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活動報告

【活動報告】一般社団法人HMP「アラビアの夜」(演劇)
2017年6月27日

概要:助成対象の「アラビアの夜」は、2014年に初演され、演出の笠井友仁が平成26年度文化庁芸術祭新人賞を受賞した作品の再演です。原作はドイツの劇作家ローラント・シンメルプフェニヒの現代戯曲。エイチエムピー・シアターカンパニーは、海外の同時代の戯曲の上演にも取り組み高い評価を得ています。

5人のモノローグが絡み合う物語で、セリフのやり取りを軸に展開するストーリーではなく、自己のつぶやきに着目した作風となっています。「語りの演劇」といわれるこの手法は、近年ヨーロッパで注目を集めているもので、俳優が場面・描写も含めて「物語る」という原初的なパフォーマンスによって演劇の役柄が次々と示されていきます。

 

視察報告:会場となったのは、インディペンデントシアター1st。もともと純然たる劇場ではなく、利用する劇団・アーティスト、観客の意見を受け止め、必要な部分、可能な場所から改装を重ね続け、進化し続けているスペースです。進化といえば、この「アラビアの夜」も同様です。2013年4月と7月に原作のリーディングを重ね、翌年11月に上演。当時はAチームとBチームに分かれての連続上演となりました。Aチームは戯曲をあまりいじらず、Bチームでは場所や人物をベルリンから一気に大阪へ移しての演出となりました。これを受けて演出家の笠井氏は平成26年度文化庁芸術祭新人賞を受賞、劇団としても新たな試みの第一歩となったようです。初演から3年、進化を遂げてこの度の上演となりました。今回もチームに分かれての連続上演です。

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視察者は「アラビアチーム」しか観劇できなかったのですが、台詞、場所や登場人物は同じであるが視点を違えての演出となり、全く違った作品として仕上がったようです。

役者はステージ中央あたりで、ほぼ動くことはなく、セリフを言い終わっては静止し、次に別の役者が台詞を発するといった演出でした。大道具や小道具はなく、しかしながら、アパートの上階から階下へ降りていく様子や張り巡らされた水道管の様子、部屋の間取りなど、流れる空気までもが役者のモノローグによって克明に描写され、その情景が目に浮かぶようでした。

戯曲自体が現実とファンタジーの境が融解したものであることと、舞台上に何もないという演出が相まって、更に幻想的な仕上がりになり、何とも言えない心地よさが漂いました。(物語はシリアスである)

必要以上に詳細なト書きが、すべてそのまま台詞となって役者が語り、しかもそれが断片的に同時進行で重ねられていく本公演では役者の力量も問われるものになったと思われます。ベテランがそろうアラビアチームはチーム力を、若手中心で組まれたナイトチームではそれぞれの個性が光る公演になったようです。

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戯曲そのものも力のある魅力的なものですが、演出家の視点や実験的な試みにより、物語が多面的にとらえられるという演出を一つの劇団が同時に上演するというこの手法は、見せる方だけでなく、観客にとっても今後の演劇の新たな方向性を模索できるものになったと思われます。

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀


助成対象者へのインタビュー


Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

今回は、2014年に上演した『アラビアの夜』を新演出で創作しました。

『アラビアの夜』の作者ローラント・シンメルプフェニヒは自らの作風を「語りの演劇」と呼んでいます。スペクタクルな演出を避けて、俳優の語りに重きを置き、豊かなドラマを象る「語りの演劇」は演じている役(キャラクター)と演じている俳優(プレイヤー)の個性が重なり、虚実入り乱れた世界を作り出します。

2014年の初演時はマンションに見立てた舞台装置を使い、キャラクター同士の関係性やマンション内外の位置を分かりやすく演出しました。しかし、マンションに見立てた舞台装置を設置することで、俳優はキャラクターを演じる時間が比較的長くなってしまいました。

今回の演出は舞台装置をよりシンプルにすることで、キャラクターとプレイヤーの境界線が揺らぎ、虚実入り乱れるシンメルプフェニヒの「語りの演劇」の魅力をより引き出そうと試みました。

 

Q2:お客様の反応

観客それぞれの想像力に委ねることで様々な解釈ができることにつながり、鑑賞者同士で作品を推察するということがロビーでの鑑賞者同士の会話の中やtwitter上で起きました。

