジキャピタルにて、日本電通をはじめアーツサポート関西やナレッジキャピタルの関係者らが参加し、記者発表を行いました。また、それに引き続き、日本を代表するメディアアーティストの明和電機代表の土佐信道氏、大阪大学の准教授でアーティストでもある安藤英由樹氏、美術ライターの原久子氏をお招きしてシンポジウムを開催し、メディアアートの現況や今後の課題などについて事例紹介や課題の提起などが行われました。

記者会見の様子 2018.3.20 会場:ナレッジキャピタル 記者会見の様子 2018.3.20 会場:ナレッジキャピタル

昨年度の助成では、5月1日~6月31日にかけて、公募で申請を受付けたところ13名の応募がありました。メディアアートは技術的に高い専門性が介在する分野でもあるため、情報通信テクノロジーを研究する大学の研究者などが集まった専門家集団Vislab Osakaの協力もいただだきながら選考を行った結果、三原聡一郎、林智子、林勇気&SJQの3組のアーティストに、それぞれ20万円、30万円、50万円を支援することとなりました。

三原聡一郎が手掛けた作品《moids ∞》は、京都の古い家屋を利用した会場「瑞雲庵」で三原自身の企画で開催された展覧会「空白より 感得する」(2018年10月13~11月11日)において展示発表されました。会場の一角にある古い蔵の天井から、雲を想起させるような形状に組み合われた数百におよぶ小さなデバイスが吊り下げられており、その一つ一つが音に反応して小さなスパークを発するようになっています。一つのデバイスが音に反応して青白いスパークを発光するとその破裂音が他のデバイスのスパークを誘発し、それが次々と連鎖反応を起こすことで、デバイスの雲の内部でパチパチと音をたてながら、おびただしい数の青白い光が明滅していきます。音と放電という原初的な物理現象に依拠した作品ではありますが、電子が演じるアナログな視覚性が、古民家の趣のある空間の中で、幻想的な光景を醸し出していました。

斎藤一樹+三原聡一郎《moids ∞》(2018) 斎藤一樹+三原聡一郎《moids ∞》(2018)

林智子の作品《Psyches》は、台湾で開催されたメディアアートのフェスティバル「Taoyuan Art and Technology Festival2018」(2018年9月27日~10月14日 桃園市、台湾)で展示されました。林は、人と人との感情や感覚の交流に興味を持ち、そうした人間の深部とつながるコミュニケーションの有り様をテクノロジーを駆使したメディアアート作品として表現しています。助成を受けて制作した《Psyches》は、一つの空間に配置されたテーブルと1対の椅子、2つのiPhone、そしてiPhoneから部屋全体を這うように配された光ファイバーケーブルで構成されています。作品を体験する参加者(恋人同士が理想)は2名ペアとなって椅子に座り、お互いが見つめ合います。その二人の眼の表情をiPhoneが捉え、解析し、そこに心の律動や共振が生じると、光ケーブルの中で二色の光が混ざり合うように発光し、二人の温かな心の律動や揺らぎを展示空間に響きわたらせます。芸術は古来より愛や感情を伝えてきました。林は絵具やキャンバスの代わりにテクノロジーを使ってそうした表現を行っています。

林智子 《Psyches》(2018) 林智子 《Psyches》(2018)

映像作家の林勇気と前衛的な音楽集団SJQがユニットを組み、2者のコラボレーションとして制作された作品《遣り取りの行方》は、コンピューター上の仮想空間内で人工生命体を生成させ、それらが自律的に生成維持されていくプログラムとその様子を表示する装置からなる作品です。展示は大阪市西区のレトロビルディングとして知られる細野ビルヂングで2019年4月14日~21日に行われました。人工生命体を生み出すのは一般の観客で、SNS上の作品アカウントに自分の写真を送ると、プログラムによってイメージが点と線のパターン化され、それが仮想空間に飛んで人工生命体となり、自身の生を紡いでいきます。仮想空間は観客の記憶を引き継いだ生命体にあふれ、その中で自ずと捕食する者と捕植される者との関係が生じ、また一方でそれを生き抜くための生存戦略が生み出されるなど、その中で独自の生態系が自律的に発生し、そして進化を遂げていくこととなり、見る者を驚かせました。

林勇気+SJQ 《遣り取りの行方》(2019)

P1010399 林勇気+SJQ 《遣り取りの行方》(2019)

メディアアートは専門的な技術や知識を必要とするため、作品の制作には多くの制約がかかります。しかし、その一方で情報通信や映像処理技術の急速な発展にともない、芸術表現としての可能性は大きく拡大し続けています。まだ一般にあまり広く知られていない分野ではありますが、「日本電通メディアアート支援寄金」の取り組みのように、企業がその支援に直接関わっていくことで、メディアアートをめぐる環境が向上していくのではないかと感じました。

ANEWAL Gallery レジデンシープログラム
2018年11月10日

ANEWAL Galleryは、京都の町屋を拠点に、アーティストやデザイナー、カメラマン、アートディレクターなどが集まり、歴史と文化が豊かに積み重ねられた京都の街において、美術・デザインの介入による地域の文化資源の再発見やアートと地域の人々との協働などを図ることを目的に2004年に設立。特に近年は、海外からアーティストを招聘して町屋に住まわせ、京都の日常の暮らしをはじめ、伝統工芸、地域企業、寺社などとの接点づくりを積極的にサポートするアーティスト・イン・レジデンスに力を入れた活動を行っており、現在、3つの町屋が彼らの活動の場となっています。ASKは今年一般公募助成対象事業として20万円を助成しました。4/11~1/29に開催されたフランス人アーティスト、二コラ・オーヴレイの写真展「LISA」をはじめ、4/26~5/13に開催された国際的なグループ展「Multi Layered Identities」、10/5~10/13に開催された二人のフランス人建築家を招いて行われた「町屋の教え展」など、京都の町屋を舞台に、インターナショナルな広がりを地域に密着したプログラムの中にに取り込んだ大変興味深い活動を展開しています。



ハーベストコンサート「第73回&第74回朝の光のクラッシック」(「北倶楽部記念寄金」助成事業)
2018年9月30日

■公演日:第73回コンサート2018年7月16日/第74回コンサート9月7日
■場所:第73回コンサート「ザ・フェニックスホール」/第74回コンサート「クラブ関西」

未来を予感させる若い演奏家たちの高い水準の演奏を、週末のすがすがしい朝の光とともに聴かせる「朝の光のクラシック」は、クラシック音楽を気軽に楽しんでいただくための1,000円という価格も手伝って毎回大好評を博し、すでにその開催は70回を超えています。通常は国内の演奏家が出演していますが、今回ASKの「北倶楽部記念寄金」から45万円の助成を受け、海外で活躍する2人の若き女性演奏者を招いた2つのコンサートが開催されました。第73回コンサート(7/16、ザ・ファニックスホール)の演奏者は、ウィーン在住のヴァイオリン奏者の登坂理利来さん。バッハやモーツァルトなどの名曲を超絶的なテクニックで弾きこなし、聴衆を魅了しました。第74回コンサート(9/7、クラブ関西)には、BBC交響楽団のヴィオラ奏者の牧野葵美さんが登場。英国の音大で学んだ牧野さんは、ピチカート奏法だけで演奏する曲や、19世紀末のデカダンな雰囲気が漂う美し旋律の曲でプログラムを構成し、芸術の奥深さを伝えようとする意図が演奏会から伝わってきました。


牧野葵美(ヴィオラ)


登坂理利子(ヴァイオリン)

ASK支援アーティストが関西経済同友会放談会にてパフォーマンスを披露
2018年9月20日

アーツサポート関西は、関西経済同友会の提言をもとに2014年に創設。同会に所属する企業などから多額のご支援をいただいて参りました。「ASKはどんなアーティストを支援しているのか?」こうした問いかけにお答えすべく、今年2018年の6月から、同友会の月例幹事会の後に行われる放談会(懇親パーティー)にASKが支援しているアーティストをお招きし、パフォーマンスを行っていただく取り組みを始めました。これまでクラシックギタリストの山口莉奈さん、日本舞踊・上方舞楳茂都流の楳茂都梅弥月さん、ヴァイオリニストで世界的に活躍する周防亮介さんにお越しいただき、山口さんと周防さんには卓越した演奏を、楳茂都さんには優美な舞をご披露いただきました。アーティストたちは、パフォーマンスの後に普段交流する機会のあまり無い一流企業のエグゼクティブの方々と語らう時間を持ち、企業関係者の方々は彼らが話す活動の苦労や、最近の取り組み、将来の夢などに熱心に耳を傾け、時には先輩社会人としてのアドバイスを贈っていました。


楳茂都梅弥月さん(左)と菊央雄司さん(右)

第 4 回上方落語 若手噺家グランプリ2018 決勝戦
2018年6月30日

桂ちょうばさんと桂三度さんが同点優勝

上方落語の継承と若手噺家の育成を目的として、アートコーポレーション株式会社の寺田千代乃社長の寄付で創設された「寺田千代乃 上方落語若手噺家支援寄金」(500万円)から、毎年、ASK は若手噺家グランプリを支援しています。その 4 回目の決勝戦が今年 6月19日、天満天神繁昌亭(大阪市北区)で行われ、審査の結果、桂ちょうばさんと桂三度さんの二人が同点で優勝しました。
今回は、入門4~18年の若手噺家40人がエントリーし、4 回の予選を勝ち抜いた 9 人による決勝戦となりました。審査を行うのは在阪のテレビ・ラジオ局のプロデューサーやディレクターの 7 人。持ち時間の 11~13 分を 1 秒でも足りなかったり超えたりすると、いくら大ウケしたとしても大幅な減点が課せられます。そうした厳しい条件をクリアした出演者たちのレベルは非常に高く、前売りチケットも即日完売するほどの人気企画となっています。
死んで地獄へ行った男が地獄で物見遊山を楽しむ『地獄めぐり』で大いに沸かせた桂ちょうばさんは、終演後に受賞の喜びを聞かれて「(入門 18 年目までという)キャリア制限の最後のチャンスだったのでとてもうれしい。最新の時事ネタを入れるために、本番直前まで必死で考えた」とホッとしたようす。また、コンビニへ強盗に入ったら店長や客たちが強盗以上に変人ばかりで大混乱に発展する新作落語『心と心』を好演した桂三度さんは、「予選で出演者の噺を聴いて、なんとレベルの高い戦いかと不安になったが、とにかく多くの笑いを取ろうと考えて新作でチャレンジした」と笑顔で語りました。優勝した二人には、寺田千代乃氏からそれぞれ賞金 20 万円と記念盾が贈られました。


桂ちょうばさん(左)と桂三度さん(右)

丸一鋼管が「ワンコイン文楽」 支援の〝バトン〞を継承
2018年5月10日

大阪発祥でユネスコ世界無形文化遺産でもある人形浄瑠璃文楽。その楽しさを若い世代に伝え、伝統を受け継いでいく「ワンコイン文楽」(NPO 法人 人形浄瑠璃文楽座主催)を支援するため、丸一鋼管株式会社(本社:大阪市西区)が ASK に「丸一鋼管 文楽支援寄金」を創設しました。

ワンコイン文楽への支援は ASK の支援第 1 号として2014 年度にスタート。これまで京阪神ビルディング株式会社(2014~15 年度)、岩谷産業株式会社(2016~17 年度)が支援した 4 年間で延べ 2,000 人を超える若者がこの取り組みを通して国立文楽劇場で文楽を鑑賞し、大きな反響を呼びました。丸一鋼管は 3 代目の支援者となり、近畿圏在学・在勤・在住の30歳以下を対象とする「そうだ、文楽に行こう!ワンコインで文楽 U-30」に対して、2018~19 年度の 2 年間で 500 万円を助成します。

4月23日、国立文楽劇場において寄金創設の記者発表が行われ、同社代表取締役兼CEOの鈴木博之氏は、「地域に根ざした企業活動をモットーとする当社にとって、関西・大阪発のエンターテインメントである文楽への支援ができるのは、地域への恩返しでもあり光栄なこと。私自身、文楽太夫の竹本源大夫さん(人間国宝・2015年没)と懇意にさせていただいた縁で 20 年来小唄を習っており、伝統芸能の支援に携われるのはうれしい」と語りました。

また、記者発表には人形浄瑠璃文楽座理事長で三味線奏者の竹澤團七氏、同理事で人形遣いの吉田玉助氏、作家で大の文楽ファンの有栖川有栖氏らも同席。有栖川氏は、「30代の頃、大阪で物書きをしていて文楽を知らないというのは恥ずかしいと思った。何度か観るうちにその面白さに引き込まれ、文楽ファンを増やそうと会う人ごとに文楽の魅力を語って聞かせてきたが、私一人ではあまりに微力だった。そんな折、ワンコイン文楽やその支援者がいると知り、まさに渡りに舟のような思い」と笑顔で語りました。


左から、丸一鋼管 鈴木博之会長、有栖川有栖さん、竹澤團七さん、吉田玉助さん

一般社団法人タチョナ「庄内つくるオンガク祭2018」
2017年9月30日

■公演日:2018年8月26日
■会場:大阪音楽大学 F号館434教室

タチョナは、アートを取り入れたワークショップを考案・企画し、地域のアートセンター、小学校、自治体などと連携しながら、子供たちに表現することの楽しさや感動を体験させ、生きる力を養い、彼らが創造的に学ぶ場の創出に取り組んでいます。「庄内つくるオンガク祭」は、豊中市南部の庄内地域の子供たちを対象に、既存の楽器も譜面も使わず、ワークショップと演奏会を通して楽しく音楽を体験させるプロジェクト。ASKは一般公募助成対象事業として50万円を助成しました。豊中市南部エリアは生活保護世帯や母子家庭率も高く、社会的な課題も少なくありません。このプロジェクトでは、音楽やアート的な発想を体験することで子供たちに新たな視点や意識を持ってもらうことをねらいとしています。アフリカン・パーカッション奏者ンコシさんと女性ドラム奏者PIKAさん二人による計16回の連続ワークショップにおいて、子供たちはオリジナルの楽器を作り、音楽を作曲し、演奏を体験します。その集大成となる大阪音楽大学で開催されたコンサートでは、100名を超える聴衆を前に、自分たちの音楽を見事に演奏し、客席から盛大な拍手を浴びました。

