トップ >お知らせ

お知らせ

【視察報告】燈(美術)
2016年10月13日

H28年度 助成対象事業・視察報告

濱脇奏 個展「燈」

現在、ドイツのデュッセルドルフ美術アカデミーで学ぶ、同アカデミー3回生の濱脇奏さんによる個展「燈」が、加古川市にある「あかりの鹿児資料館」で開催されました。アーツサポート関西はこの展覧会に30万円を助成しました。

濱脇さんは、高校まで神戸で過ごし、高校時代からドイツの美術大学受験を視野にいれて独自にドイツ語を学習し、高校卒業後に渡欧。そしてドイツの大学受験に挑み、見事、世界で最も重要な美術大学の一つと言われるデュッセルドルフ美術アカデミーに入学しました。この大学は、ヨゼフ・ボイスなど今日の現代美術の礎を築いた世界的に著名なアーティストを多数輩出している学校として有名で、教える教師陣も、世界の第一線で活躍するスーパースター級のアーティストがずらりと並ぶ豪華な顔ぶれです。美術の世界において海外の大学で学ぶ日本人学生は少なくはありませんが、その多くが、日本の美大を出てから大学院に転入するケースが多い中、日本の高校で語学の習得からとりかかり、学部から海外の大学で勉強する方はあまり多くはありません。それだけに濱脇さんの進路選択には、美術やご自分の将来にむけた強い信念が感じられます。

会場となったあかりの鹿児資料館は、民間企業が運営する私設の博物館で、会社の創業時にランプを取り扱ったことなどから、国内外のランプや照明器具に関する様々な資料などを多数収集・展示しています。今回の濱脇さんの展覧会は、以前、加古川の別のギャラリーで開催された濱脇さんの個展をみた学芸員が開催を持掛ける形で実現したもので、この博物館の特別展示室で開催されました。

特別展示室は、正方形の形をした50㎡ほどの広さの空間で、壁面は展示用のガラス陳列ケースで占められています。濱脇さんは、ここの壁面に絵画を掛けるわけでもなく、また、ケースに立体作品を置くのでもなく、壁面のガラス陳列ケースそのものを作品化することを考え、この場所特有の、いわゆるインスタレーションと呼ばれる空間的な作品を展示しました。

dscf2699

ただ単に「燈」と名付けられた作品の構造はとてもシンプルで、腰高から天井近くまであるガラスケースの内部全体に、透明のアクリル板を設置し、その全面に黒いテープで斜方向に整然と並ぶ黒いストライプを表現しました。アクリル板の背後には、ブルーとオレンジの光を発する照明器具を配置し、その光によって陳列ケースの中で黒いストライプが空間の中に浮かび上がります。特に、ガラスケースが直角に交わる角の部分では、角を挟む左右の表面ガラスにストライプやガラスそのものが映り込み、非常に複雑な視覚的な効果が生まれます。

「展示室には、今では見かけないガラスの展示ケースがL時状に対面に配置されている。ガラスの性質上、光の差し込む方向で反射や湾曲や屈折や映り込みがおこる。それをうまく利用して、オレンジと青を対面に配置することで、青側には対面側のオレンジの光が映り込み、奥へ奥へと光が続いていき、奥行きがあるような錯覚をおこすことができる。」「床にも天井にもその光が反射するため、左右前後にあわせ天井と床の上下にまでわたる2~3倍もの広がりのある部屋が出来上がり、別世界を想像させる。」(主催者の報告書より)

dscf2740

 

dscf2732

濱脇さんはこの展示のために、今年前半に日本に帰国した際、現場を訪れ、「あかり」の博物館であることの場所の意味や展示ケースの壁面で構成されている部屋の空間的特性、それに加えて、普段ドイツにいることによる時間的・作業的な制約、そして予算などを検討し、このプランを考案したということです。

視察者の印象として、まず実現可能性を前提とし、非常にシンプルな手法で極めて大きな視覚的効果を生み出している部分に、物事の多様な側面をトータルに検討・判断しながら、そこから高い表現性を導き出す、アーティストとしての思慮深さ、もしくは「懐の深さ」のようなものを感じました。そこに未熟な意識のブレはなく、ベテランの作家がその効果の余韻を自ら楽しむような円熟的な佇まいすら感じれ、この若い作家が潜在的に宿すスケールの一旦を垣間見た気がしました。

アーツサポート関西の今年度の助成の基準は、高い水準を有するアーティストを見出し、光を当てることとしていますが、濱脇さんはまさにその基準に見事に合致するアーティストとして、アーツサポート関西としても、今後大いに期待を寄せながらその活動を見守っていきたいと考えています。

アーツサポート関西 事務局 大島賛都