アンケートの多くで、面白かったなど前向きな評価をいただきました。また俳優の身体性について、演出についての評価が高かったと思います。

 

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

本来の戯曲の面白さを引き出す演出・演技ができました。また、同じ戯曲をいくつものパターンで演出するというみせ方をすることで、演出の役割や凄さを見せることができ、演劇の面白さや可能性を提示することができました。

そしてSNSで分かったことですが、当劇団の上演をご覧になられたお客様が、ちょうど6月の頭に東京で別の劇団が「アラビアの夜」を上演するという情報をご自身で見つけられ、その公演にも足を運ばれました。当劇団の公演をきっかけに、他の劇団や作品、演劇全体により興味を持っていただいたようです。

私たちが目指す1つとして、現代演劇の知識の有無に関係なく、より広く演劇に馴染みのない人にも、演劇の面白さを伝えるということが達成できたと思います。

メディアへの掲載ですが、日経新聞 夕刊(2017年4月12日)やテアトロ6月号(2017年5月13日発売)に劇評が掲載されました。

 

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

関西は特に海外の現代戯曲が上演されることが少なく、また広報の問題もありますが、なかなか観客動員が難しいです。今回、助成金を得られたことで、前回文化庁芸術祭の新人賞(演出)を受賞し、評価も高かった作品を再演し、広く告知することができ、特に若い世代の方々にご覧いただくことができたことが大きな成果でした。また、パトロンプログラムで劇団のことを知らない方々にもご覧いただけました。

そして公演前にASKの助成金をいただけたことで、経済的な心配をあまりせずにいられたことで、創作に力を注ぐことができ、新たな演出での上演がうまくできたと思います。

 

Q5:今後の展望

劇団のミッションである「再発見」を軸に、よりよい作品を創作し、届けるだけでなく、演劇を親しんでくださる方を増やすための取組やそれを意識した創作・上演を行っていきたいと思います。

例えば、同じ戯曲を、演出を変えて上演することで、演出の可能性、戯曲の魅力、そして俳優の凄さを届け、演劇の魅力や楽しさを伝えていきたいです。

 

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

公演前に助成金をいただけるという取組は今後も続けてほしいです。

直接的なお金の援助だけでなく、場所の提供などお金ではない支援の可能性もあるのかなと思います。レポートしていただくというのも1つの支援のあり方でとっても素敵だと思いますので、大変だと思いますが、今後も続けてほしいです。

 

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

私たちにとって1番嬉しいのは、やっぱり作品を観ていただくことです。観ていただき、色んなご意見をいただけたらそれが励みになります。

そして気に入ってくださったのであれば、どうか演劇の愉しさを広めていただけると嬉しいです。

【活動報告】特定非営利活動法人劇研「走りながら眠れ」(演劇)
2017年6月27日

H28年度 助成対象事業・視察報告

特定非営利活動法人劇研「走りながら眠れ」

概要:特定非営利活動法人劇研は、スペースの運営をディレクター(芸術監督)が中心となって行う体制をとっており、2014年より、劇作家で演出家のあごうさとしが就任しています。

助成対象となっている公演は、平田オリザ作、あごうさとし演出による「走りながら眠れ」で、大正時代のアナキスト、大杉栄とその妻の伊藤野枝の最期の2か月間を描いた会話劇です。演ずるに難いこの作品を、あえて俳優ではなく2人のダンサーが演じるという、実験的なものになりました。

 

視察報告:会場となった「アトリエ劇研」は1984年に館長・波多野茂彌の自宅を改装し「アートスペース無門館」としてオープンした小劇場で、京都小劇場の草分けとして30年以上にわたり多彩な舞台人を多く輩出してきました。

今回の公演については、あえてダンサーである2人を起用し、しかも会話劇として成立させていくという、興味深いものでした。

演出を手掛けるあごう氏も公演前に「ダンサーの身体表現を目指すのではなく、ダンサーの身体を資源として、粛々と、会話の演技でたちあげてみようと思う」と述べていました。

さて、幕が上がり、本来ダンサーである2人の「芝居」が始まりました。

特に何が起こるわけでもなく、静かに淡々と物語は進みます。舞台上の2人はダンサーであるにもかかわらず、いわゆる身体的な技術を用いた表現は一切なく、ただただ会話が繰り返されるのみです。