松原智美 400年の音の旅
2017年9月30日

■公演日:2017年10月21日
■場所:あしびの郷(奈良市)

岩井コスモ証券が支援する、アコーディオン奏者の松原智美さんが、チェロ奏者の荒井結子さんと奈良でデュオコンサートを開催しました。会場となったあしびの郷は、奈良公園にほど近い町屋界隈にあり、その古都情緒たっぷりの場所で、バロック音楽からこの演奏会のために書き下ろされた現代曲を含む十数曲が演奏されました。弦楽器のチェロとアコーディンの二つの際立った音が、互いを刺激しあい、共鳴し、絡まりあいながら時代や曲想の異なる様々な曲を一気に描き切っていく演奏は、まさに圧巻でした。特にタンゴのリズムを持つピアソラの曲では、卓越した技術を持つ二人の力量がいかんなく発揮され、会場から多くの拍手が沸き起こりました。

アンキャッチャブル・ストーリー展
2017年9月30日

■会期:2017年6月11日~7月17日
■場所:瑞雲庵(京都市、北区)

京都の古い民家を改装した「瑞雲庵」で現代美術の展覧会「アンキャッチャブル・ストーリー展」が開催されました。キュレーターの武本彩子さんの企画による本展では、つかまえようとするとスルリと逃げていくような「アンキャッチャブル」な状況をテーマに、牛島光太郎、田中秀介、阿児つばさの3名の若手アーティストの作品が展示されました。牛島は、路上で拾った数百点に及ぶボタンやキーホルダーなどのモノを、本来の用途とは無関係に和室の畳の上に一面に広げ、田中は日常の風景が歪み異物の映り込んだような絵画を、阿児は札幌の「幌(ポロ)」という言葉にまつわる歴史的・文化的背景を、メモや写真、立体などを介して浮かび上がらせる作品を展示し、対象とその意味との相関性について考えさせる展覧会となりました。

Photo: Hyogo Mugyuda

Photo: Hyogo Mugyuda

湯川洋康 デンマークで開催されたJAPANESE CONNECTIONS展に参加
2017年9月30日

■会期:2017年7月1日~8月6日
■場所:ニコライ現代美術館(デンマーク、コペンハーゲン)

現代美術アーティストの湯川洋康さんがデンマークのニコライ現代美術館で開催された日本の現代美術を紹介する展覧会「Japanese Connections」に参加しました。岩井コスモ証券が支援するアーティストの一人である湯川さんは、Yukawa-Nakayasuというユニットで活動し、日常に潜む記憶や歴史を表層に浮かび上がらせる立体や写真、映像など多様な作品を手掛けます。今回の展示では、昔教会であった美術館の中で保管されていた装飾品や古いタイルなどを現代の日用品などと組み合わた空間構成的な作品を現地で制作しました。展覧会のオープニングでは訪れた地元のメディアや美術関係者から作品の中に見られる日本的な要素などについて多くの質問を受けていました。





アーツサポート関西 成果報告会2017
2017年9月20日

ASKは今年4年目を迎え、おかげさまで本年度中にみなさんからお寄せいただいた寄付の累計が1億円に達する見込みです。これまでのASKの取り組みをご支援いただいた方々にご報告する「成果報告会」が、8月21日、中之島センタービルの関西経済連合会の会議室で行われました。会場には、平日の昼間にもかかわらず150人以上の方々にお越しいただき、ASKの支援を受けた団体やアーティストたちが語る助成活動の話に耳を傾け、関西から世界に羽ばたこうとするアーティストたちのパフォーマンスを楽しんでいただきました。

前半のトークコーナーでは、若手噺家として今、ノリに乗っている、桂雀太さんを聞き手にお迎えし、ASKの支援を受けた方々のお話を伺いました。ASKは2014年から若い方々に文楽に親しんでもらう取り組み「ワンコインで文楽」を支援していますが、この活動に関わる文楽技芸員を代表して豊竹咲甫太夫さんにお越しいただき、大学生など普段あまり文楽と接点のない若者たちが文楽に興味をもつようになった様子などをお話いただきました。咲甫太夫さんは、来春、竹本織大夫を襲名する予定で、その応援にオペラ歌手の奥様、増田いずみさんも駆け付け、和と洋の双方で活躍するご夫婦によるお子さんへのユニークな接し方などを、聞き手の雀太さんがユーモアたっぷりに聞き出し、会場は大きな笑いに包まれました。また40歳以下の若手芸術家たちを支援する「岩井コスモ証券ASK支援寄金」から助成を受けたアーティストとして、日本を代表するクラシック・アコーディオン奏者の松原智美さん、そして国際的なソロ・ヴァイオリン奏者を目指す周防亮介さんにご登場いただき、これまでの活動や今後の展望などについて語っていただきました。

つづいて、アートを活用した社会的な取り組みの事例紹介として、堺市にある耳原総合病院におけるホスピタルアートの活動について、NPO法人アーツプロジェクト理事で同病院にてアートディレクターを務める室野愛子さんにご講演をいただきました。アートと医療行為のいずれもが、人を癒すものであり、病院の中にアートがあることで患者さんの意識が変わり、また医師や看護師たちもアートの活用に積極的に取り組んでいる様子をご紹介いただきました。

後半のコンサートでは、松原智美さんのアコーディオンの独奏のほか、ASKの支援で練習場の確保が可能となった羽曳野少年少女合唱団に登場していただき、松原さんのアコーディオンの伴奏による合唱に続いて、「舞描」と呼ばれる、身体のダンス的な要素を盛り込んだライブペインティングを行うアーティスト鉄秀さんとのコラボレーションを披露していただきました。厳かな宗教曲を歌う児童合唱団の清らかな歌声に合わせて、鉄秀さんが舞台に置かれた大きな画面に体全体を使いながら絵を描いていくと、会場の参加者たちはペインティングの前衛性と子供たちのピュアな歌声とがひとつに融合していく様に魅入っていました。

桂雀太さん(右)と咲甫太夫さん、増田いずみさんご夫妻(左)

羽曳野少年少女合唱団と鉄秀のライブパフォーマンス

志芸の会「キッズ狂言」(「八千代電設工業伝統芸能支援寄金」助成事業)
2017年8月31日

神戸を中心に活動する狂言師の会「志芸の会」は、能楽の普及・振興を図ることを目的に1999年に創設。毎年、小学生を対象にした「キッズ狂言」を開催しています。ASKでは「八千代電設工業伝統芸能支援寄金」から50万円を助成しました。「キッズ狂言」では、まず、小学校へ出向いての出前狂言教室を行います。5年、6年生を対象に、狂言に出てくる昔の言葉や独特の仕草などをクイズ形式で学び、実際の狂言も鑑賞します。その後、8月の夏休み期間中に、実際の狂言の実演に向けた5回にわたるワークショップを開催。募集チラシ見て応募した子供たち(約10名)が、狂言の台詞をはじめ、発声方法、動き、相手との間合いの取り方などをプロの狂言師から教わりました。ワークショップは経験者と初心者に別れて行いますが、驚くべきことに初心者の子供でもわずか5回のワークショップで台詞、発声、動きをほぼ完全に身に着け、大きなホールに設けられた能舞台で見事に狂言を演じました。こうした地道な取り組みが将来の能狂言の鑑賞者や演者の育成につながっていくのだと感じました。

N2 演劇「火入れの群」公演
2017年7月8日

■公演日:2017年6月2日~4日
■場所:アトリエ劇研

新進気鋭の劇作家・演出家の杉本奈月(27)が率いる劇団N2(エヌツー)による新作公演「火入れの群」が、ASKの支援のもと行われました。数式のように語られる断片的な言葉の羅列によって、通常の演劇の形態が解体され、そこから新たな表現の可能性が浮かび上がります。杉本の演劇は、その発想の豊かさと高い実験性において現代演劇界で異彩を放つ存在です。今後ますます彼女の活動から目が離せません。

撮影:松山隆行[/caption]

周防亮介 ドイツのマスタークラスに参加
2017年7月8日

2017年5月11日~18日
Kronberg Academy – Violin masterclasses & concerts

2014年度の出光音楽賞を受賞するなど若手ヴァイオリニストとして大きな注目を集める周防亮介(21)。岩井コスモ証券ASK支援寄金が支援する芸術家の1人です。今年5月、ドイツのクロイツベルグアカデミーのマスタークラスに参加し、世界トップクラスの演奏者たちとともに、より高いレベルのレッスンを受講しました。最終日の成果披露の演奏会ではソリストに抜擢されるなど高い評価を受けました。関西から世界に羽ばたこうとする今後の活躍にこうご期待です。

新古宮展 古民家で出会う現代アート
2017年7月8日

■会期:2017年4月1日~4月16日
■会場:伊丹市立伊丹郷町館(旧岡田家住宅・酒蔵、旧石橋家住宅)

伊丹にある「旧岡田家住宅・酒蔵」は現存する酒蔵としては最古のもの。一歩中に入ればそこは江戸時代の世界です。ここを会場に、11名の現代アーティストたちが絵画や立体などさまざまな作品を展示する現代アート展がASKの支援で開催されました。展覧会は世代を超えた作家たちそれぞれが場所と向き合い、空間と対話しながら、作品に命を吹き込むように構成されており、訪れた人々は「深呼吸」をするように静かなひと時を過ごしていました。

【活動報告】一般社団法人HMP「アラビアの夜」(演劇)
2017年6月27日

概要:助成対象の「アラビアの夜」は、2014年に初演され、演出の笠井友仁が平成26年度文化庁芸術祭新人賞を受賞した作品の再演です。原作はドイツの劇作家ローラント・シンメルプフェニヒの現代戯曲。エイチエムピー・シアターカンパニーは、海外の同時代の戯曲の上演にも取り組み高い評価を得ています。

5人のモノローグが絡み合う物語で、セリフのやり取りを軸に展開するストーリーではなく、自己のつぶやきに着目した作風となっています。「語りの演劇」といわれるこの手法は、近年ヨーロッパで注目を集めているもので、俳優が場面・描写も含めて「物語る」という原初的なパフォーマンスによって演劇の役柄が次々と示されていきます。

 

視察報告:会場となったのは、インディペンデントシアター1st。もともと純然たる劇場ではなく、利用する劇団・アーティスト、観客の意見を受け止め、必要な部分、可能な場所から改装を重ね続け、進化し続けているスペースです。進化といえば、この「アラビアの夜」も同様です。2013年4月と7月に原作のリーディングを重ね、翌年11月に上演。当時はAチームとBチームに分かれての連続上演となりました。Aチームは戯曲をあまりいじらず、Bチームでは場所や人物をベルリンから一気に大阪へ移しての演出となりました。これを受けて演出家の笠井氏は平成26年度文化庁芸術祭新人賞を受賞、劇団としても新たな試みの第一歩となったようです。初演から3年、進化を遂げてこの度の上演となりました。今回もチームに分かれての連続上演です。

arabia-74 アラビアチームnight-22ナイトチーム

視察者は「アラビアチーム」しか観劇できなかったのですが、台詞、場所や登場人物は同じであるが視点を違えての演出となり、全く違った作品として仕上がったようです。

役者はステージ中央あたりで、ほぼ動くことはなく、セリフを言い終わっては静止し、次に別の役者が台詞を発するといった演出でした。大道具や小道具はなく、しかしながら、アパートの上階から階下へ降りていく様子や張り巡らされた水道管の様子、部屋の間取りなど、流れる空気までもが役者のモノローグによって克明に描写され、その情景が目に浮かぶようでした。

戯曲自体が現実とファンタジーの境が融解したものであることと、舞台上に何もないという演出が相まって、更に幻想的な仕上がりになり、何とも言えない心地よさが漂いました。(物語はシリアスである)

必要以上に詳細なト書きが、すべてそのまま台詞となって役者が語り、しかもそれが断片的に同時進行で重ねられていく本公演では役者の力量も問われるものになったと思われます。ベテランがそろうアラビアチームはチーム力を、若手中心で組まれたナイトチームではそれぞれの個性が光る公演になったようです。

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戯曲そのものも力のある魅力的なものですが、演出家の視点や実験的な試みにより、物語が多面的にとらえられるという演出を一つの劇団が同時に上演するというこの手法は、見せる方だけでなく、観客にとっても今後の演劇の新たな方向性を模索できるものになったと思われます。

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀


助成対象者へのインタビュー


Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

今回は、2014年に上演した『アラビアの夜』を新演出で創作しました。

『アラビアの夜』の作者ローラント・シンメルプフェニヒは自らの作風を「語りの演劇」と呼んでいます。スペクタクルな演出を避けて、俳優の語りに重きを置き、豊かなドラマを象る「語りの演劇」は演じている役(キャラクター)と演じている俳優(プレイヤー)の個性が重なり、虚実入り乱れた世界を作り出します。

2014年の初演時はマンションに見立てた舞台装置を使い、キャラクター同士の関係性やマンション内外の位置を分かりやすく演出しました。しかし、マンションに見立てた舞台装置を設置することで、俳優はキャラクターを演じる時間が比較的長くなってしまいました。

今回の演出は舞台装置をよりシンプルにすることで、キャラクターとプレイヤーの境界線が揺らぎ、虚実入り乱れるシンメルプフェニヒの「語りの演劇」の魅力をより引き出そうと試みました。

