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【視察報告】Re:ブリックス「カラカラ」(演劇)
2016年10月31日

H28年度 助成対象事業・視察報告

 「まずは観客の『生活』に身近であること。現代演劇を創る我々は自分の身近にある、自分と関係の深い事を取り上げ、演劇作品を創造して、観客の心に届けて行きます」。コンブリ団のホームページには、自らの劇団をそう説明しています。今回の上演作品「カラカラ」は、劇団の代表であるはしぐちしんの身近な一人であった劇作家で演出家の深津篤史の作品。2014年に46歳の若さで急逝した深津作品を、彼と交流のあった劇団が再演する「深津篤史演劇祭」の第一弾ともなりました。

キャパ100人程度の老舗小劇場「ウィングフィールド」の、客席はほぼ満員。何の前触れもなく、舞台上に布団が敷かれ、一人の女性がそこに寝そべり漫画を読んでいる。始まったのかと思いきや、時間は上演予定の少し前でした。しばらくすると、作業服を着た2人組が入ってきて、寝そべる女性ごと布団の位置を素早く移動。「カラカラ」が始まります。

この作品は、1995年1月に発生した阪神淡路大震災を機に作られたもので、同年5月に発表。災害後の避難所を舞台に描かれています。演出は岐阜県に本拠地を置くジャブジャブサーキットのはせひろいち氏。

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登場人物は、白い衣装の3人、避難所の小学校でゴロゴロ漫画を読む女性、その兄、友達。白い衣装の3人は、どうやら生きている人ではなさそう。3人は子どもとその宿題を見守る車いすの男(はしぐち)、若い女性。どのような関係でそこに集まったのかは定かではありませんが、始終動き回る車いすから聞こえる「カラカラ」が心地よく、そして効果的で、なんとなくその関係や現実と虚実の世界をつないでいるように思えました。

 避難所の不自由さ、車いすに乗るという不自由さ、あの世とこの世を分けるでも結びでもなく、完全に乾いてしまった音ではなく響く「カラカラ」の音がほんのり人の温かみを感じたりもしました。

 大道具などは特になく、舞台の天井につるされた格子状のバトンが揺れることで、余震を感じさせるなどの演出となっており、その場面の状況はよく把握できるものとなっていました。車いすの「カラカラ」の音も有効に使われていました。もう少しスタイリッシュなシンプルさがあると、深津氏の余白の多い戯曲により思いを馳せることができたのではないかとは思いました。

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芝居後には戯曲のリーディングとアフタートークの場が設けられていました。リーディングは、目の前に繰り広げられていた芝居を観た後に体験するからか、深津作品だからなのか、非常に想像力を掻き立てられるものとなっていて、今回の「深津作品を楽しむ」という上で非常に有効であした。また、全く違う劇団の作家や演出家を交えて行うアフタートークは、それぞれの解釈の仕方の違いなどを知ることができ、より芝居を楽しむことができました。

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