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当時とても異質な人物として周りから見られていたであろう舞台上の大正時代のアナキストとその妻の様子がとてもほほえましく描かれ、キュートで愛おしく思いました。川瀬演じる伊藤の目には時折鋭さも覗き、不思議な距離感がある2人の関係性や不穏な社会の空気が示唆されます。

 

特に細かい演出や台詞回しなどがあるわけでもなく、日常が繰り広げられているだけにも関わらず、人間性を掘り下げていくような表現ができたのは、実は、ダンサーの身体の所以なのではなかったのだろうかと思いました。ゆるぎない身体であるからこそ、そこから発せられる台詞が、時には鋭く、時には柔らかく、しかし同時にはっきりと観客に届けられ、微妙な感情のゆらぎまでもがそれに連動し伝わってくるからではないでしょうか。

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最近、ダンサーが俳優として芝居に登場するということはしばしば目にしますが、これほど、ダンサーらしくなく、しかし実はダンサーらしい(身体が作られていないとできない)演出に、今後の演劇の可能性を感じました。

アーツサポート関西 事務局 柳本 牧紀


助成対象者へのインタビュー

助成対象者へのインタビュー NPO劇研/アトリエ劇研 あごうさとし 長澤慶太

Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

この度は、出演者にダンサー2人を起用したため、稽古は2015年11月から開始しました。できうるかぎり入念な稽古を重ねて、通常の俳優が演じるものと遜色のないように努力を重ねました。この取り組みを下敷きに、ダンサーの身体を応用した新たな演劇作品がつくられるよう努力を重ねたいと思います。

Q2:お客様の反応

動員247人のうち、36枚のアンケートを回収。

概ね好評を頂いたように感じます。以下、2つ引用します。

「ひきこまれました。本当に2人が生きているのを感じました」

「会話がスムーズすぎて、日常ってそこまで大事か?とおしつけがましさというか、気持ち悪さを憶えました」

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

継続的な目的として掲げているダンサーを俳優並の技術をつけさせるという点において、今回の2人のダンサーは一定の成果をだしたと思います。ロボット演劇の経験で得た演技プランの可視化は、演技指導の具体化として実践の場で応用が可能であることを確認できました。

メディア掲載

ステージナタリー

http://natalie.mu/stage/news/210542

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

3つ揃えの白いスーツを仕立てたり、古い美術道具をそろえられたり、本物でないとクオリティにかかわるものをそろえさせて頂けました。おかげさまで、極めてシンプルな舞台空間を創出することが可能となりました。

Q5:今後の展望

継続的に創作している無人劇と連動させながら、ダンサーと俳優のプロジェクトチームをつくり、テーマとしてる「純粋言語」「純粋身体」という概念を具体化していきたいと考えています。次回は本年7月にダンサーと俳優の混成チームによる「リチャード三世」を上演予定です。

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

個別の事業助成をいただけるだけでも大変ありがたいのですが、わがままを申し上げますと、複数年にわたる劇場への直接助成という枠をいただけると大変ありがたく思います。

企画の段階から、共同で立ち上げていけるような仕組みもあるとありがたいです。

今夏、アトリエ劇研は閉館いたしますが、新たに東九条地域に100席サイズのスタジオを設立できないか、目下挑戦をつづけております。小劇場は、舞台芸術における創造環境の最も基礎的なインフラであるかとも思います。今後とも、ご指導をいただけますれば大変有り難く存じます。

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

寄付をいただいておりまして、本当にありがとうございます。願わくば、各上演にも可能な限り足をお運びいただけますと大変嬉しく存じます。また、上演の機会以外にも、サポーターの方、事務局の皆様方とも、お会い出来たり交流を持たせていただけるような場を与えていただけましたら、大変有り難く存じます。

【活動報告】モンゴルズシアターカンパニー(演劇)
2016年9月8日

活動概要:モンゴルズシアターカンパニーは、特定の団員を持たず、公演ごとにふさわしいメンバーを配置するという方法で、様々な場所で公演を行うユニットです。「鼠-2016-」は2015年日本劇作家協会主催の短編演劇祭「劇王天下統一大会2015」で唯一関西代表に選ばれて上演された作品「鼠」を、若手演出家の雄―笠井友仁を迎えて長編作品として再編成されたものです。