 

Q2:お客様の反応

観客それぞれの想像力に委ねることで様々な解釈ができることにつながり、鑑賞者同士で作品を推察するということがロビーでの鑑賞者同士の会話の中やtwitter上で起きました。

アンケートの多くで、面白かったなど前向きな評価をいただきました。また俳優の身体性について、演出についての評価が高かったと思います。

 

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

本来の戯曲の面白さを引き出す演出・演技ができました。また、同じ戯曲をいくつものパターンで演出するというみせ方をすることで、演出の役割や凄さを見せることができ、演劇の面白さや可能性を提示することができました。

そしてSNSで分かったことですが、当劇団の上演をご覧になられたお客様が、ちょうど6月の頭に東京で別の劇団が「アラビアの夜」を上演するという情報をご自身で見つけられ、その公演にも足を運ばれました。当劇団の公演をきっかけに、他の劇団や作品、演劇全体により興味を持っていただいたようです。

私たちが目指す1つとして、現代演劇の知識の有無に関係なく、より広く演劇に馴染みのない人にも、演劇の面白さを伝えるということが達成できたと思います。

メディアへの掲載ですが、日経新聞 夕刊(2017年4月12日)やテアトロ6月号(2017年5月13日発売)に劇評が掲載されました。

 

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

関西は特に海外の現代戯曲が上演されることが少なく、また広報の問題もありますが、なかなか観客動員が難しいです。今回、助成金を得られたことで、前回文化庁芸術祭の新人賞(演出)を受賞し、評価も高かった作品を再演し、広く告知することができ、特に若い世代の方々にご覧いただくことができたことが大きな成果でした。また、パトロンプログラムで劇団のことを知らない方々にもご覧いただけました。

そして公演前にASKの助成金をいただけたことで、経済的な心配をあまりせずにいられたことで、創作に力を注ぐことができ、新たな演出での上演がうまくできたと思います。

 

Q5:今後の展望

劇団のミッションである「再発見」を軸に、よりよい作品を創作し、届けるだけでなく、演劇を親しんでくださる方を増やすための取組やそれを意識した創作・上演を行っていきたいと思います。

例えば、同じ戯曲を、演出を変えて上演することで、演出の可能性、戯曲の魅力、そして俳優の凄さを届け、演劇の魅力や楽しさを伝えていきたいです。

 

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

公演前に助成金をいただけるという取組は今後も続けてほしいです。

直接的なお金の援助だけでなく、場所の提供などお金ではない支援の可能性もあるのかなと思います。レポートしていただくというのも1つの支援のあり方でとっても素敵だと思いますので、大変だと思いますが、今後も続けてほしいです。

 

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

私たちにとって1番嬉しいのは、やっぱり作品を観ていただくことです。観ていただき、色んなご意見をいただけたらそれが励みになります。

そして気に入ってくださったのであれば、どうか演劇の愉しさを広めていただけると嬉しいです。

【活動報告】特定非営利活動法人劇研「走りながら眠れ」(演劇)
2017年6月27日

H28年度 助成対象事業・視察報告

特定非営利活動法人劇研「走りながら眠れ」

概要:特定非営利活動法人劇研は、スペースの運営をディレクター(芸術監督)が中心となって行う体制をとっており、2014年より、劇作家で演出家のあごうさとしが就任しています。

助成対象となっている公演は、平田オリザ作、あごうさとし演出による「走りながら眠れ」で、大正時代のアナキスト、大杉栄とその妻の伊藤野枝の最期の2か月間を描いた会話劇です。演ずるに難いこの作品を、あえて俳優ではなく2人のダンサーが演じるという、実験的なものになりました。

 

視察報告:会場となった「アトリエ劇研」は1984年に館長・波多野茂彌の自宅を改装し「アートスペース無門館」としてオープンした小劇場で、京都小劇場の草分けとして30年以上にわたり多彩な舞台人を多く輩出してきました。

今回の公演については、あえてダンサーである2人を起用し、しかも会話劇として成立させていくという、興味深いものでした。

演出を手掛けるあごう氏も公演前に「ダンサーの身体表現を目指すのではなく、ダンサーの身体を資源として、粛々と、会話の演技でたちあげてみようと思う」と述べていました。

さて、幕が上がり、本来ダンサーである2人の「芝居」が始まりました。

特に何が起こるわけでもなく、静かに淡々と物語は進みます。舞台上の2人はダンサーであるにもかかわらず、いわゆる身体的な技術を用いた表現は一切なく、ただただ会話が繰り返されるのみです。

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当時とても異質な人物として周りから見られていたであろう舞台上の大正時代のアナキストとその妻の様子がとてもほほえましく描かれ、キュートで愛おしく思いました。川瀬演じる伊藤の目には時折鋭さも覗き、不思議な距離感がある2人の関係性や不穏な社会の空気が示唆されます。

 

特に細かい演出や台詞回しなどがあるわけでもなく、日常が繰り広げられているだけにも関わらず、人間性を掘り下げていくような表現ができたのは、実は、ダンサーの身体の所以なのではなかったのだろうかと思いました。ゆるぎない身体であるからこそ、そこから発せられる台詞が、時には鋭く、時には柔らかく、しかし同時にはっきりと観客に届けられ、微妙な感情のゆらぎまでもがそれに連動し伝わってくるからではないでしょうか。

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最近、ダンサーが俳優として芝居に登場するということはしばしば目にしますが、これほど、ダンサーらしくなく、しかし実はダンサーらしい(身体が作られていないとできない)演出に、今後の演劇の可能性を感じました。

アーツサポート関西 事務局 柳本 牧紀


助成対象者へのインタビュー

助成対象者へのインタビュー NPO劇研/アトリエ劇研 あごうさとし 長澤慶太

Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

この度は、出演者にダンサー2人を起用したため、稽古は2015年11月から開始しました。できうるかぎり入念な稽古を重ねて、通常の俳優が演じるものと遜色のないように努力を重ねました。この取り組みを下敷きに、ダンサーの身体を応用した新たな演劇作品がつくられるよう努力を重ねたいと思います。

Q2:お客様の反応

動員247人のうち、36枚のアンケートを回収。

概ね好評を頂いたように感じます。以下、2つ引用します。

「ひきこまれました。本当に2人が生きているのを感じました」

「会話がスムーズすぎて、日常ってそこまで大事か?とおしつけがましさというか、気持ち悪さを憶えました」

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

継続的な目的として掲げているダンサーを俳優並の技術をつけさせるという点において、今回の2人のダンサーは一定の成果をだしたと思います。ロボット演劇の経験で得た演技プランの可視化は、演技指導の具体化として実践の場で応用が可能であることを確認できました。

メディア掲載

ステージナタリー

http://natalie.mu/stage/news/210542

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

3つ揃えの白いスーツを仕立てたり、古い美術道具をそろえられたり、本物でないとクオリティにかかわるものをそろえさせて頂けました。おかげさまで、極めてシンプルな舞台空間を創出することが可能となりました。

Q5:今後の展望

継続的に創作している無人劇と連動させながら、ダンサーと俳優のプロジェクトチームをつくり、テーマとしてる「純粋言語」「純粋身体」という概念を具体化していきたいと考えています。次回は本年7月にダンサーと俳優の混成チームによる「リチャード三世」を上演予定です。

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

個別の事業助成をいただけるだけでも大変ありがたいのですが、わがままを申し上げますと、複数年にわたる劇場への直接助成という枠をいただけると大変ありがたく思います。

企画の段階から、共同で立ち上げていけるような仕組みもあるとありがたいです。

今夏、アトリエ劇研は閉館いたしますが、新たに東九条地域に100席サイズのスタジオを設立できないか、目下挑戦をつづけております。小劇場は、舞台芸術における創造環境の最も基礎的なインフラであるかとも思います。今後とも、ご指導をいただけますれば大変有り難く存じます。

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

寄付をいただいておりまして、本当にありがとうございます。願わくば、各上演にも可能な限り足をお運びいただけますと大変嬉しく存じます。また、上演の機会以外にも、サポーターの方、事務局の皆様方とも、お会い出来たり交流を持たせていただけるような場を与えていただけましたら、大変有り難く存じます。

【活動報告】点の階「・・・」(美術)
2017年4月13日

H28年度 助成対象事業・視察報告

点の階「・・・」

概要:劇作家の久野那美が、自らの戯曲を自身で演出するプロデュース集団「階」。毎回新しい気持ちで作品に向かうためにと、公演の度にユニット名を「~の階」というように更新し上演しており、今回は「点の階」という名での上演となります。上演作品「・・・」は「点転」と呼ばれる囲碁をモチーフにした架空の盤上競技を巡って、「勝つこと」「負けること」「終わること」「終わらせること」について考察する物語です。

優れた言語感覚と幅広い解釈による多重構造の物語に定評がある劇作家の久野は、2015年度に日本最初の演出家対象のコンクール「利賀演出家コンクール」において、台詞に対する繊細な取り組みに対しての評価から、奨励賞を受け、演出家としても注目されています。

視察報告:会場となったのは、京都芸術センター。明治2年に開校した明倫小学校を改修、その姿をとどめたまま講堂・大広間・教室などでイベントなどが行われています。講堂に入ると、まず窓際でその枠に突っ伏して寝ている女性が目に入ります。少しぎょっとしましたが、どうやら舞台側が入口になっていたようです。ステージ側にもいつくか椅子が置かれており、客席にはひな壇が作られていました。

視察した公演は昼間の回で、講堂内は明るく、なんとなく昼ののどかな公園で数人の人々が囲碁や将棋をうっている風景を夢想してしまいました。あらかじめ「点転」という、囲碁をモチーフにした競技についての物語であることは、解説を見て分かっていたので、「もしかしたらステージに置かれている椅子も客席として使用され、どこかの囲碁センターのように、講堂の中の空間のいたるところでストーリーが展開されるのかも?」と、ステージ側の椅子に座ろうかと思いましたが、なんだか間違っているように思えたので辞めました。

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取ってつけたような、場内アナウンスが流れ、舞台が幕を開けます。この会場にはふさわしくないアナウンスが演出であったということが、その後に登場してくる人々の会話からこの場が葬儀場の休憩室だと分かり、明らかになります。

 

物語は架空の盤上競技「点転」を小説として書いた小説家と、小説を指南書と勘違いしている「点転」競技のプロを目指す青年、小説家に本を返しに来た女性(別の回では男性として描かれているダブルキャストの配役)、窓際で寝ていた謎の女性の4名が登場する1幕の会話劇です。小説家の書く物語は自身曰く「難解じゃなさすぎる。書いてあることしか分からないから、奥行きと深みがなさすぎる」らしいのですが、とはいえ、この舞台上にあるのは、言葉を介した想像の中でしか成立しない「点転」という競技と、奥行きがないと言いながら、内容がほとんど分からず、想像力がどんどん広がってしまう「演劇」であり、彼の言葉とは逆の構造を持ちます。

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「点転」については、説明という形で少しだけ語られますが、その競技の様子が劇場空間において描写されます。空間的な広がりとイメージの広がりとが同時に発生することで、そこが独立した、球体の中に入れられて浮かんでいるような不思議な感覚に包まれました。会話だけで形成される芝居で、このような感覚を得るという稀な体験をさせてもらったように思います。

 

久野氏の作品や演出には、すべてに伏線が張られているように思いました。最初のとってつけたようなアナウンスについてもそうです。劇場に不釣り合いな不自然さは、葬儀場のアナウンスであるので当然で、違和感を受けた観客は次第に自分たちが置かれている場面を知ることで安心感を感じ、芝居に入り込んでいくことになるのです。

「肝心なことはいちばん最後にやってくる」。チラシに書かれていたこの文言が劇中ずっと頭をよぎっていました。様々な予感をはらませながら物語は進み、少し座り心地の悪い感を受けながらもその予感がどこから来てどこに向かっていくのかを役者さんの台詞の中に探しながら80分の上演を楽しみました。

最後のシーンで窓際にいた女性が、窓を開け外に出ていきます。外では不思議な光が放たれており、女性は消えていきます。夜であればもっと美しかったであろうシーンは、私には少し分かりづらかったのですが、どうやら彼女も架空であるはずの小説家の別の小説を実際に体験した人物だったということです。

 

いくつかのエピソードが盛り込まれながらも散漫にならず、観客を最後までひきつけ続けた久野氏の今後の作品にも期待したいです。

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アーツサポート関西 事務局 柳本 牧紀


助成対象者へのインタビュー


Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

今回、京都芸術センターという、古い小学校を利用した施設の講堂での公演で、部屋のドアや窓や壁をそのまま舞台背景として生かす形で上演しました。三方に大きな窓のある部屋でしたので、窓を生かすため暗幕をすべて外してしまい、昼は窓からの自然光、夜は会場に備え付けのシャンデリアの灯で公演を行いました。日によって出演者の一部を変更したこともあって、8回の公演でそれぞれ違った様相がみられる作品となりました。

窓の外で色とりどりの鮮やかな灯が動き、建物の外へ向かって音が遠ざかっていくラスシーンは、夜の回の方が見ごたえがあったようです。一方、公演の最中にだんだん日が暮れていく昼間の回はまた違った趣がありました。

・囲碁を模した架空の競技をモチーフにした劇

・会場そのものを舞台美術として使用する演出

・日によって登場する人物の一人が異なり、セリフの一部や物語の意味も異なる

・膨大な量の台詞をしゃべる登場人物と、ほとんど台詞がなく劇中ずっと本を読んでいる登場人物がいるアンバランスさ

など、演じる俳優にもプランをたてるスタッフにもいろいろと試練のある作品でしたので、幕が上がるまで(幕はないのですが)、どんな受け取られ方をするか全く見当がつかずにいました。が、お客様からは思っていた以上に好意的な感想を頂くことができました。ほんとうにありがたかったです。

