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活動報告

【活動報告】ハイライトシーン(美術)
2016年9月15日

H28年度 助成対象事業・視察報告

現代美術のグループ展「ハイライトシーン」

活動概要:「ハイライトシーン」は、京都国立近代美術館の研究補佐員で美術館外でもさまざまな展覧会を手掛ける若手キュレーター平田剛志氏の自主企画により、大洲大作、中島麦、竹中美幸の3名の作家が参加して5月4日~5月22日にかけて京都のGallery PARCで開催された現代美術のグループ展です。展覧会のテーマ「ハイライト」を、さまざまな形で想起させる写真、絵画、立体作品で構成されています。アーツサポート関西では、この展覧会に30万円を助成しました。

スタッフの視察報告:会場となったGallery PARCは、京都の三条通沿いの繁華街の中心にある民間のギャラリーで「グランマーブル」というブランドでデニッシュを販売する会社が運営しており、最近目立ってきた京都の企業によるアート活動の一つでもあります。

会場は、コンクリート打ちっぱなしの壁面に大きな窓ガラスがつけられた変則的な空間で、そこに白い仮設壁面を建てて展示が行われていました。

highlight1

会場風景 竹中美幸の作品(右手奥)、大洲大作と中島麦の作品(左壁面)

 

写真を手掛ける大洲大作の作品は、対象を抽象的にとらえ、その色彩や形態をシンプルな要素に還元させていくような写真作品で、写真でありながら作家の造形的な恣意性が強く表れたものとなっています。中島麦の作品は、キャンバス上に細かな絵具の滴を無数に垂らしていくドリッピングによる絵画で、多様な色彩が幾重にも複雑に重なりあい、その偶然がもたらす色同士の反撥や飛沫の形態の妙などが絵画的な様相を際立たせています。

竹中美幸は、暗室で感光させた35ミリフィルムを天井から多数つりさげ、背後の大きな窓から差し込み光が淡い色を帯びて透過するスクリーン状のインスタレーション作品を展示しました。

highlight2 大洲大作 夏の光I(左)、冬の光II(右)

 

本展の作品の間には視覚的に穏やかな連携性があり、その点は評価されるべきものだと思います。一方、展覧会の解説文などで「ハイライト」という言葉を、物事の重要な部分を示すもの、および照り返された強い光という「強度」としてとらえていながら、展示作品が見せる比較的「おとなしい」印象との間に、ギャップがあるようにも思いました。

アーツサポート関西 事務局 大島賛都


 

「ハイライトシーン」キュレーターの平田剛志さんに聞く

Q1:今回の「助成対象事業」に向けての取り組みはいかがでしたか?

私たちは「ハイライトシーン」に何を見ているのか。映像や作品の見せ場を指して用いられる「ハイライトシーン」と美術表現における技法「ハイライト」の意味するものは何なのか。「ハイライト」をめぐるさまざまな「光」の在りようを、写真、インスタレーション、絵画という異なる美術作品を通じて考察する展覧会を実現できました。加えて、殺伐とした「ハイライト(シーン)」なき現代にとって、「ハイライト」を自分自身でつくることができたのは得難い経験でした。

 

Q2:お客様の反応

17日間の会期で710名の来場を得ることができました。当初目標には及びませんでしたが、有名作家による展覧会ではない本展に700名以上の来場者数があったことは評価できる結果でした。

会期中に開催されていた「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2016」との連携はありませんでしたが、「光」や写真など共通点もあり、本展と合わせて鑑賞する来場者が多く見られました。

「ハイライト(光)」という日常的にも専門的にも普遍的なテーマを設定したことで、来場された方々から、さまざま批評、感想をいただくことができました。それにより、光とは記憶や経験であり、人それぞれの「ハイライトシーン」が隠れていると気づきました。

 

Q3:どのような成果が得られたか?(自己評価、メディアへの掲載など)

本展は、会場に合わせた新作が多く、事前に「ハイライトシーン」を編集、想定できない不安がありましたが、結果的には各作家の作品が相互に反射、反映(ハイライト)した光に満ちた空間となりました。5月の光の強さと相まって、鑑賞者を含んだ展示空間そのものが「ハイ-ライトシーン」でした。

会期末の5月21日には、京都新聞朝刊にアートライターの小吹隆文氏が本展レビューを寄稿して頂きました。

 

Q4:ASKの助成金により可能になったことは?

出品作家2名が関東在住だったため、展示に関わる搬入出、作品輸送、宿泊が可能となりました。個人では負担が大きく、経済的、体力的に万全の態勢で設営や搬出を行えました。余談ですが、キュレーターと各作家とのやりとりは頻繁にあったものの、出品作家全員が揃うのは設営当日となり、搬入・設営がまさに本展の一つの「ハイライト」でした。作家が自身で設営に立ち会い、現場で生まれたアイデアを形にできたことはすばらしい経験でした。

 

Q5:今後の展望

これまで「光」をテーマとした展覧会「光路」(2015年、大阪)と本展「High-Light Scene」の開催を通じて、さまざまな美術作品に見られる現象学的、光学的な「光」を検証してきました。

今後は、「光」から「色」へと視点を広げ、光の三原色(赤、緑、青)3部作の展覧会を構想・準備しています。光や色は誰もが知っていながら、その思考や概念に幅があります。展覧会を通じて、光の三原色をプライマリーに思考することで、芸術作品にとって三原色とは何なのか、世界や日常に「色」を見る(ある)こと、色彩の感受・知覚へと還元していきたいと考えています。

 

Q6:ASK助成(制度)に望むこと

末永く継続を望みます。

 

Q7:サポーター(寄附者)に望むこと

助成対象者に引き続き、ご注目ご支援を頂ければ幸いです。