スタッフの視察報告:会場となる大阪市中崎町のイロリムラプチホールは、入ってまずその小ささに驚かされます。舞台には大道具はなく、小さなホワイトキューブに約20名程度の客席がひな壇に設けられていました。大きな劇場では表現できなかった地下鉄のホーム下の雰囲気を演出するために、この劇場が選ばれたようです。前回の公演で400名もの来場者があったこともあり、公演は2週間に及び全18回上演されました。

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ストーリーは、ある春の日の午後、ラッシュ時を過ぎた地下鉄のホームでの飛び込み自殺による非常制御スイッチ起動での停電した3分後から始まります。舞台は駅のホーム下の退避場所。駅員2人の会話劇として構成されており、それぞれの駅員の関係性や過去が次々に明らかになっていきます。

エピソードを少し盛り込みすぎの感はありましたが、もともと駅員1が運転士をしていたこと、駅員2の弟が飛び込み自殺を図ったことなど、とりとめのない会話の中からそれぞれの現在・過去が浮かび上がります。そして、タイトルとなる「鼠」のエピソードも。

演出を手掛けた笠井友仁は「空間」「身体」「音」にこだわった独特の世界観をもつと評され、小さなホワイトキューブをうまくホーム下の空間へとしあげており、また文字や影が効果的に使われていました。

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公演終了後は、隣のカフェでささやかな交流の場がセッティングされており、観劇後にお客さん同士、またはお客さんと演出家、脚本家、出演者などとの意見交流ができる仕組みになっていました。

「あの場面がおもしろかった」「前回と今回では何がちがったのか?」「あの場面での演出はわざとなのか?」など、様々な会話や意見が酌み交わされていました。

アーツサポート関西 事務局 柳本牧紀


 

モンゴルズシアターカンパニー主宰・増田雄さんに聞く

Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

大阪市北区の文化発信として、たくさんの地域からの来場者があったことがとても嬉しく思います。今回の上演場所であるイロリムラが、多くの方々に知ってもらったこと、そして面白がって頂いたことが良かったです。

 

Q2:お客様の反応はいかがでしたか?

アンケート回収率70%、内【大変良かった 115名】【良かった 83名】【ふつう 4名】【つまらなかった 1名】【その他(感想文のみ)20名】と非常に評価が高く感じられました。

 

Q3:自己評価、メディアへの掲載なども含め、どのような成果が得られましたか?

終演後も、ワールドカフェなどお客様一人一人の意見を聞く場を設けることで作品の理解、改善点、交流を通しての共有がなされたことが最大の成果です。普段は金銭の関係で三日ほどの公演しか出来なかったことに比べ、今回は二週間もの上演が実現し、いつもは来ることの出来ない大阪、東京、広島、海外からのお客様が多く来場された。また、日を増すごとに作品の噂を聞きつけ来場される方が増え、自団体の宣伝にも繋がりました。作品のクオリティーも長期間で向上し、今後の創作においてのすステップアップにつながったと思います。

 

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

費用を前入金頂くことで素早い対応が可能となりました。寄付という形態がアーティストにとって良い意味でのプレッシャー、かつ自信に繋がり、創作する上での精神的な支えになったと思います。

 

Q5:今後の展望

私たちのユニットは、演劇が社会とどう関わり、どう影響を及ぼすかを具体的に考えながら活動を行って参りました。演劇の上演だけでなく、人と人が結びつき、違う価値観を共有し合える場の提供をすることで、観客自らが参加し、創作出来るイベント作りを今後も企画していきたいと思います。

次回は演劇という媒体が持つ客観性を活かした舞台作品を考えています。内容として、50分ほどの戯曲を1度の公演で2回上演します。最初は深刻な物語として、2回目の上演は雰囲気を一変しコミカルな物語として描きます。同じセリフでありながら、演出を変えるだけでその状況は全く違うものになることを訴えると同時に、演出や戯曲といった一般的には馴染みのない役職へ目を向けてもらうことで、演劇の魅力を伝えたいと思います。