会場も独特でしたので、一般の劇場と音の響き方などがかなり違い、俳優は最初戸惑っていました。本番が始まってからどんどん変化していった部分もあり、この会場で実際に稽古できる時間が何日かあればだいぶ変わっていただろうなと感じました。今後の課題です。

Q2:お客様の反応

公演直後からSNSなどでたくさんのご感想を頂きました。それを見て当日券で来て下さったお客様もおられたり。

面白いのは、お客様の感想…というか、ことばにされる劇の内容が人によって全然違っていたことです。ひとつひとつの物やセリフや動きや設定に、これほど多くの解釈があるものかと、創った私たちの方が感動を覚えました。「多面的な解釈の可能な作品」という評はこれまでにもいただいていたのですが、今回は今までで一番、お客様の見ておられる世界の幅が広かったです(笑)最後まであきらめずに試行錯誤した俳優のおかげだと思います。

戯曲を舞台化することで、さらに上演することで、物語の世界がどんどん広がっていくのだということを改めて実感いたしました。

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

前回、前々回の公演は、公演前に取材をしていただいて、「公演案内がメディアに掲載される」機会が多かったのですが、今回は、公演後の「劇評」や舞台の様子をいろいろなメディアに掲載していただきました。

・テアトロ3月号(九鬼葉子氏)

・えんぶ4月号ミニレビュー(吉永美和子氏)

・京都芸術センター通信 2017年3月号(須川渡氏)

・観客発信メディアWLのサイト http://theatrum-wl.tumblr.com/(小泉うめ氏)

・囲碁関西4月号での特集

多くのお客様がSNSやブログなどで感想を書いてくださり、次回の公演につながる手ごたえを得ました。また、今回囲碁をモチーフとした作品ということで、囲碁ファンのお客様も大勢お見えになり、アフター囲碁サロンやSNSなどで演劇ファンと囲碁ファンの交流が実現するなど演劇の公演としては珍しい反響もありました。

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

どこの劇団も同じだと思うのですが、なかなか人件費に予算が割けません。今回、公演前ASKの助成金をいただけたことで経費の大半を公演日までに、残りの経費と人件費を公演後1週間以内に完済することができました。スタッフ、出演者の負担を少しでも減らすことができてとてもありがたかったです。また、長期間の稽古で稽古場代が嵩んだのですが、そこを節約せずに済んだことも作品の質の向上に直結したと思います。

Q5:今後の展望

点の階の公演終了後、「点の階」という上演団体は解散したのですが、現在は「匣の階」という団体を新たに作り、今年9月と来年1月の神戸アートビレッジセンターでの公演に向けて準備を進めています。9月の公演は、神戸開港150周年記念イベントの一環で、神戸の港を舞台にした朗読劇(新作)、1月は、第5回OMS戯曲賞の佳作を受賞した「パノラマビールの夜」という作品の再演です。現在、出演者を募集したところ、今年の公演を見てくれた俳優さんから問い合わせをいただき、今回の公演の先に次回の公演があることを実感しています。助成していただいたことが今後に活かせるよう、積み上げていきたいです。

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

公演前に助成金を頂けること、公演についての告知文やレポートをウェブ掲載してくださることがとてもありがたいです。ぜひ今後もこの形で続けてください。

ウェブサイトの記事が読みごたえがあって面白いので、もし、ほかにも媒体をお持ちでしたら、いろんな人の目に触れる場所で記事を掲載していただけると今後観客層の開拓にとても有効なのではないかと思います。チケット販売窓口やチラシやポスターの配布などにもご協力いただけましたらさらにありがたいです。

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

◆創り手側は、新しいお客様と出会える方法をとても知りたいと思っています。

チケット販売方法、公演告知方法などに対するご要望、創り手サイドとの交流の方法(稽古場を見学したい、WSに参加してみたい、舞台裏をのぞいてみたい、作家や俳優との会食、作品を巡る座談会など)が分れば可能な限り対応したいと思うカンパニーは多いかと思います。いろいろなご意見をお伺いしたいです。

◆これまで助成していただいたカンパニーが継続して公演情報や活動状況をお届けできるようなメールマガジンのようなものがあればよいなと思います。ASKで出会えたお客様と継続してご縁が続いたり、そこから新しい出会いが生まれたりしたらとても素敵です。

【活動報告】7つの船2016実行委員会「7つの船」(美術)
2017年2月22日

H28年度 助成対象事業・視察報告

7つの船2016実行委員会「7つの船」

概要:大阪の夜の水辺を船で航行しながら、船の内外に仕掛けられたさまざまなアート的な趣向を乗船者に体験させる取り組み。大阪を拠点に活動する現代美術アーティスト、梅田哲也らが中心となって企画したプロジェクトである。「7つの船」とは、2016年12月の7日間に、大阪市街中心部の本町橋と住吉区の名村造船所跡地を往復する船を7往復させることに由来する。1日に本船(定員25名)と裏船(定員8名)の2艇が出航し、7日間にわたってそれぞれ上便・下便として1往復するため、出航数は全部で28便となる。定員はのべ450人以上におよび、定員制のアートイベントとしては小さくない規模である。この企画は、昨年大阪府・市が主催した芸術文化魅力育成プロジェクト「中之島のっと(knot)」の一環として実施された「5つの船」の続編的なものであるが、定員が前回の140人から大幅に増員されており、主催者による活動効果を高める取り組みが見て取れる。

 

視察報告:視察者の乗った便は本町橋出航の下り便であった。大阪市中心部の本町橋船着場から、東横堀川、道頓堀川を通過し、京セラドームを右に見ながら、大正区の工場地帯を抜けて住吉区の名村造船所跡地を目指す約2時間の航路である。船には本船・裏船とも屋根がなく、立ち上がれば頭が船体から出る格好となり、12月の夜の川面を渡る寒気が顔の皮膚に冷たくあたる。



出発に際して主催者の挨拶や航路の説明等は一切ない。参加者全員が乗船したのでいつのまにか岸を離れていた、という感じで、観客は、この時点でこれから何が起こるのか全く想定できない状態に置かれる。進行役をつとめる女性が、マイクで自分の心象風景的な言葉をぽつりぽつりと語りだすのみで、しだいに船内に非日常的な空気が漂い始める。

夜の水路を船で航行するだけでもすでに非日常的な体験なのだが、そこで提示される日常と非日常との境界が消失したような数々の奇妙な事象によって、参加者の意識が虚構と現実の狭間に囚われたような状況となる。高速道路の高架下を進む船の中から、梅田自身が懐中電灯を使って見上げるように橋の巨大な構造を浮かび上がらせたり、突然一艘の小型ボートが背後の暗闇から疾走してきて機関銃のようなものを乱射しながら追い抜かして行ったり、途中立寄った桟橋でトレンチコートを着た無言のサラリーマン風の男が乗り込んできたりといった、度合の強弱はあるものの、大阪の街の日常の中に無作為を装って配置された非日常性によって、ストーリーらしきものがその場に現れ、参加者の意識は水面の両側に連なる闇に閉ざされた夜の街・大阪の内部へと誘われていく。



芸術とは、作品を介して鑑賞者の意識を拡張させ新たな価値に触れさせるものであるならば、梅田は固定的な作品のかわりに、ナイトクルーズとそこに派生する様々な半日常的な事象からなる「状況」を創り出すことによって、鑑賞者たちの意識を解放し、見事なアート的な体験をもたらした。それには、あえて鑑賞者へのインストラクションを排除することで、未知の状況に向けられる彼らの自発的意識が高められていたことも寄与していたはずだ。これらを意図して作為と無作為の微妙な加減を差配しながらプロジェクトを構成した梅田の手腕は高く評価されよう。

「7つの船」では、梅田のほか、イギリスを拠点に映像作品を手掛けるさわひらきとベルリンを拠点に活動する現代美術アーティストの雨宮庸介の二人が加わり、この企画の構造に厚みを加えた。さわは、途中、移動する船の中からプロジェクターで川岸の建物に映像を照射したほか(視察者の回では残念ながら機器の不具合で実施されなかった)、終点の名村造船所跡地の船着場で対岸の倉庫の壁面に巨大な映像プロジェクションを行った。雨宮は期間中裏船に乗り込み、本船のクルーズに影響をおよぼずパフォーマンスを演出・実施していったほか、本プロジェクトと連動したSNSサイトにおいて、プロジェクトにまつわる歴史や事物などに触発されて書かれた詩情豊かなテキストを連載した。

しかし最も特筆すべきは、夜の水面の美しさであったかも知れない。漆黒の深みをたたえて静かに船を包み込む水面は、風がなければ鏡面のようになり、時折、岸辺の光を反射させながら、乗船した者の視覚に対して、これまで見たことのないような美しい世界の様相を提示して見せた。世界に対して最小限の作用を施し、その微妙な作為に気づかせることでアート的な意識の拡張をもたらす梅田のアプローチが今回対象としたのは、まさに大阪の街そのものであった。大阪という「場」・「空間」・「時間」を作品化した今回の取り組みは、アートの意味、その拡張性、また実際的な企画運営の観点から見て、極めて高い水準にある取り組みであったと考える。特にアートのひとつの表現方法として、新しい可能性を示すものであった。

ただ、無作為や偶然にゆだねられた部分が重要な役目を果たすとはいえ、一部、事象間のつなぎやそれが起こるタイミングにおいて改善の余地があったように見えた。プロジェクトの構成が極めて複雑に入り組み、舞台が水路を航行する船であるなど様々な制約を抱えたものであっただけに、さらに入念な準備が行われていたら作品の感動がより増していたのではないだろうか。

アーツサポート関西 事務局 大島賛都


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(Photo by : Ysuke Nishimitsu)

 

助成対象者(7つの船2016実行委員会)へのインタビュー


Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

昨年は大阪府・大阪市の実行委員会による「中之島のっと」という事業の中で展開できたが、今年度は自主的に実行委員会を立ち上げての事業であったので、全くの縛りがない代わりにどこまでも自分たちで立ち上げていかなければならないという困難さがあった。

しかしながら、多方面の方々にご協力をいただくことができ、意図したことが可能となって行ったことは大変ありがたいことです。

Q2:お客様の反応はいかがでしたか?

アンケートにもあるように、98%の人々が良かったと回答、91%の人々が同じようなイベントを再度行って欲しいと答えていただけている。

多くの参加者は、自分たちの知らない大阪の姿―大阪の裏側を非日常である船から望むという体験に非常感銘を受けたようである。普通の観光船でのクルーズではなく、そこにさらに非日常の「作品」を持ち込むことにより、人々の心は揺さぶられ、よりその風景を感じることができたのではないだろうかと思われる。

Q3:どのような成果が得られましたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

昨年に引き続き、船に乗り非日常の現象(作品、パフォーマンス)に遭遇しながら大阪の川を巡ることにより、今までとは違った、自分たちの知らないまちの姿を目の当たりにすることになり新たな体験をしてもらうことができた。また、昨年の経験上から船のコースやそこから見える風景などから計算しながら「しかけ」ることができたので、作品としての完成度があがっていった。

新聞各社へのプレスリリースに対してはレスポンスがなかったが、ウェブメディアで取り上げてもらうことができ、集客にもつながった。

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

昨年度からの構想の中で、元々想定していたような海外からのアーティストを招聘するなど、作品を作りに対する完成度を高めることができた。

Q5:今後の展望は?

一連の事象を含めた「ナイトクルーズ作品」としてのパッケージを作成することができたので、再演という形での実施がしやすくなった。

また、これをベースにして原点回帰するような作品づくりー川を巡るための「船」や巡る「場所」といった演劇でいう舞台装置のようなものを作っていくような、新たな作品展開ができないかと考えている。

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

継続的な助成。単年度助成ではなく複数年かけて成し遂げられるようなものに対する助成も望みます。

Q7:サポーター(寄附者)に望むことは?

様々な芸術行為を知ってほしい。評価が定まらないものに対して助成(寄附)をする意味を知ってもらい、大阪の文化の更なる向上を共に目指していただきたいと思います。

【活動報告】極東退屈道場「百式サクセション」(舞台芸術)
2017年1月26日

H28年度 助成対象事業・視察報告

極東退屈道場「百式サクセション」

概要:独特なモノローグとシーンの断片をコラージュし、ダンス・映像を駆使することで、「都市」の姿を斬新に切り取る「極東退屈道場」。関西劇作家の登竜門、OMS戯曲賞で第18回大賞・第20回特別賞を連続受賞した実力派である林慎一郎が主宰する演劇ユニットの公演。「PORTAL」が第61回 岸田國士戯曲賞の最終候補作品に選ばれています。

スタッフの視察報告:会場であるアイホール(伊丹市立演劇ホール)に入ってすぐ、その舞台美術に圧倒されました。四角いホールの角を利用して部屋の角と真ん中が舞台となり、空間を囲む三方に客席が設けられています。床には新聞紙が敷き詰められ、天井には雲が浮かんでいます。遠くにそびえるビル、電灯、自動販売機など様々なものが段ボールで作られていました。会場に一歩踏み入れただけで、その作品世界にもぐりこんだ感覚になりました。

最初に登場する老婆。ビールケースでできたステージに進みながらその腰はすっくと伸び、過去にタイムスリップしたのか、はたまた老婆の娘となったのか、歳が若返っていきます。老婆から「ナオミ」となった主人公が登場してステージで異邦人を熱唱しはじめるとその周りでは今後の登場人物となる人々が踊りだします。

この主人公の登場の仕方が見事だったのと、先日の舞台練習で見た異邦人のダンスシーンが冒頭に使われているということで、初めからこの作品への期待度があがりました。

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登場する役者は6人。ナオミと彼女を取り巻く様々な人々へと役が変化していきます。タゴサクと呼ばれる男、ご隠居と呼ばれる男、ナオミの娘たち・・・登場人物それぞれがナオミと関わりを持ち、都市・老いと関わっていくという要素が随所にちりばめられており、それが天王寺公園の撤去される運命にある百円カラオケの場に集約されていく、という大きな流れがあるようですが、人間関係や人物のキャラクターなどの描写が希薄で少々分かりずらいところもありました。代表の作・演出を手掛けた林は、作品を通して「都市が老いた人々をみつめる眼差しとは」ということに迫りたかったと述べています。

極東退屈道場の特徴として劇中で行われる「ダンス」といものがあり、今回も作品の要所要所で役者が踊りだすシーンがありました。インド映画のように物語が高揚した場面でみんなが踊りだすというわけでもなく、ミュージカルのように歌やダンスが多用されている訳でもありません。当日配布のパンフレットで振付を担当した原和代氏は「常に監視され管理された都市に描かれる、均一化されてしまった身体とそれを見る観客の身体に、個々の持つ呼吸を回復させるためのマッサージのようなたわみの時間、そうなればいいなと思います」と書いています。まさに「たわみの時間」がそこに生まれているように思いました。

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今回の作品を見て、林の伝えたい思いや演出したいことはふんだんに盛りこまれているのですが、それが少々まとまりを欠いているため、観客に伝わりきっていない印象を受けました。都市やそこに暮らす人々、また今回は老人問題など問題となる視点が広がりすぎていて、それにプラスして登場人物それぞれの視点も多いため観客は少し飽和状態になっていたのではないでしょうか。

若手作家、演出家として評価を受けているだけに今後の活動を期待したいと思います。

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀


助成対象者へのインタビュー


Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

通常の公演より公演予算が増えたことにより、取材などより準備にリソースを割くことができ、作品に深みができた。また、劇場全体を架空の公園に見立てる美術や、初の函館公演の実現、現地演劇人との交流などが大きな成果であった。

Q2:お客様の反応

兵庫公演では、大阪の青空カラオケというモチーフからに、観客は失われた風景を想像し、ドキュメンタリー性の中から立ち上がる架空の物語を体験したようである。北海道公演は、そのモチーフすらも架空の物語として受容し、(つまり「大阪」そのものが架空と思える程の実際の距離)、同じ作品にも関わらず、観客の反応によって別の場所に変容したことが大変興味深かった。

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

助成を受けることにより函館公演を実現することができ大阪の小劇場の魅力を広めることができた。

函館は市内全域で過疎化が進み、あまり演劇は盛んではない。しかし助成により水準の高い作品の遠隔地への移送が実現したことで、地元演劇関係者との交流を産み、創作上の大きな刺激となったと評価を受けた。また大阪の劇団の来函に関心を持ち、普段劇場ヘ足を運ばない観客層も多く見られ、特に高齢者の関心が高く、現代演劇の普及に寄与できた。北海道・函館は、林慎一郎の故郷でもあり、作家として、内包された自身のプライマリーを探る作品となり、この作品を創ること、上演することにより、作家としても、成長することができた。

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

北海道公演の実現に大きく役立てることができた。または舞台美術、映像など「青空カラオケ」が繰り広げられる架空の公園のリアリティを充実させる事ができた。

Q5:今後の展望

今回の作品作りを通じて、また新たな地域との関係を生み出すことができた。関西で演劇を作るものとして、演劇のもつローカル性は非常に重要だと思っている。関西という地域で生まれたものを、別の地域に運びその地で暮らす人々の目の前で演じることの体験は今後も創出していきたい。

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

サポーターと、芸術団体の連携方法を課題とされていたようだが、現実的に寄付者とコミュニケーションをとることは、たくさん課題があるように思えた。どのような方法があるか、我々芸術団体も含めて模索する必要があると思う。

 

【活動報告】空間現代「『外』オープニングプログラム」(音楽)
2017年1月24日

H28年度 助成対象事業・視察報告

空間現代 「外」オープニングプログラム

概要:結成以来、東京を中心に活動を行ってきたバンド「空間現代」が京都に拠点を移し、2016年9月に自らが企画運営する音楽スタジオ兼ライブハウスをオープンしました。今回はそのオープニングプログラムへの助成となります。

2006年現行メンバー3人によって結成。最初こそ、パンクバンドとして活動していたそうですが、徐々にジャンルレスの、形容しがたい音楽の状態を追及するようになり、現在、その先鋭的な音楽性が高い評価を得ています。また、音楽という枠を超えて、演劇、ダンス、現代美術などのアーティストとも数多くコラボレーションし、芸術という様々な場で横断的な活動をしている点も注目されています。

 

スタッフの視察報告:彼らがオープンさせた「外」は京都市バス錦林車庫前駅のすぐ目の前にあります。1階がスタジオ兼ライブスペースで2階は事務所となっています。

この場所で行われる公演は全て、「外」並びに空間現代が主催・ディレクションに関わっていき、主催公演の他、アーティストやイベンターとの協働プログラムも継続的に開催していくとのこと。今回のオープニングプログラムは16日間に及び、バンド外部の者がセレクターとして関わり、出演者を決めるプログラムも盛り込まれています。

9月25日の公演では、メディアアートの国際的な祭典「アルス・エレクトロニカ2013」で準グランプリを受賞したSjQを含む2バンドの出演公演となりました。

まずは空間現代の演奏からスタート。

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普通のエイトビート等とは違う、変拍子にも思えるドラムから始まり、ギター、ドラムと音が重なっていく・・・永遠と続くと思われるその音楽は観客をトランス状態にさせ、徐々に彼らの音楽世界に引きずりこまれていきます。

演奏される曲は、ふと即興なのかと思いましたが、ちりばめられた「キメ」の部分が素晴らしく、すべてが計算され作られたものであり、練習の賜物であると気づかされます。彼らの音楽ジャンルは、変拍子や転調を多用した複雑な構成である「プログレ」(「プログレッシブ・ロック」)のジャンルに分類されることもあるそうですが、この一見複雑な楽曲は過去に作った曲を一度解体して違う曲の一部をつなぎ合わせるなどして再編成させたものだそうです(9/17アフタートークにて)。

DSC_1383 佐々木敦氏、三浦基氏によるアフタートークの様子

今回のオープニングプログラムでは、彼らと同年代、それ以下の若手アーティストも多く参加していますが、山本精一やPhewといった80年代ごろからのパンク、ニューウェーブ、ノイズなどをけん引してきた人々がラインナップに上がってきています。空間現代の音楽が、ただ新しいこと斬新であるということにだけ目を向けているミュージシャンではなく、地に足ついていて、どこか、少し懐かしい感じを受けたのは、そういった時代ごとに先鋭的だといわれてきた音(しかしながら、現代でも決して古いものという訳ではない)へのオマージュのようなものを持っていると感じられたからかもしれません。

 

ミュージシャン自らが拠点を作り、制作するだけでなく、様々なジャンル・世代の人々やその周辺にあるものとの接点をもっていこうという動きは、閉鎖が続くライブハウスの文化とはまた違う形において、今後、関西の音楽シーンに新たな展開をもたらすもののようにも思いました。

IMG_4022 「YPY+YAMAT」LEDを使った装置の設営時の様子
IMG_5695 大阪を拠点とするドラムデュオ「ダダリズム」

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀


助成対象者へのインタビュー


Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

バンドのメンバー全員が移住しライブハウスを作って運営するということが前例のない取り組みだったので、空間現代にとって非常に大きな挑戦でした。今回の事業はそのオープニングプログラムということで、工事と並行しての準備は大変でしたが、連日のイベントに様々な音楽ファンが集い、「外」の運営の道筋をつくることができました。

Q2:お客様の反応

先鋭的なプログラムの内容に、アーティストが運営するライブハウスならではの独創性を見出していただけたように感じます。また、バンドがライブハウスを運営するという取り組み自体にも応援の声を多数いただきました。

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

ライブハウスという拠点を持ち運営するという空間現代の取り組みに対して、多くの方に興味を持っていただくことができたと思います。日本経済新聞では文化面の特集記事で、音楽シーンの活性化につながる活動と評価していただきました。

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

知名度に関わらず前衛的・革新的な表現を行うアーティストを数多く招聘し、観客に新しい音楽との出会いの場を提供することができたと思っています。

特に東京からアーティストを招聘する場合交通費などの経費がかさむため、貴団体の助成が無ければ招聘が難しいアーティストの出演が可能となりました。

Q5:今後の展望

今後は、音楽のみならず、さまざまな芸術分野のイベントを「外」で開催する予定です。また、国内外問わず先鋭的なアーティストを招聘し、京都における新たな文化の発信拠点となることを目指しています。

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

パトロンプログラムのような、サポーターと助成を受けた団体をつなぐ取り組みを、今後もさらに継続発展していただきたいです。

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

寄附者の方々には、寄附によって行われる事業がどのように行われているか、実際に会場に足を運んでいただくことを望みます。また、アーツサポート関西という仕組みをぜひ周りの方々に広めていっていただきたいです。

【活動報告】Re:ブリックス「カラカラ」(演劇)
2016年10月31日

H28年度 助成対象事業・視察報告

コンブリ団 Re:ブリックス「カラカラ」

概要:「まずは観客の『生活』に身近であること。現代演劇を創る我々は自分の身近にある、自分と関係の深い事を取り上げ、演劇作品を創造して、観客の心に届けて行きます」。コンブリ団のホームページには、自らの劇団をそう説明しています。今回の上演作品「カラカラ」は、劇団の代表であるはしぐちしんの身近な一人であった劇作家で演出家の深津篤史の作品。2014年に46歳の若さで急逝した深津作品を、彼と交流のあった劇団が再演する「深津篤史演劇祭」の第一弾ともなりました。

スタッフの視察報告:老舗小劇場「ウィングフィールド」の、客席はほぼ満員。何の前触れもなく、舞台上に布団が敷かれ、一人の女性がそこに寝そべり漫画を読んでいる。始まったのかと思いきや、時間は上演予定の少し前でした。しばらくすると、作業服を着た2人組が入ってきて、寝そべる女性ごと布団の位置を素早く移動。「カラカラ」が始まります。

この作品は、1995年1月に発生した阪神淡路大震災を機に作られたもので、同年5月に発表。災害後の避難所を舞台に描かれています。演出は岐阜県に本拠地を置くジャブジャブサーキットのはせひろいち氏。

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登場人物は、白い衣装の3人、避難所の小学校でゴロゴロ漫画を読む女性、その兄、友達。白い衣装の3人は、どうやら生きている人ではなさそう。3人は子どもとその宿題を見守る車いすの男(はしぐち)、若い女性。どのような関係でそこに集まったのかは定かではありませんが、始終動き回る車いすから聞こえる「カラカラ」が心地よく、そして効果的で、なんとなくその関係や現実と虚実の世界をつないでいるように思えました。

 避難所の不自由さ、車いすに乗るという不自由さ、あの世とこの世を分けるでも結びでもなく、完全に乾いてしまった音ではなく響く「カラカラ」の音がほんのり人の温かみを感じたりもしました。

 大道具などは特になく、舞台の天井につるされた格子状のバトンが揺れることで、余震を感じさせるなどの演出となっており、その場面の状況はよく把握できるものとなっていました。車いすの「カラカラ」の音も有効に使われていました。もう少しスタイリッシュなシンプルさがあると、深津氏の、おそらく余白の多い戯曲により思いを馳せることができたのではないかとは思いました。

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芝居後には戯曲のリーディングとアフタートークの場が設けられていました。リーディングは、目の前に繰り広げられていた芝居を観た後に体験するからか、深津作品だからなのか、非常に想像力を掻き立てられるものとなっていて、今回の「深津作品を楽しむ」という上で非常に有効であした。また、全く違う劇団の作家や演出家を交えて行うアフタートークは、それぞれの解釈の仕方の違いなどを知ることができ、より芝居を楽しむことができました。

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀


助成対象者へのインタビュー


Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

カンパニーとしては新シリーズを立ち上げ、今までと違うスタイルでの作品づくりになりましたが、素敵な演出家、共演者、スタッフに恵まれ、良い環境で演劇作品が創れました。

Q2:お客様の反応

観劇後、震災や災害のことを考えたというご意見、深津篤史という劇作家と出会えて良かったと言うご意見を多くいだだきました。

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

こちらが舞台作品として提示したものをお客様がそれぞの形で持ち帰っていただいたと感じております。その意味で良い舞台作品が制作できたと思っております。

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

助成金は演出料に充当いたしました。素晴らしい演出家を招いて作品が創れたため、公演の成功があったと実感しております。

Q5:今後の展望

新シリーズと従来の作品づくりの両立を目指していく予定です。

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

公演前に助成金が振り込まれるので運転資金ができ、とても助かりました。今後もこの方式を続けていって欲しいと思います。

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

より多くの人が劇場に足を運んでいただけるよう、広報等にも協力していただければ、もっともっと演劇を観る人が増えると思っております。よろしくお願いします。

【活動報告】クールジャパン・アダルトロック(音楽)
2016年10月24日

H28年度 助成対象事業・視察報告

平井孝明「クールジャパン・アダルトロック」

概要:「クールジャパン・アダルトロック」は、月刊音楽フリーペーパー「JUNGLE LIFE」を手掛ける平井孝明氏が仕掛け人となって「音楽的にパイオニアの文化が根付いている関西で、関西のアダルトロック・バンドが世界に認知される機会を広げ、関西のポテンシャルを発揮するように」とはじまり、今回で5回目を迎えます。音楽を通じて、演奏者、観客が「人生の豊かさ」を享受できるようなイベントを目指しています。