ASKサポーター感謝のつどい
2016年4月20日

2016年3月23日、大阪能楽会館および梅田クリスタルホールにて、「ASKサポーター感謝のつどい」が行われました。

当日は、サポーターをはじめ関西で活動する芸術・文化関係者など約350人が集まり、大阪能楽会館の能舞台で行われた、アーツサポート関西の支援を受けた(または、これから受ける)方々による、クラシック演奏や文楽のパフォーマンスを鑑賞しました。その後、隣接する梅田クリスタルホールに会場を移して交流パーティを行いました。

交流パーティでは、芸術・文化関係者による11のブースが出展され、多くの参加者がそれぞれのブースを回り、出展者たちの声に熱心に耳を傾けていました。パーティでは、ご協賛企業からいただいた豪華賞品があたるチャリティ福引抽選会が行われ、そのチケットの売上約20万円のうちの30%にあたる額が、参加者の投票で最も多くの票を集めた関西フィルハーモニー管弦楽団に贈られることとなり、目録の授与の際には会場から大きな拍手が沸き起こりました。

アーツサポート関西の鳥井運営委員長は「よってたかって支援をする、を合言葉として、市民が広く文化を支援していくことが大切である」と述べ、関西経済同友会の蔭山代表幹事は「芸術・文化への理解があることが関西の企業の特徴であり、勇気をもって文化を支援していくべき。そのため寄付型自販機の推進に、同友会として取り組んでいく」と話していました。

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ANTIBODIES Collective ーDUGONG(元・立誠小学校)
2015年10月24日

活動概要: 音楽、映像、舞台美術等をユニークな手法で取り込んだ先鋭的なダンス公演。古い小学校内部全体を使い、パフォーマーが観客と入り混じりながら上演。旧名称はBABY-Q。

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Antibodies Collective公演風景          写真:井上嘉和

スタッフの視察報告:古い小学校(旧・立誠小学校)が会場で、ステージを設けず、講堂のような広い部屋、教室、廊下などの小学校の校舎全体が舞台です。観客は100人弱、演者が、観客の間を縫って動きまわります。特にストーリーはなく、ロングドレスの女性が背筋を伸ばして遠くを見ながら颯爽と歩き、軍服姿の男はグースウォーク、おかめの面を付けた女性は腰をかがめて踊るように動き回ります。ミニドレスの女性は、2人がペアで歩き、時々取っ組み合いのけんかをしながら移動していきます。10数人の演者は、それぞれが常に独自の動きをしながら移動しています。観客もいつの間にか演者に引きずられるように、さまざまな部屋へと誘われて行き、教室や廊下の間を回遊しています。こうした動きの中では、他の観客を演者かと思わされてしまう瞬間が、度々ありました。映像、照明、音、様々な物体、装置、演者の動きなどで構成された空間を、誰に指示されるわけでもなく、かと言って自分の意志だけで動いていたわけでもなく、ハーメルンの笛吹男に導かれた子供のように学校内のあちらこちらを連れまわされ、摩訶不思議な、時間と空間を体験させてもらいました。(視察日 10/24)

 

代表の東野祥子さんに聞く:
Q 今回の公演での取組みはいかがでしたか?
A 今回は横浜、京都の2カ所での公演であったため、移動費が予想以上にかかりましたが、どちらも大掛かりな空間を想定し、舞台美術や音響、照明などにこだわりました。また、今回チャレンジした観客に交じって上演する回遊型の公演は、演出部分で苦労しましたが、観客の方々からは新しい舞台空間の体験として、たくさんの好評をいただきました。
Q アーツサポート関西助成金70万円で可能になったことは?
A 東京から多くのダンサーやスタッフを招聘できました。また、舞台美術や音響、映像、照明、特殊美術などにより多くの予算を振り分けられましたし、作品の紹介ビデオ用にヴィジュアルイメージとして最先端のアニメーションを制作することもできました。