スタッフの視察報告:大人たち(社会人)たちの熱いロックイベント「クールジャパン・アダルトロック」の会場は、心斎橋にあるFootRock&BEERSという、サッカー鑑賞BAR、ライブハウスほか様々なイベントを行っているスペース。スポーツ界、音楽界、文化人、メデイア・放送局関係、イベンター、学生企画団体、企業家様々な人たちが日々集まってきているようです。

普段は、サッカーのゲームが鑑賞できるBarであったり、結婚式などの二次会に使われたり、オフ会イベントに使用されたり、ライブハウスになったりと用途は様々です。

今回の「クールジャパン・アダルトロック」は、月刊音楽フリーペーパー「JUNGLE LIFE」を手掛ける平井孝明氏が仕掛け人となって「音楽的にパイオニアの文化が根付いている関西で、関西のアダルトロック・バンドが世界に認知される機会を広げ、関西のポテンシャルを発揮するように」とはじまり、今回で5回目を迎えます。ロックのライブとなるとオールスタンディングのイメージですが、「アダルトロック」だけに、50人程度の客席が設けられていました。演者はゲスト以外は40歳をゆうに超えている(失礼)。ロック、アコースティック、R&B、ソウル、ハードロックなど様々なジャンルの音楽を聞かせてくれました。


ロックイベントのMCならバンディ石田です

申請書に「音楽を通じて、演奏者、観客が「人生の豊かさ」を享受できるようなイベントを目指します。」とありましたが、演奏の安定感からの「音の豊かさ」を感じるだけでなく、中年の、社会の酸いも甘いも経験してきたと思われるそれぞれの演者が、ステージ上では輝きを放っており、まさに「人生の豊かさ」を体験することができるイベントでした。
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(左上)おやじとは言わせませんよ。このグルーブR-CALL/(左下)澄みきった歌声ウンPapaルンPapa/ (右上)捧腹絶倒!!バカテクのギターVep Halen/(右下)浪速のファンク・ブルースならこのバンドですBLACK LIST REVUE

社会人であり、アマチュアではあるがミュージシャンとして活動する人々を対象としたプロジェクトとして「クールジャパン・アダルトロック」を開催し続けているというのは、若者がメジャーデビューを目指すとことではなく、また内輪のノリで発表会を行うのでもないという、アマチュアバンドの音楽シーンに新たなムーブメントを作っていくようにも思われます。

今回のアーツサポート関西の助成対象プログラムとしては、イベントの開催とそのライブ映像などを撮影のうえアーカイブ化していくというものもあり、双方が機能して今後も同イベントが続いていくことが、関西のインディーズ音楽シーンのプラットホームとなり、次世代へつなげていくべく更なる活性化を図ることとなると期待されます。

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀


 

 

助成対象者へのインタビュー

Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

集客もあり、多彩なバンド、アーティストがコラボ出来た事が収穫です。

Q2:お客様の反応

次回開催の日程をほとんどのお客様に確認された事。出演バンドに定期開催をオファーされました。

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

次回へのステップアップと、冠イベントの定着、集客力がついて来たこと。

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

MC、撮影などへのギャラ支払い

Q5:今後の展望

定期開催の実施と、社会人のオリジナル音源の配信、販売。野外フェス、大型ライブ会場での開催、海外へのメディア発信による、社会人ミュージシャンのプロモート

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

次のステップアップのために金額面での見直しとサポーター制度、システムの簡素化、明確化を希望します。

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

顔が見えるシステム、アプローチの経緯を見える化にして欲しいと望みます。

【活動報告】燈(美術)
2016年10月13日

H28年度 助成対象事業・視察報告

濱脇奏 個展「燈」

概要:現在、ドイツのデュッセルドルフ美術アカデミーで学ぶ、同アカデミー3回生の濱脇奏さんによる個展「燈」が、加古川市にある「あかりの鹿児資料館」で開催されました。アーツサポート関西はこの展覧会に30万円を助成しました。

濱脇さんは、高校まで神戸で過ごし、高校時代からドイツの美術大学受験を視野にいれて独自にドイツ語を学習し、高校卒業後に渡欧。そしてドイツの大学受験に挑み、見事、世界で最も重要な美術大学の一つと言われるデュッセルドルフ美術アカデミーに入学しました。この大学は、ヨゼフ・ボイスなど今日の現代美術の礎を築いた世界的に著名なアーティストを多数輩出している学校として有名で、教える教師陣も、世界の第一線で活躍するスーパースター級のアーティストがずらりと並ぶ豪華な顔ぶれです。美術の世界において海外の大学で学ぶ日本人学生は少なくはありませんが、その多くが、日本の美大を出てから大学院に転入するケースが多い中、日本の高校で語学の習得からとりかかり、学部から海外の大学で勉強する方はあまり多くはありません。それだけに濱脇さんの進路選択には、美術やご自分の将来にむけた強い信念が感じられます。

スタッフの視察報告:会場となったあかりの鹿児資料館は、民間企業が運営する私設の博物館で、会社の創業時にランプを取り扱ったことなどから、国内外のランプや照明器具に関する様々な資料などを多数収集・展示しています。今回の濱脇さんの展覧会は、以前、加古川の別のギャラリーで開催された濱脇さんの個展をみた学芸員が開催を持掛ける形で実現したもので、この博物館の特別展示室で開催されました。

特別展示室は、正方形の形をした50㎡ほどの広さの空間で、壁面は展示用のガラス陳列ケースで占められています。濱脇さんは、ここの壁面に絵画を掛けるわけでもなく、また、ケースに立体作品を置くのでもなく、壁面のガラス陳列ケースそのものを作品化することを考え、この場所特有の、いわゆるインスタレーションと呼ばれる空間的な作品を展示しました。

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ただ単に「燈」と名付けられた作品の構造はとてもシンプルで、腰高から天井近くまであるガラスケースの内部全体に、透明のアクリル板を設置し、その全面に黒いテープで斜方向に整然と並ぶ黒いストライプを表現しました。アクリル板の背後には、ブルーとオレンジの光を発する照明器具を配置し、その光によって陳列ケースの中で黒いストライプが空間の中に浮かび上がります。特に、ガラスケースが直角に交わる角の部分では、角を挟む左右の表面ガラスにストライプやガラスそのものが映り込み、非常に複雑な視覚的な効果が生まれます。

「展示室には、今では見かけないガラスの展示ケースがL時状に対面に配置されている。ガラスの性質上、光の差し込む方向で反射や湾曲や屈折や映り込みがおこる。それをうまく利用して、オレンジと青を対面に配置することで、青側には対面側のオレンジの光が映り込み、奥へ奥へと光が続いていき、奥行きがあるような錯覚をおこすことができる。」「床にも天井にもその光が反射するため、左右前後にあわせ天井と床の上下にまでわたる2~3倍もの広がりのある部屋が出来上がり、別世界を想像させる。」(主催者の報告書より)

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濱脇さんはこの展示のために、今年前半に日本に帰国した際、現場を訪れ、「あかり」の博物館であることの場所の意味や展示ケースの壁面で構成されている部屋の空間的特性、それに加えて、普段ドイツにいることによる時間的・作業的な制約、そして予算などを検討し、このプランを考案したということです。

視察者の印象として、まず実現可能性を前提とし、非常にシンプルな手法で極めて大きな視覚的効果を生み出している部分に、物事の多様な側面をトータルに検討・判断しながら、そこから高い表現性を導き出す、アーティストとしての思慮深さ、もしくは「懐の深さ」のようなものを感じました。そこに未熟な意識のブレはなく、ベテランの作家がその効果の余韻を自ら楽しむような円熟的な佇まいすら感じれ、この若い作家が潜在的に宿すスケールの一旦を垣間見た気がしました。

アーツサポート関西の今年度の助成の基準は、高い水準を有するアーティストを見出し、光を当てることとしていますが、濱脇さんはまさにその基準に見事に合致するアーティストとして、アーツサポート関西としても、今後大いに期待を寄せながらその活動を見守っていきたいと考えています。

アーツサポート関西 事務局 大島賛都


濱脇奏さんに聞く:


Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

一年前の夏の会場下見から、今年の夏の展覧会の開催まで計画的に準備を進められた。広報活動も時間的余裕をもって始められたと思う。また、コンセプトをかなり練ることができたため、質を高められた。

 

Q2:お客様の反応

あかりの鹿児資料館初となる現代美術/インスタレーションの展示で、戸惑う姿が多く見られたが、ポジティブに捉えてもらえた。
時間をかけて見てもらうことで、訪問者自身で感じ、考えるきっかけとなり、新たなことを発見して充実感にあふれている様子だった。

 

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

現代美術があまり盛んでない地域の住民に、このような形で提示できたのはとても有意義であった。
更に私にとっても新たな挑戦(光を用いた作品づくり)であり、課題を見つけるとともに、この制作方法に可能性を見出すことができた。
神戸新聞、加古川経済新聞、BANBANラジオで告知をしていただき、これを見て来場された方もいて、新たに多くの方に私のことを知ってもらえるきっかけとなった。

 

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

やはりまずは展覧会のことを知ってもらって足を運んでもらうことが第一歩で、そのための広報活動(DM・チラシの配布、Webページへの掲載など)を充実させることができた。
そして、実際の展示内容の質を向上させることができた。シンプルであるが故に、手を抜けないところがあり、細部まで美意識の高い材質のものを使用することができた。
また、パトロンプログラムに選定されたこともあり、ASK関係者様、サポーターの皆様にご来場いただくことができ、さらに縁を深められた。

 

Q5:今後の展望

今後はさらにこの活動を充実させていき、もっと地域住民に近い形で発信できていければと思う。そして、徐々に活動範囲を関西へと広げてゆきたい。

 

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

一度助成を受けた方々の成事業活動、さらには後の活動を紹介するプラットフォームのようなものがあればよいと思う。そうすれば、ASK全体の認識度・価値の向上、助成事業の質の向上、助成を受けた人の今後の発展、さらには関西全体の芸術活動の豊富さにつながってゆくのではないか。

 

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

実際に助成を受けた事業になるべく足を運んでいただき、興味関心度を高めて、こういった活動をもっと広めていく活動にご尽力いただきたい。サポーター=実際に社会に影響力・浸透力をお持ちの方が一声あげ、一行動するだけで地域、全国単位で大きく動くのではないか。

「岩谷産業文楽支援寄金」記者会見を開催しました
2016年10月6日

9月29日中之島プラザ(大阪市北区)にて、「岩谷産業文楽支援寄金」創設とその支援先について記者会見を開催しました。

アーツサポート関西では、平成26年度より2年間にわたり、若い世代の方々に文楽に親しんでいただくことを目的として、文楽技芸員が作るNPO法人人形浄瑠璃文楽座が行う事業「そうだ文楽へ行こう!!ワンコインで文楽」に対し500万円を助成してまいりました。これは京阪神ビルディング株式会社が設けた「京阪神ビルディング文楽支援寄金」からの支援によるもので、学生を対象にワンコイン(500円の自己負担)で国立文楽劇場にて文楽鑑賞ができるようにするほか、観劇の前に文楽技芸員が見どころレクチャーなども行い、文楽をより身近に感じてもらおうとする取り組みです。2年間で約1,000人の学生が参加し大好評を博しました。この度、この取り組みが2年間で終わってしまうのは惜しいと、岩谷産業株式会社様から500万円の寄附のお申し出があり、さらに2年間に渡ってこの事業を継続していくこととなりました。

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記者会見には、新聞各社や主要テレビ局から約30名の記者が参加し、会見では、寄附者の岩谷産業株式会社の牧野明次会長兼CEOをはじめ、今年5月まで駐フランス大使でもいらっしゃった鈴木庸一政府代表特命全権大使(関西担当)、NPO法人文楽座から理事長で三味線の竹澤團七氏、理事で人形つかいの桐竹勘十郎氏が、それぞれの立場からこの事業の意義や展望について語りました。特に、今回から30歳以下であれば誰でも参加できるようになり、日本で学ぶ留学生などにも積極的に参加を呼びかけていくことが発表されました。

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また、会見には、この「ワンコイン文楽」を通じて文楽に魅せられ就職も文楽関係の仕事に就くことになった女子大生や、ベルギーから日本文化の研究のために留学している女子留学生も参加し、文楽の魅力などについてお話しいただきました。

プレスリリースはこちら

【活動報告】ハイライトシーン(美術)
2016年9月15日

H28年度 助成対象事業・視察報告

現代美術のグループ展「ハイライトシーン」

活動概要:「ハイライトシーン」は、京都国立近代美術館の研究補佐員で美術館外でもさまざまな展覧会を手掛ける若手キュレーター平田剛志氏の自主企画により、大洲大作、中島麦、竹中美幸の3名の作家が参加して5月4日~5月22日にかけて京都のGallery PARCで開催された現代美術のグループ展です。展覧会のテーマ「ハイライト」を、さまざまな形で想起させる写真、絵画、立体作品で構成されています。アーツサポート関西では、この展覧会に30万円を助成しました。

スタッフの視察報告:会場となったGallery PARCは、京都の三条通沿いの繁華街の中心にある民間のギャラリーで「グランマーブル」というブランドでデニッシュを販売する会社が運営しており、最近目立ってきた京都の企業によるアート活動の一つでもあります。

会場は、コンクリート打ちっぱなしの壁面に大きな窓ガラスがつけられた変則的な空間で、そこに白い仮設壁面を建てて展示が行われていました。

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会場風景 竹中美幸の作品(右手奥)、大洲大作と中島麦の作品(左壁面)

 

写真を手掛ける大洲大作の作品は、対象を抽象的にとらえ、その色彩や形態をシンプルな要素に還元させていくような写真作品で、写真でありながら作家の造形的な恣意性が強く表れたものとなっています。中島麦の作品は、キャンバス上に細かな絵具の滴を無数に垂らしていくドリッピングによる絵画で、多様な色彩が幾重にも複雑に重なりあい、その偶然がもたらす色同士の反撥や飛沫の形態の妙などが絵画的な様相を際立たせています。