維新派 トワイライト(奈良県・曽爾村健民運動場)
2015年9月24日

活動概要: 大阪を拠点に国際的にも高い評価を得ている維新派の新作「トワイライト」の野外公演。奈良県曽爾村の雄大な自然を背景に、特設された野外劇場で上演された。

維新派 新作公演「トワイライト」
維新派 新作公演「トワイライト」

スタッフの視察報告:公演の舞台となったのは野外の広いグランドで、そこに500席余りの客席が階段状に設置されており、グランドの背後には兜岳、鎧岳の異形の山塊が薄暮の中に見通せます。少し肌寒い秋の夜風に自然が感じられます。公演の時間は約2時間で、名前が与えられた登場人物は、ワタルという少年とハルという少女、それにキーヤンと呼ばれる男の3人です。そのほかの40人ほどの登場人物たちは、集団として言葉を発し行動します。集団の発する言葉は、地名や体の部位の名前、道に関わる言葉、囃子言葉など短い言葉の連続で、しかもその言葉を独特のリズムで発し、全員で同じ動きをします。明確なストーリーがある訳ではありませんが、セリフや動き、全体の流れ、ワタル、ハル、キーヤンの発する言葉の中から、人それぞれに意味を持つ土地や地図、道や別れ道などがテーマとして浮かんできたように思います。観客には、遠いところまで時間をかけて足を運ばせて、室生火山群の異形の大自然の中に招き入れるという、それ自体がすでに見る人たちを引き付ける手段で、グランドの舞台では、独特の言葉とリズム、統制のとれた動きなどで観客を引き込むというこの公演の手法は見事だと思わされました。(視察日 9/24)

運営担当者の清水翼さんに聞く:  
Q 今回の曽爾村での公演に向けての取組みはいかがでしたか?
A この公演では、私たちも知らなかった曽爾村という場所への集客が課題でした。事前に曽爾村で役者の写真を撮影し、曽爾のイメージを具体的に打ち出すことで、維新派流の風景との出会いを演出し、お客さん自身に曽爾の風景との出会いを楽しんでもらえるような、想像の余白を提供しました。
Q ASKの助成金100万円で可能になったことは?
A 現地での告知用写真の撮影以外にも、運営体制やチケッティングなど、これまでとは異なった対応をしなければならない部分があり、助成金によってそうした経費が捻出できました。

タチョナ・プロジェクト KANSAIご近所 映画クラブ(大阪府立江之子島文化芸術創造センターほか)
2015年8月22日

活動概要: フランスの映像作家ミシェル・ゴンドリーのメソッドを使った映像ワークショップ。少人数のグループが企画から撮影までを数時間で行い、映像制作と同時にコミュニケーション・スキルを高める。

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スタッフの視察報告: タチョナ(touch on art)の映画制作ワークショップは、伊丹、淡路島、鳥取、大阪の4か所で開催され、その総括的な上映会が「えのこじま 仮設 映画館」で行われました。映画を作ると言っても、ワークショップに参加した初心者同士(初対面の場合も多い)が、話し合いながらあらすじを考え、台本を作り、役者として演技をし、カメラを回し、作品を作り上げるというものです。それを、原則、3時間で5分程度の作品に仕上げます。これはフランスの映像作家ミッシェル・ゴンドリーの制作メソッドによるもので、作り手は、小学生や中学生、高校生、一般の人など様々です。上映会では、ドキュメンタリータッチのもの、推理ドラマ的なもの、悩みの相談的なもの、スポーツ根性ものなど、20本以上が上映されました。素人が集まって短い時間で制作するには、コミュニケーションなど、様々な要素が絡み合う難しい作業になろうかと思いますが、最終的にはどのグループも1つの作品を完成させていて、達成感のある楽しい協同作業のように感じました。(視察日 8/22)

代表の小島剛さんに聞く:
Q 今回の取組の成果は?
A 短期集中型で、様々な事例を盛り込んだ実験プログラムになったと思います。また地域ごとにアートセンターやアートに関わる人々と協働できたことで、地域に根付かせる下地作りと共に、今まで以上の「ヨコの繋がり」ができました。
Q ASKの助成金55万円で可能になったことは?
A これまでは大阪や京都の学校教育プログラムと連携してきましたが、今回の助成で、それ以外の地域で実施する広域的プログラムとなりました。また、ファシリテーター養成講座も開催し、ファシリテーターのあり方を考えるためのプログラムを行うことができました。

あべの歌舞伎 晴の会(近鉄アート館)
2015年7月31日

活動概要: 松竹の上方歌舞伎塾1期生3人による歌舞伎公演。あべのハルカスの近鉄アート館で行われた。

新作歌舞伎『浮世咄一夜仇討』左から片岡千次郎、片岡松十郎、片岡千壽
新作歌舞伎『浮世咄一夜仇討』左から片岡千次郎、片岡松十郎、片岡千壽

スタッフの視察報告:  松竹の上方歌舞伎塾1期生の片岡松十郎、片岡千壽、片岡千次郎、3人の舞台です。いずれも門閥の出でなく、自らの意思で歌舞伎役者を目指した役者で、18年目の同期です。舞台の監修は、上方歌舞伎塾で主任講師を務めていた片岡秀太郎。公演は1部が舞踊で、2部は「浮世咄一夜仇討」の構成です。「浮世咄一夜仇討」は新作歌舞伎で、上方落語の「宿屋仇」をもとに作られています。落語が原作だけに、ドタバタ劇の要素もあって、楽しく見られる舞台でした。
舞台装置は小道具として使われた3面に使える衝立ひとつだけ。これを宿屋の女中役、片岡千壽が自ら運んでセットするという演出で、2つの部屋のシーン変わりも上手く芝居の中に取り込んでいました。300席の劇場で芸達者な3人が歌舞伎を演ずる今回の試みは、ファンを楽しませる要素が十分に詰まった企画でした。(視察日 7/31)

企画担当の松原利巳さんに聞く:
Q 今回の舞台に対する3人の取り組みはいかがでしたか?
A 松竹・上方歌舞伎塾の第1期生であるお三方は、三人三様の個性をいかした息のあった取り組みで、三人だけとは思えない新しい上方歌舞伎を見事に作り上げ、第一回のあべの歌舞伎を大成功させてくれました。
Q 今回の公演の成果は?
A 門閥ではない若手歌舞伎俳優が主役を務めた新作歌舞伎は「古典を踏まえ、三面客席の劇場を生かした新しい歌舞伎を創出した」と高い評価をいただき、これからの上方歌舞伎を担う若手歌舞伎俳優たちの新しい目標の一つになったのではないかと思います。

羽曳野少年少女合唱団(羽曳野市民会館)
2015年7月11日

活動概要: 活動43年目を迎える児童合唱団。練習場所が固定できずにいたが、ASKの助成により市民会館で毎回行うことが可能となった。

羽曳野市民会館での練習風景(羽曳野少年少女合唱団)
  羽曳野市民会館での練習風景(羽曳野少年少女合唱団)


スタッフの視察報告:練習場所は羽曳野市民会館3階にある広さ130平米ほどの大会議室。ピアノが常備されています。合唱団の団員は、幼稚園年中組の児童から高校生までの30人で、練習日は、レギュラーでは月3回ですが、大会や演奏会出演の前には、詰めて練習するので、実際には月4回ほどになるということです。練習中は合唱団OGの大学生も指導の補助に入っています。振りのついた曲などでは、この大学生が中心となって、高校生の団員らもアイデアを出し合いながら、楽しい振付を考えていました。団員たちは、年齢差がありながらも、年上の団員が幼稚園や小学校低学年の後輩たちをうまく指導し、皆が楽しそうに練習していました。また、初めての曲でも初見からちゃんと声を出し、みるみる上達していて、少年少女時代にきちんとした指導を受けながら、練習することの大切さを知らされました。(視察日 7/11)

指導者の中野彰さんに聞く:
Q 子どもたちを指導する中で大切にしていることは何でしょうか?
A 音楽的技術はもちろんですが、音楽を心の友として愛し、豊かな人生が送れる人間に育つことを願って、①楽しくのびのびと(心と体の解放)、②心のハーモニーを大切に(心と心を合せて美しいハーモニーを)、③感動する心(感動体験の共有)の3点を心がけています。

Q 子どもたちが最も嬉しいと感じる時はどんな時でしょうか?
A 何度も何度も練習して美しいハーモニーが生まれたとき、むつかしくて苦労した曲がうまく表現できたとき、思うように声が出たときなど、成功感や達成感を味わったときです。発表会で、自分たちが創り上げた音楽なのだ!自分たちで歌ったのだ!という喜びと、聴いてもらったという感動で心が満たされたとき、子どもたちの顔や目は輝いています。