竹中美幸は、暗室で感光させた35ミリフィルムを天井から多数つりさげ、背後の大きな窓から差し込み光が淡い色を帯びて透過するスクリーン状のインスタレーション作品を展示しました。

highlight2 大洲大作 夏の光I(左)、冬の光II(右)

 

本展の作品の間には視覚的に穏やかな連携性があり、その点は評価されるべきものだと思います。一方、展覧会の解説文などで「ハイライト」という言葉を、物事の重要な部分を示すもの、および照り返された強い光という「強度」としてとらえていながら、展示作品が見せる比較的「おとなしい」印象との間に、ギャップがあるようにも思いました。

アーツサポート関西 事務局 大島賛都


 

「ハイライトシーン」キュレーターの平田剛志さんに聞く

Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

私たちは「ハイライトシーン」に何を見ているのか。映像や作品の見せ場を指して用いられる「ハイライトシーン」と美術表現における技法「ハイライト」の意味するものは何なのか。「ハイライト」をめぐるさまざまな「光」の在りようを、写真、インスタレーション、絵画という異なる美術作品を通じて考察する展覧会を実現できました。加えて、殺伐とした「ハイライト(シーン)」なき現代にとって、「ハイライト」を自分自身でつくることができたのは得難い経験でした。

 

Q2:お客様の反応

17日間の会期で710名の来場を得ることができました。当初目標には及びませんでしたが、有名作家による展覧会ではない本展に700名以上の来場者数があったことは評価できる結果でした。

会期中に開催されていた「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2016」との連携はありませんでしたが、「光」や写真など共通点もあり、本展と合わせて鑑賞する来場者が多く見られました。

「ハイライト(光)」という日常的にも専門的にも普遍的なテーマを設定したことで、来場された方々から、さまざま批評、感想をいただくことができました。それにより、光とは記憶や経験であり、人それぞれの「ハイライトシーン」が隠れていると気づきました。

 

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

本展は、会場に合わせた新作が多く、事前に「ハイライトシーン」を編集、想定できない不安がありましたが、結果的には各作家の作品が相互に反射、反映(ハイライト)した光に満ちた空間となりました。5月の光の強さと相まって、鑑賞者を含んだ展示空間そのものが「ハイ-ライトシーン」でした。

会期末の5月21日には、京都新聞朝刊にアートライターの小吹隆文氏が本展レビューを寄稿して頂きました。

 

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

出品作家2名が関東在住だったため、展示に関わる搬入出、作品輸送、宿泊が可能となりました。個人では負担が大きく、経済的、体力的に万全の態勢で設営や搬出を行えました。余談ですが、キュレーターと各作家とのやりとりは頻繁にあったものの、出品作家全員が揃うのは設営当日となり、搬入・設営がまさに本展の一つの「ハイライト」でした。作家が自身で設営に立ち会い、現場で生まれたアイデアを形にできたことはすばらしい経験でした。

 

Q5:今後の展望

これまで「光」をテーマとした展覧会「光路」(2015年、大阪)と本展「High-Light Scene」の開催を通じて、さまざまな美術作品に見られる現象学的、光学的な「光」を検証してきました。

今後は、「光」から「色」へと視点を広げ、光の三原色(赤、緑、青)3部作の展覧会を構想・準備しています。光や色は誰もが知っていながら、その思考や概念に幅があります。展覧会を通じて、光の三原色をプライマリーに思考することで、芸術作品にとって三原色とは何なのか、世界や日常に「色」を見る(ある)こと、色彩の感受・知覚へと還元していきたいと考えています。

 

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

末永く継続を望みます。

 

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

助成対象者に引き続き、ご注目ご支援を頂ければ幸いです。

 

 

【活動報告】モンゴルズシアターカンパニー(演劇)
2016年9月8日

活動概要:モンゴルズシアターカンパニーは、特定の団員を持たず、公演ごとにふさわしいメンバーを配置するという方法で、様々な場所で公演を行うユニットです。「鼠-2016-」は2015年日本劇作家協会主催の短編演劇祭「劇王天下統一大会2015」で唯一関西代表に選ばれて上演された作品「鼠」を、若手演出家の雄―笠井友仁を迎えて長編作品として再編成されたものです。

スタッフの視察報告:会場となる大阪市中崎町のイロリムラプチホールは、入ってまずその小ささに驚かされます。舞台には大道具はなく、小さなホワイトキューブに約20名程度の客席がひな壇に設けられていました。大きな劇場では表現できなかった地下鉄のホーム下の雰囲気を演出するために、この劇場が選ばれたようです。前回の公演で400名もの来場者があったこともあり、公演は2週間に及び全18回上演されました。

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ストーリーは、ある春の日の午後、ラッシュ時を過ぎた地下鉄のホームでの飛び込み自殺による非常制御スイッチ起動での停電した3分後から始まります。舞台は駅のホーム下の退避場所。駅員2人の会話劇として構成されており、それぞれの駅員の関係性や過去が次々に明らかになっていきます。

エピソードを少し盛り込みすぎの感はありましたが、もともと駅員1が運転士をしていたこと、駅員2の弟が飛び込み自殺を図ったことなど、とりとめのない会話の中からそれぞれの現在・過去が浮かび上がります。そして、タイトルとなる「鼠」のエピソードも。

演出を手掛けた笠井友仁は「空間」「身体」「音」にこだわった独特の世界観をもつと評され、小さなホワイトキューブをうまくホーム下の空間へとしあげており、また文字や影が効果的に使われていました。

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公演終了後は、隣のカフェでささやかな交流の場がセッティングされており、観劇後にお客さん同士、またはお客さんと演出家、脚本家、出演者などとの意見交流ができる仕組みになっていました。

「あの場面がおもしろかった」「前回と今回では何がちがったのか?」「あの場面での演出はわざとなのか?」など、様々な会話や意見が酌み交わされていました。

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀


 

モンゴルズシアターカンパニー主宰・増田雄さんに聞く

Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

大阪市北区の文化発信として、たくさんの地域からの来場者があったことがとても嬉しく思います。今回の上演場所であるイロリムラが、多くの方々に知ってもらったこと、そして面白がって頂いたことが良かったです。

 

Q2:お客様の反応はいかがでしたか?

アンケート回収率70%、内【大変良かった 115名】【良かった 83名】【ふつう 4名】【つまらなかった 1名】【その他(感想文のみ)20名】と非常に評価が高く感じられました。

 

Q3:自己評価、メディアへの掲載なども含め、どのような成果が得られましたか?

終演後も、ワールドカフェなどお客様一人一人の意見を聞く場を設けることで作品の理解、改善点、交流を通しての共有がなされたことが最大の成果です。普段は金銭の関係で三日ほどの公演しか出来なかったことに比べ、今回は二週間もの上演が実現し、いつもは来ることの出来ない大阪、東京、広島、海外からのお客様が多く来場された。また、日を増すごとに作品の噂を聞きつけ来場される方が増え、自団体の宣伝にも繋がりました。作品のクオリティーも長期間で向上し、今後の創作においてのすステップアップにつながったと思います。

 

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

費用を前入金頂くことで素早い対応が可能となりました。寄付という形態がアーティストにとって良い意味でのプレッシャー、かつ自信に繋がり、創作する上での精神的な支えになったと思います。

 

Q5:今後の展望

私たちのユニットは、演劇が社会とどう関わり、どう影響を及ぼすかを具体的に考えながら活動を行って参りました。演劇の上演だけでなく、人と人が結びつき、違う価値観を共有し合える場の提供をすることで、観客自らが参加し、創作出来るイベント作りを今後も企画していきたいと思います。

次回は演劇という媒体が持つ客観性を活かした舞台作品を考えています。内容として、50分ほどの戯曲を1度の公演で2回上演します。最初は深刻な物語として、2回目の上演は雰囲気を一変しコミカルな物語として描きます。同じセリフでありながら、演出を変えるだけでその状況は全く違うものになることを訴えると同時に、演出や戯曲といった一般的には馴染みのない役職へ目を向けてもらうことで、演劇の魅力を伝えたいと思います。

ASKサポーター感謝のつどい
2016年4月20日

2016年3月23日、大阪能楽会館および梅田クリスタルホールにて、「ASKサポーター感謝のつどい」が行われました。

当日は、サポーターをはじめ関西で活動する芸術・文化関係者など約350人が集まり、大阪能楽会館の能舞台で行われた、アーツサポート関西の支援を受けた(または、これから受ける)方々による、クラシック演奏や文楽のパフォーマンスを鑑賞しました。その後、隣接する梅田クリスタルホールに会場を移して交流パーティを行いました。

交流パーティでは、芸術・文化関係者による11のブースが出展され、多くの参加者がそれぞれのブースを回り、出展者たちの声に熱心に耳を傾けていました。パーティでは、ご協賛企業からいただいた豪華賞品があたるチャリティ福引抽選会が行われ、そのチケットの売上約20万円のうちの30%にあたる額が、参加者の投票で最も多くの票を集めた関西フィルハーモニー管弦楽団に贈られることとなり、目録の授与の際には会場から大きな拍手が沸き起こりました。

アーツサポート関西の鳥井運営委員長は「よってたかって支援をする、を合言葉として、市民が広く文化を支援していくことが大切である」と述べ、関西経済同友会の蔭山代表幹事は「芸術・文化への理解があることが関西の企業の特徴であり、勇気をもって文化を支援していくべき。そのため寄付型自販機の推進に、同友会として取り組んでいく」と話していました。

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関西フィルハーモニー管弦楽団 若手演奏家支援/特定型助成(ザ・シンフォニーホール、大阪市中央公会堂など)
2015年10月31日

活動概要: 匿名寄付者が設置した寄金より、関西フィルハーモニー管弦楽団に300万円を助成。関西出身の若手ヴァイリニストが出演する2つの演奏会への支援、および児童養護施設の周年記念式典における同施設ブラスバンド部との共演活動を支援した。

内尾文香
内尾文香

スタッフの視察報告:  関西出身の2人の若手女性ヴァイオリニストが出演する、2つの関西フィルのコンサートを支援しました。1つ目は、第263回定期演奏会。ヴァイオリニストの清永あやさんがメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏しました。清永さんは現在、東京芸大の大学院に籍を置く“学生”ですが、すでに国内外のオーケストラとの共演も多数で、艶やかでメリハリのある演奏で会場を魅了しました。2つ目は、大阪市中央公会堂での特別演奏会。こちらには、さらに若手の現役女子高生・内尾文香さんが登場。チャイコフスキー・ヴァイオリン協奏曲を演奏しました。内尾さんは難曲として知られるこの曲を、圧倒的なエネルギーで熱演。演奏後には指揮者をはじめ楽団員がみな足を踏み鳴らして喝采を送りました。二人とも関西から世界に羽ばたく演奏家として大きく注目を集める存在です。また今回の寄付者(匿名)が長年支援を続ける児童養護施設が100周年を迎えるにあたり、その記念式典で関フィルのブラスアンサンブルと同養護施設のブラスバンド部との共演が実現しました。夏から合同練習を行い、本番の式典では、心のこもった素晴らしい音色を響かせていました。(視察日 3/14、3/20、10/31)

楽団事務局長の朝倉祥子さんに聞く:
Q 2人の若い演奏家との共演はいかがでしたか?
A ソリストお二人の演奏技術の確かさと豊かな音楽性が実感できる演奏会でした。オーケストラの奏者は心から共演を楽しみ、その温かい空気が会場全体を包みました。ステージ上での姿も堂々としていて世界での活躍を期待します。
Q どちらの演奏会も満席でした。
A 人気の高いメンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲がそれぞれの演奏会プログラムに入っていて、しかも若い新鮮で魅力的なソリストということも満席の要因の1つと言えます。また大阪市中央公会堂の演奏会は歴史的建造物である点で人気があります。

ANTIBODIES Collective ーDUGONG(元・立誠小学校)
2015年10月24日

活動概要: 音楽、映像、舞台美術等をユニークな手法で取り込んだ先鋭的なダンス公演。古い小学校内部全体を使い、パフォーマーが観客と入り混じりながら上演。旧名称はBABY-Q。

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Antibodies Collective公演風景          写真:井上嘉和

スタッフの視察報告:古い小学校(旧・立誠小学校)が会場で、ステージを設けず、講堂のような広い部屋、教室、廊下などの小学校の校舎全体が舞台です。観客は100人弱、演者が、観客の間を縫って動きまわります。特にストーリーはなく、ロングドレスの女性が背筋を伸ばして遠くを見ながら颯爽と歩き、軍服姿の男はグースウォーク、おかめの面を付けた女性は腰をかがめて踊るように動き回ります。ミニドレスの女性は、2人がペアで歩き、時々取っ組み合いのけんかをしながら移動していきます。10数人の演者は、それぞれが常に独自の動きをしながら移動しています。観客もいつの間にか演者に引きずられるように、さまざまな部屋へと誘われて行き、教室や廊下の間を回遊しています。こうした動きの中では、他の観客を演者かと思わされてしまう瞬間が、度々ありました。映像、照明、音、様々な物体、装置、演者の動きなどで構成された空間を、誰に指示されるわけでもなく、かと言って自分の意志だけで動いていたわけでもなく、ハーメルンの笛吹男に導かれた子供のように学校内のあちらこちらを連れまわされ、摩訶不思議な、時間と空間を体験させてもらいました。(視察日 10/24)

 

代表の東野祥子さんに聞く:
Q 今回の公演での取組みはいかがでしたか?
A 今回は横浜、京都の2カ所での公演であったため、移動費が予想以上にかかりましたが、どちらも大掛かりな空間を想定し、舞台美術や音響、照明などにこだわりました。また、今回チャレンジした観客に交じって上演する回遊型の公演は、演出部分で苦労しましたが、観客の方々からは新しい舞台空間の体験として、たくさんの好評をいただきました。
Q アーツサポート関西助成金70万円で可能になったことは?
A 東京から多くのダンサーやスタッフを招聘できました。また、舞台美術や音響、映像、照明、特殊美術などにより多くの予算を振り分けられましたし、作品の紹介ビデオ用にヴィジュアルイメージとして最先端のアニメーションを制作することもできました。

維新派 トワイライト(奈良県・曽爾村健民運動場)
2015年9月24日

活動概要: 大阪を拠点に国際的にも高い評価を得ている維新派の新作「トワイライト」の野外公演。奈良県曽爾村の雄大な自然を背景に、特設された野外劇場で上演された。

維新派 新作公演「トワイライト」
維新派 新作公演「トワイライト」

スタッフの視察報告:公演の舞台となったのは野外の広いグランドで、そこに500席余りの客席が階段状に設置されており、グランドの背後には兜岳、鎧岳の異形の山塊が薄暮の中に見通せます。少し肌寒い秋の夜風に自然が感じられます。公演の時間は約2時間で、名前が与えられた登場人物は、ワタルという少年とハルという少女、それにキーヤンと呼ばれる男の3人です。そのほかの40人ほどの登場人物たちは、集団として言葉を発し行動します。集団の発する言葉は、地名や体の部位の名前、道に関わる言葉、囃子言葉など短い言葉の連続で、しかもその言葉を独特のリズムで発し、全員で同じ動きをします。明確なストーリーがある訳ではありませんが、セリフや動き、全体の流れ、ワタル、ハル、キーヤンの発する言葉の中から、人それぞれに意味を持つ土地や地図、道や別れ道などがテーマとして浮かんできたように思います。観客には、遠いところまで時間をかけて足を運ばせて、室生火山群の異形の大自然の中に招き入れるという、それ自体がすでに見る人たちを引き付ける手段で、グランドの舞台では、独特の言葉とリズム、統制のとれた動きなどで観客を引き込むというこの公演の手法は見事だと思わされました。(視察日 9/24)

運営担当者の清水翼さんに聞く:  
Q 今回の曽爾村での公演に向けての取組みはいかがでしたか?
A この公演では、私たちも知らなかった曽爾村という場所への集客が課題でした。事前に曽爾村で役者の写真を撮影し、曽爾のイメージを具体的に打ち出すことで、維新派流の風景との出会いを演出し、お客さん自身に曽爾の風景との出会いを楽しんでもらえるような、想像の余白を提供しました。
Q ASKの助成金100万円で可能になったことは?
A 現地での告知用写真の撮影以外にも、運営体制やチケッティングなど、これまでとは異なった対応をしなければならない部分があり、助成金によってそうした経費が捻出できました。

タチョナ・プロジェクト KANSAIご近所 映画クラブ(大阪府立江之子島文化芸術創造センターほか)
2015年8月22日

活動概要: フランスの映像作家ミシェル・ゴンドリーのメソッドを使った映像ワークショップ。少人数のグループが企画から撮影までを数時間で行い、映像制作と同時にコミュニケーション・スキルを高める。

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スタッフの視察報告: タチョナ(touch on art)の映画制作ワークショップは、伊丹、淡路島、鳥取、大阪の4か所で開催され、その総括的な上映会が「えのこじま 仮設 映画館」で行われました。映画を作ると言っても、ワークショップに参加した初心者同士(初対面の場合も多い)が、話し合いながらあらすじを考え、台本を作り、役者として演技をし、カメラを回し、作品を作り上げるというものです。それを、原則、3時間で5分程度の作品に仕上げます。これはフランスの映像作家ミッシェル・ゴンドリーの制作メソッドによるもので、作り手は、小学生や中学生、高校生、一般の人など様々です。上映会では、ドキュメンタリータッチのもの、推理ドラマ的なもの、悩みの相談的なもの、スポーツ根性ものなど、20本以上が上映されました。素人が集まって短い時間で制作するには、コミュニケーションなど、様々な要素が絡み合う難しい作業になろうかと思いますが、最終的にはどのグループも1つの作品を完成させていて、達成感のある楽しい協同作業のように感じました。(視察日 8/22)

代表の小島剛さんに聞く:
Q 今回の取組の成果は?
A 短期集中型で、様々な事例を盛り込んだ実験プログラムになったと思います。また地域ごとにアートセンターやアートに関わる人々と協働できたことで、地域に根付かせる下地作りと共に、今まで以上の「ヨコの繋がり」ができました。
Q ASKの助成金55万円で可能になったことは?
A これまでは大阪や京都の学校教育プログラムと連携してきましたが、今回の助成で、それ以外の地域で実施する広域的プログラムとなりました。また、ファシリテーター養成講座も開催し、ファシリテーターのあり方を考えるためのプログラムを行うことができました。

あべの歌舞伎 晴の会(近鉄アート館)
2015年7月31日

活動概要: 松竹の上方歌舞伎塾1期生3人による歌舞伎公演。あべのハルカスの近鉄アート館で行われた。

新作歌舞伎『浮世咄一夜仇討』左から片岡千次郎、片岡松十郎、片岡千壽
新作歌舞伎『浮世咄一夜仇討』左から片岡千次郎、片岡松十郎、片岡千壽

スタッフの視察報告:  松竹の上方歌舞伎塾1期生の片岡松十郎、片岡千壽、片岡千次郎、3人の舞台です。いずれも門閥の出でなく、自らの意思で歌舞伎役者を目指した役者で、18年目の同期です。舞台の監修は、上方歌舞伎塾で主任講師を務めていた片岡秀太郎。公演は1部が舞踊で、2部は「浮世咄一夜仇討」の構成です。「浮世咄一夜仇討」は新作歌舞伎で、上方落語の「宿屋仇」をもとに作られています。落語が原作だけに、ドタバタ劇の要素もあって、楽しく見られる舞台でした。
舞台装置は小道具として使われた3面に使える衝立ひとつだけ。これを宿屋の女中役、片岡千壽が自ら運んでセットするという演出で、2つの部屋のシーン変わりも上手く芝居の中に取り込んでいました。300席の劇場で芸達者な3人が歌舞伎を演ずる今回の試みは、ファンを楽しませる要素が十分に詰まった企画でした。(視察日 7/31)

企画担当の松原利巳さんに聞く:
Q 今回の舞台に対する3人の取り組みはいかがでしたか?
A 松竹・上方歌舞伎塾の第1期生であるお三方は、三人三様の個性をいかした息のあった取り組みで、三人だけとは思えない新しい上方歌舞伎を見事に作り上げ、第一回のあべの歌舞伎を大成功させてくれました。
Q 今回の公演の成果は?
A 門閥ではない若手歌舞伎俳優が主役を務めた新作歌舞伎は「古典を踏まえ、三面客席の劇場を生かした新しい歌舞伎を創出した」と高い評価をいただき、これからの上方歌舞伎を担う若手歌舞伎俳優たちの新しい目標の一つになったのではないかと思います。

羽曳野少年少女合唱団(羽曳野市民会館)
2015年7月11日

活動概要: 活動43年目を迎える児童合唱団。練習場所が固定できずにいたが、ASKの助成により市民会館で毎回行うことが可能となった。

羽曳野市民会館での練習風景(羽曳野少年少女合唱団)
  羽曳野市民会館での練習風景(羽曳野少年少女合唱団)


スタッフの視察報告:練習場所は羽曳野市民会館3階にある広さ130平米ほどの大会議室。ピアノが常備されています。合唱団の団員は、幼稚園年中組の児童から高校生までの30人で、練習日は、レギュラーでは月3回ですが、大会や演奏会出演の前には、詰めて練習するので、実際には月4回ほどになるということです。練習中は合唱団OGの大学生も指導の補助に入っています。振りのついた曲などでは、この大学生が中心となって、高校生の団員らもアイデアを出し合いながら、楽しい振付を考えていました。団員たちは、年齢差がありながらも、年上の団員が幼稚園や小学校低学年の後輩たちをうまく指導し、皆が楽しそうに練習していました。また、初めての曲でも初見からちゃんと声を出し、みるみる上達していて、少年少女時代にきちんとした指導を受けながら、練習することの大切さを知らされました。(視察日 7/11)

指導者の中野彰さんに聞く:
Q 子どもたちを指導する中で大切にしていることは何でしょうか?
A 音楽的技術はもちろんですが、音楽を心の友として愛し、豊かな人生が送れる人間に育つことを願って、①楽しくのびのびと(心と体の解放)、②心のハーモニーを大切に(心と心を合せて美しいハーモニーを)、③感動する心(感動体験の共有)の3点を心がけています。

Q 子どもたちが最も嬉しいと感じる時はどんな時でしょうか?
A 何度も何度も練習して美しいハーモニーが生まれたとき、むつかしくて苦労した曲がうまく表現できたとき、思うように声が出たときなど、成功感や達成感を味わったときです。発表会で、自分たちが創り上げた音楽なのだ!自分たちで歌ったのだ!という喜びと、聴いてもらったという感動で心が満たされたとき、子どもたちの顔や目は輝いています。

下鴨車窓 #12 漂着(island)(香港・水泊劇場、マカオ・Macau Experimental Theatre、京都芸術センター、八尾プリズムホール他)
2015年6月15日

活動概要: 京都を拠点に活動する小劇場系の劇団・下鴨車窓のアジアツアー。現地でシンポジウムに参加するなどアジアの演劇人との対話も積極的に行った。

下鴨車窓「下鴨車窓#12 漂着(island)」
下鴨車窓「下鴨車窓#12 漂着(island)」

スタッフの視察報告:  この作品は、劇作家・演出家の田辺剛の新作で、香港とマカオの演劇祭に招待されて上演されたほか、国内でも京都、大阪、三重、東京で上演されました。芝居は2つのストーリーが交錯しながら進行します。1つは、映像作家が小さな島を舞台にした新作を作ろうとする流れ、もう1つは、この映像作家が書いている脚本らしきもの。そこには孤島に暮らす元建設会社の社長だったらしい男とその妻、それにこの夫婦の見張り役のような若い男、船で島に渡ってきた女が登場します。両方のストーリーに出てくる2組の妻と若い男は、同じ役者が演じており、舞台の上では、他方のストーリーの進行中に、もう1つのストーリーの登場人物が残っていたりして、舞台上での時間と空間が複雑に錯綜します。同じ役者が複数の人物を演じ、現実と虚構が交錯していくこの劇は、注意深く見ていないと筋が追えなくなりそうですが、限られた舞台上で、たった5人の役者によって、これだけの時間的、空想的な広がりを表現している点は、いわゆる「小劇場演劇」と呼ばれる日本的な演劇形態の素晴らしさが存分に発揮されていると感じました。(視察日 6/15)

劇作・演出の田辺剛さんに聞く:
Q 観客に最も伝えたい部分はどんなことですか?
A わたしたちの生が成果主義のような数値によってその価値が測られ、また目標になっている現代において、例えば演劇そのものの必要性など数値化できない価値をもう一度考え直す機会にこの作品がなればと思います。
Q 今回のアジアツアーでの収穫はどのようなものでしたか?
A 文化や趣向が違う海外の観客の前で上演することによって、自分の作品をより客観的に見つめる機会になりました。また香港や中国の関係者とのつながりができて再度の海外公演への足がかりができました。

Dance Fanfare Kyoto 03(元・立誠小学校)
2015年5月31日

活動概要: コンテンポラリー・ダンスのフェスティバル。今年で3回目。美術や演劇などの異分野とのコラボレーションに積極的に取り組み、新たな表現の創出を試みる。

 「呼び出さないでアフタースクール」  photo:Yuki Moriya
「呼び出さないでアフタースクール」  photo:Yuki Moriya

スタッフの視察報告: Dance Fanfare Kyotoは、ダンスを、演劇や美術、音楽など他の分野とコラボさせることで新しい表現を生み出そうという実験性の高い取り組みで、今年で3回目。5つの作品が上演されました。このうちのダンスと演劇とのコラボによるダンスコメディー「呼び出さないで! アフタースクール」は、男子高校生1人、女子高校生4人、女性の保健の先生、用務員さんの7人が登場。女子高校生4人は、新入生歓迎スポーツ大会の応援ダンス、手塚治虫、焼きそばパン、ルービックキューブに、それぞれ情熱を燃やしています。男子高校生は、みんなの動きや考え方に逐一言葉を挟み、解説し、励まし、批判し、観客の笑いを誘導します。ストーリーとしては、宇宙から女子高生を誘拐しに来たUFOをダンス・パワーで追い払うという荒唐無稽なものに、クラスに馴染めない転校生も仲間に入って、クラスみんながまとまり、新入生歓迎スポーツ大会の応援ダンスを団結して行う展開が絡む、というものですが、ストーリー性よりも、シーンごとの楽しさや可笑しさ、ダンスの素晴らしさといったものが素直に楽しめる、エンターテイメント性の高いダンスコメディーを堪能させてもらいました。(視察日 5/31)

実行委員長の北真理子さんに聞く:
Q 今回、3回目を開催されて前回とは違う手ごたえはありましたか?
A 今回、各運営メンバーが企画したプログラムを、良いバランスで実施できたかなと思います。それによって参加アーティスト、そして観客が、個々の興味を横断する形でダンスに出会う機会になったのでは、という手応えを強く感じました。
Q ダンスにはどのような可能性があると思いますか?
A 今回の企画で、ダンスが、美術、音楽、演劇、パフォーマンスといったジャンルを横断し、混在できる表現として提案できたと思います。今後はさらに、異なる国籍・活動地域・場において、新たなるダンスの可能性や広がりを考えていきたいと思います。